1パート
自分が書きたい物をひたすら追い求めていた結果たどり着いた内容になります。
戸を開けるとラッキーがそこにいた。
今までは少しながらも動いていたが完全に動かなくなっているように見える。
「ラッキーは?」
「ついさっき息を引き取ったよ。」
「そうか、間に合わなかったか。」
ラッキー、今までありがとう。そしてごめんな。全く、愛犬もまともに守れないとは。俺のせいだ。俺がもう少し厳しくラッキーをしつけていれば。あんな変なもの食べちゃったから早死しちゃったんだよ。
「お兄ちゃん、自分を責めてるの?」
文人の部屋の戸に背をつけたまま吉田文奈はいった。
「俺の散歩の時に変なの食べたんだ。口をこじ開けて吐き出させるべきだったかもしれない。俺のせいだよ。」
「ちがうよ。変なの食べたのはラッキーが自分で食べたんだから。誰も悪くないよ。」
「ラッキーはうちに来て幸せだったのかな。」
「それはあの子にしかわからない事だよ。お兄ちゃん、自分の事いつまでも責めるとかだっさいことやめなよ。かっこわるい。」
「すまんな。」
吉田文奈は優しいからそういう事を言ってくれたし母さんも父さんも俺を責めなかった。でも俺のせいだよ。俺が代わりに死ねばよかったのかな。お母さんお父さんの生き甲斐の一つを俺が奪ったんだから。
窓の外から怪しげな影がその文人の様子を見ていた。
「いいね。その心、変化させてあげよう。」
その影は人の形に切り抜いてある紙、人型を投げつけた。
人型は音もなく文人の中に入っていった。文人は気づいていなかった。
それから1年経ったとある日の事。吉田文奈は都内の路地裏の古ぼけた戸を叩いていた。
「あのー、佐藤霊矢さんのお宅ですよね。先日お電話しました吉田文奈ですー!開けてくださーい。」
戸が横にずれて言った。古いのか音がうるさい。そこから男性がぬっと顔を出した。顔はおろか全身までおがくずで白い。吉田文奈はびっくりした。しかもよく見ると小学校の同学年にいた人である。
「えーと私、こういうものでして。」
名刺を渡すと佐藤霊矢は受け取って目で追った。
「電話でも聞いた時に答えてくれませんでしたが記者が何の用です。」
「取材を・・・」
「なんの?」
「最近頻発してる心霊現象についてですね・・・」
「なんで俺に聞く。」
「いや詳しいと聞いたもので!」
「誰から?」
「編集長!」
「なんで編集長が俺が詳しいって思ったんだ?」
「編集長に電話して聞きます?」
「いいよめんどくさい。」
「それで佐藤霊矢さんは普段は何を?」
「木材を加工する仕事をしてる。」
「彫刻ですか?」
「いや、食器とかだね。たまに臼とかも依頼が来る。」
「見たいです!」
「宣伝になるしいいか。」
佐藤霊矢が戸を開けて吉田文奈を中に入れたが吉田文奈は愕然とした。ぐちゃぐちゃだからである。ジャンプをしながらでないと奥に入れないとはどういう事だ。
「これが依頼を受けた皿の完成品。」
とても形が整っていて綺麗だった。
「綺麗ですね。」
「人様からお金をもらうからには適当なものは作れないからね。」
「ちなみにおいくら?」
「12,000円。」
文奈は危うく悲鳴を上げるところだった。皿が!12,000円だと。なにかの間違いではないか。
「あらたまった場所ではこういうのが使われる。しかも、職人の一品はこういう額するもんだよ。」
吉田文奈は写真を撮って許可が降りたら掲載しようと思った。
「それで!本題ですが!最近都内で頻繁に起こっている心霊現象について知ってる事を聞かせてください。」
「うーん。それもなぁ、さして俺は詳しいわけじゃないしな。」
「えーそうなんですか?」
「期待はずれでしたね。」
「スクープはなかったと。」
「もし、あれならば見ます?夜遅くなるかもしれませんが。」
「是非!」
「その時が来れば呼びますんで来てください。」
佐藤霊矢は内心にやりとほくそ笑んでいた。お金になる仕事が舞い込んで来たからである。