風邪ひき
外ではしとしと雨が降っている。
汗ばんだ体が気持ち悪い。
「お粥できたわよー」
長期休暇を入れてたと言う姉さんが笑う。まとめての休暇を取らなきゃいけないんだって。旅行予定とか良いのかと聞いたら「実家に帰ってるわ」と返ってきた。
風邪をひいて一人きりを思うと姉さんの存在がとても、とても心強かった。
だから、少し心配。風邪をうつしちゃわなきゃいいけど。
「食べれそう? インフルエンザじゃなくて良かったけど、辛いよねー」
なんとか、体を起して息を吐いた。
「はい、あーん」
食欲がなくて美味しそうと思えないお粥をなんとか口に含む。なにか、おかしかった。息苦しく滲む視界。
「ミキねぇ! なにやったんだよ!」
ユウの声が聞こえた。
私はタオルで口元を抑え、ただむせていた。
「わさび粥よ!」
ユウに応える姉さんの動揺しつつも堂々とした声。テンパってるならもう少し対応にためらいを持ってほしいよ。
普段は好きだけど今はダメ。
ユウと姉さんは他にも言い合っていたけれど、聞いている余裕がない。病人の横で喧嘩しないで。
食事の後、姉さんが何か言いながら汗を拭いてくれた。
「入るぞ」
「ちょい待ちー」
姉さんがユウをとどめて服を替えてくれる。じっとりと汗ばんでいない乾いた生地は心地よかった。
ユウが作ってくれたのはたまご粥。
デザートにバナナアイスとミカン。口とおなかに優しくてほっとした。泣きそうなくらいに。
「ありがとう」
ユウにお礼を告げるとそっぽ向かれた。
「……ばーか。早くよくなればいいんだよ」
「ツンデレか?」
姉さんうるさい。
ユウが反応して騒ぎかけたけど、自重したみたい。
「ふたりともありがとう。おやすみなさい」
ご飯を食べて着替えただけなのに疲れたらしく、瞼が重い。
「おやすみ。早くよくなれよ」
ユウの声を導きに甘い夢を見る。
たくさんのスイーツ。甘酸っぱい苺。
ふと気がついた間接キス。
なんてことないように振る舞って、ねえ。
気がつかないでね。兄さんも姉さんもナオさんも、一番はユウ。
ねぇ。
こんな思いは、
きっと、
夢。
眠る眠る。体が睡眠を求めてる。
『素直になりなよ』
ああ、フミの声が聞こえる気がする。
熱のまどろみ。夢うつつ。
フミがいないのに。ユウはフミが好きなのに。
『フミの方が好きなユウ』を私はそれでもいいって言えるかな?
ズルいよ。フミ。
『俺はセキが好きだよ』
ユウにそう囁かれる夢から醒めて体を起こす。
暗い室内には私だけ。
「ああ、やっぱり夢だぁ」
小さく呟けば軋むような痛み。
欲張りな自分が嫌だよ。




