ドアがほしいといったけれども
洞穴の前につくとハチが尻尾をふって待っていた。
ハチは無事だったらしい。とりあえず。良かった
ハチがいなくなったら食料の確保が難しくなる。夜寝るのだって毛布変りが無くなっていまう。モンスターがでたら代わりに戦ってもらうことも……なんだか打算的な理由ばかりだな俺。
いえね。本当に心配してましたよ。一緒にいれば情も移るし、無条件で好かれると可愛くなってくるしさ。
守りたいというより守られたいと思ってることは否定のしようもないけれども。
洞穴は外見上大きな崩れは起きていないようだ。
ただ、入口のあったあたりが大きな岩で塞がれている。やはり地震で洞穴の内部は崩れてしまったのだろうか?
幸いにしてほとんどのアイテムは携帯してるが、祭壇の器と仏壇は洞穴の中だ。仏壇はどうでもいいが水を浄化できる祭壇の器を失うのは非常に痛い。
どうしたものかと思案する。
ワオン!
鳴き声に振り返ればハチが尻尾をふりつつ、どう? 褒めて? といわんばかりにじゃれついてくる。
え~と、これはどういう意味だ?
洞窟は外見上は崩れてはいないが、洞穴の入り口だけは大岩に閉ざされている。ということは地震で崩れてこうなったわけではないのか?
この大岩はハチが持って来た?何故?どうやって?
一瞬フリーズしかけたが、ハチはドアを探しに出てったことを思い出す。この岩がドアでハチが用意したということなら説明が付く。
「これがドアってことなのか?」
聞けばハチは答えるように吠えた。どうやらそうらしい。
しかしこの大岩がドア?
これがドアというならば、見た目より軽いということだろうか。考えて持ち上げようとしたが持ち上がらない。見た目通り重い。
「お前、どうやってこれ持って来たんだ?」
ハチは俺の疑問に答えるように岩の上に駆け上がり痛烈な体当たりをくらわす。岩が割れ、頭上から降ってくる。
ドシン!
先ほどと同じ地響きがなる。
て、これ落石かい。
これじゃあ岩自体はハチだってどかせないし、洞穴の中に入れないってことじゃないか。こんなんドアじゃないよ。俺はドアを持ってきてほしいといったんだよ。
頭を抱える。
しばらく呆然としていたがそうこうしても始まらない。
テコ、テコの原理、みたいなのがあれば動かせるかもしれない。
そう思い立ち手ごろな石と棒を探す。石は落石から適当なものを拾ってくる。棒はハチが用意してくれた。
やけに気が利くじゃないかハチ公よ。まるでこうなることが分かってたみたいだ。
石と棒を配置、テコの原理で大石を持ち上げようとする。
……見るからに無理っぽいけど。
棒に渾身の力を入れる。棒はなすすべもなくぼっきりと折れた。
駄目じゃないかハチ公。
ハチ公はまた棒を咥えて帰ってきた。そして、咥えてた棒を目の前で明後日の方にほおり投げる。
これは……俺に棒を投げて神様パワーでパワーアップさせろということか?
なるほどと思い。棒をほおり投げる。
棒は「名もなき神の杖」に変わる。攻撃力+3、おつむ+100、MP+20%。
これならいける……のか?
てこの原理で持ち上げ・・・ボキっ
駄目だった。神の杖とはいえ所詮は木の棒。物理攻撃力が+3な時点でなんかそんな気がしてた。
駄目じゃないかハチ公。
ハチはまた棒を持って帰ってくる。またほおり投げる。
もう一度棒を投げろということか?棒を投げるとこまではあってて、テコとは違う使い方をしろってことか?
考えてもう一度棒を投げる。今度は「霊木の棒」に変化する。さっきとは別のアイテムに変わった。攻撃力+25、おつむ+5。さっきよりアイテムのランクは低そうだが、物理攻撃力は上がっている。これならいける……のか?
ボキっ
無理だった。
そうやって何度か棒をパワーアップさせてるうちにあることに気が付く。
どうやら俺のアイテムパワーアップは1番最初にパワーアップさせたものが1番強くなるらしい。いちばん最初にへし折ってしまった「名もなき神の杖」だが、アイテムとしてはこれ以上ない性能をほこっていた。簡単に折ってしまったのがちょっともったいない。
変化するアイテムもどんどんしょぼくなっていくようで限界を感じ始める。
半場諦めかけていると「???の棍棒」ができる。攻撃力+80。今までできたアイテムの物理攻撃力は0~30の代わりに霊力やMPもあがる特殊効果がついていたが、今回の武器は物理攻撃力に全ふりしたアイテムとなっている。これならいけそうな気がする。
……今回は折れなかった。
今回は折れなかった岩をがどけることはできなかった。石は気持ちほんの少しだけ持ち上がったような、持ち上がってないような……そんな感じのところで俺の力が尽きたからだ。
いくら木が丈夫になったところで俺の力ではどうしようもない。
普通ならここで諦めるところだが、このゲームっぽい世界観ならまだ手はある。
レベルを上げて力を上げればなんとかできるかもしれない。
そう簡単に石を持ち上げられる力が手に入るのか不安は残るが他に手はない。
俺はレベル上げのためにそこらへんをうろつくことにした。