背伸びして大丈夫
霧のような雨が夕暮れをかき消していく。
世界から音が消えた。
一緒に出掛ければ良かった。
同窓会に顔なんか出すんじゃなかった。
ぎゅっと握りしめてくるユウの手が震えてたのを覚えてる。
やるせないいきなりのことに怒っていた兄と姉。
その勢いに泣き出すきっかけを失った私は虚無感だけが残ってた。
だから日常が変わるのを拒絶したの。
かわらないで。
どうか、これ以上壊れていかないで……。
視線を感じてた。心配させたくなくて気がつかないフリをした。
そう、心配される状況に自分がいるのだとわかりたくなかった。
「ごめん」
ユウの言葉。ユウが謝らなきゃいけないことなんてないのに。
あの日から普通に喋れるようになるのに時間がかかった。
半年前にゲームの設定をしてくれるまで何も見ないフリをしてた。
わかってる。
今だってこれまで通りにしようとしたりできなかったりですごく迷惑をかけてる。
わかってる。
フミはユウが好きでいつだって一緒だった。
希望に満ちた未来を語り合ってるのを、いきなり歌いだすのを近くで見てた。
フミがいなくなったのはユウのせいじゃないのに。
あんなごめんを言われたらユウのせいにしたくなる。
なんて身勝手。
私がユウを見るのは間違いだ。
ゆっくりと歩く勤めからの帰り道。ルートは決まりきって外さない。
ユウに罪悪感を覚えさせた運命的なあの日。
はぐれないようにって繋いだ手の温度に体温と鼓動が妙に上がった。
スーパーまで買い物による気にはならなくてコンビニで夕食を買う。
タマゴ、牛乳、お酒。
帰る途中の公園のベンチで袋から取り出す缶チューハイ。
何度かすかりながらも開ける。
カシュッと缶の開く音と軽い炭酸の弾ける音。そっと口をつける。
「セキ、何してんの?」
急にかけられたユウの声にむせて缶を取り落とした。
こぼれる!
濡れる瞬間を思って目を閉じたけど、それはこなかった。
「っあっぶね」
目を開ければ、ユウが缶を受け止めてた。
なんで、ここにいるんだろ。
「こんなとこで飲んでると補導されるぜ?」
缶チューハイを奪い返して冷静を装う。缶チュー持ってにやついてるのがかっこいいなんて思わない。
「成人してるし。ユウが持ってる方がダメだし」
だってまだユウは未成年だもの。
それなのにそんなことを気にした様子もない声が降ってくる。
「帰ろうぜ」
ぺろりと一口舌にチューハイをのせる。
他意はないんだろうな。
低く囁かれた声に心が揺れる。
お酒を言い訳に変化球な言葉を投げつけれるタイムリミット。
ああ。なんでユウはこんなにニョキニョキ育ったの?
手を引かれて歩く姿は兄と妹?
「身長わけて」
「おんぶする?」
返ってきたのはイラッとする答え。視界を分けてもらっても仕方がないの。
恨めしいのは身長差。そして年齢差。
「歩けるわよーぅ」
今日はちょっぴり遠回りの気分。冷たい空気に冷たいアルコールは一気に煽れない。ゆっくり半分ほど飲んで公園を出た。酔っ払い扱いで握られたユウの手をふわり振り払って違う道。年の差を思わせないユウだけどいつも言いなりになってなんかあげないんだから。
一人でだって大丈夫だわ。
手の温度でぬるまってきた液体をぐっと飲み干す。
「……バカ。もう暗いのに女が一人歩きあぶねーだろ」
慌てて伸びてきた手が私の手首を掴む。
「平気だよーぅ」
ねぇ、あたたかいね。
「バカ。帰るぞ」
ユウのバカ。




