冷やし系彼女とエイプリルフール
超短いです。
4月1日、今日は恋人の涼白 水月と買い物に来ていた。
雛罌粟ショッピングモールを2人で歩いていると、彼女が唐突に口をひらいた。
「今日はエイプリルフールですね」
相変わらずの無表情だが、水月は妙に弾んだ声でそう言った。冷たい水でも入れられたように背筋がぞわっとなる。嫌な予感。
「そ、そうだね」
「どうしました?妙にたどたどしいですよ」
「なんのことかな?」
「もしかして先輩、私に騙されるのが怖いんですか」
ギクッ
「大丈夫ですよ先輩。恋人を騙すような真似をするわけないじゃないですか」
そう言う水月だが、今まで散々引っ掛けられてきたので信用出来ない。
「その言葉自体が嘘だと思う」
「酷いです。可愛い恋人が信用できないんですか?」
「くらげちゃんが可愛いことは認めるけど、信用できるかといえば否だな。前科がありすぎる」
今の言った通り水月は可愛い。大体いつも無表情だけど、色白で、俺好みのショートヘアで前髪パッツン。座敷童系美少女という感じだ。
それから水月の別の読み方は水月。だから俺は彼女をくらげちゃんと呼ぶ。
「酷いです先輩。恋人に可愛くないだなんて」
「え?いつそんなことを言ったよ?」
「エイプリルフールなのに『可愛い』って言いました。酷いです」
「今日はたしかにエイプリルフールだけど嘘はついてないぞ!」
「それも嘘ですね?やっぱり可愛くないっていう意味だったんですか。酷いです先輩」
「ややこしいっ!嘘じゃないって言ってるのに!じゃ、じゃあくらげちゃんは可愛くない!」
「酷いです、酷すぎます。嘘じゃないって言ったあとに『可愛くない』って言うなんて。ちょっと期待した私が馬鹿でした」
「ぬぁあああああああ!!!!どうすりゃいいんだよ!?」
「ふふふ……先輩は素直ですね」
恍惚とした表情になる水月。
「くっ……わざとだな?わざとだったんだろ!!」
「ちょっとからかっただけなのに」
「酷い。恋人が酷すぎる」
「先輩の苦虫を噛み潰したようなその顔……とっても可愛いです」
「ドS……」
いつも通り為す術もなく、水月のレールの上で転がされ、弄ばれた。彼女に舌戦で勝てる気がしない。
「むむ……それにしても先輩はなかなか嘘をついてくれませんね」
「なんで嘘をつく必要があるんだよ」
「今日はエイプリルフールですよ?いついかなる時に騙されても対応できるように構えていないとだめです」
「疲れそうだな……」
「ぼーっとしていると足下を救われますよ」
「俺の場合はくらげちゃんに、だな」
「酷いです。恋人を疑うなんて」
「いついかなる時に騙されても対応できるように構えていないといけない、って言ったのはくらげちゃんだろ!」
「ふふ…先輩は今日も突っ込みが冴えてますね」
「褒められても嬉しくない!」
なんか疲れた。
「先輩は可愛いです………そして私のいじわるにもちゃんと反応してくれる先輩が大好きです」
「それは嘘?」
「ふふふ……どうでしょうね」
まあ、水月の顔を見れば、それが嘘か本当かなんて明白だった。
水月ちゃん、なかなかのドS。
そして嘘なんてなかった。