運命の出会い的な
狼がひーふーみーよー6匹……、俺を取り囲んでいる。
えーと、これは……ひょっとしなくてもやばい状況だよな。
俺は軽くテンパりつつ竹やりを構え、木の盾で前方をガードしてみる。
だが、俺は囲まれているのだ。
背後にいる狼からまた背中を突き飛ばされる。
俺は竹やりを振り回すが狼たちはなんなくそれをかわし、俺に対してどついては離れるを繰り返す。
狼の体当たりを受けるたびに地べたを転がり泥だらけになる。
何度も何度も背中から体当たりをくらわせられ、とにかく後ろを何かで守らなければと大木を背にする。これなら背中は大木で隠れるから後ろからどつかれる心配がない。
しかしそれは退路を断たれたということでもある。狼から逃れる根本的な解決にはならない。
たかが犬風情に殺されてたまるか!
俺は竹やりをかまえ、狼に攻撃・・・するわけではなく、むしろ竹やりをほおり投げ盾での防御に専念することにする。
竹やりは狼への牽制にと使いたいところだったのだけれど、リーチが長すぎて素人の俺では使うたびにすきができる。
狼たちもこれまでの俺の動きでそれがわかってるのか全く牽制にならなくなっていた。持ってるだけ邪魔だと判断したのだ。
だがそれは浅はかな俺の思い込みだった。
竹やりはもってるだけでも牽制になっていたらしく、手を放した瞬間、狼たちは一気呵成に出た。
いったい俺は何度選択肢を間違えれば気が済むのか?
狼たちの猛攻にたまらずしりもちをつく。一匹の狼が俺に覆いかぶさる。唸り声、そして息が俺のすぐ横で聞こえる。
まじかで狼を見た俺は怖気が走った。
殺されるという本能的な恐怖、だけではない。俺が狼だと思っていたそれは狼ではないと気が付いたからだ。確かに見た目は狼に似ているのだが何かが違う。
一番の違和感は眼だ。薄い皮膚のようなもので包まれている。それは生き物の瞳ではない。
モンスター? ……まさか、怪我をして目がつぶれているだけだ。
頭の中でわいた答えをすぐさま否定する。
ただでさえ恐ろしいのだ。さらにこいつがモンスターだなどと絶望的なことを認めるわけにはいかない。
こいつは狼かもしくは野犬なのだ。自分にいい聞かす。
犬くらいガチれば人間でも倒せるはずだ!
だが、それが狼だろうとモンスターだろうと俺の喉元に食らいつこうといきり立っていることには違いない。なんとか引き離そうとするが。腕力は狼の方が上らしい、全く引き離せない。
狼は今にも俺に食いかかろうとしている。
殺される?犬に食い殺される?こんなところで、自分に何が起こったのかもわからないままで?
死にたくない。強く思う。
しかし何かがおかしい。
俺と狼の間に見えない壁があるかのように、狼の牙は俺には届かない。
そしてもう一つ、今まで攻撃され続けて気が付いたのだが……俺は狼の攻撃をくらってもどこも傷ついてはいない。泥だらけになって息は上がってるのだが怪我らしい怪我はどこもしていない。
最初はなぜ体当たりだけでかみついてこないのか不思議だったが、どうやら噛みつきたくても噛みつけないらしい。ただ衝撃は伝わってくるので体当たりを何度も食らうという事態になっていたのだ。
これもあの天使のわっかの能力だろうか?雨を弾くくらいだし、物理的な攻撃も防いでくれるのかもしれない。
なんにせよ狼の攻撃は無効らしい。そうと分かった以上、ここから逃げ出すのも不可能ではなくなった。
隣接している今がチャンスとばかりに狼の首をホールドして締め上げる。
激しく暴れる狼。他の狼たちも仲間を助けようと激しく体当たりを仕掛けてくる。
だがその衝撃はあまり大したことはない。
いくら狼に体当たりを食らわされても強風に煽られるような感じで痛みはあまり感じない。今までは攻撃されてつまずいたことによるダメージの方が大きかっただけらしい。
押し倒され、横になったまま狼を締め上げている俺が、それ以上転ぶことはない。狼の体当たりなど無視してさらに力を込める。
逃げ出そうともがく狼を必死に締め上げていると、腕の中で狼が弱っていくのがわかった。
なんとかいけそうだ。
ただ、6匹全部この調子で締め上げようかと思っていたが1匹ですでに疲れはててしまった。
狼自体は脅威ではなくなったが、一番の問題は俺の体力らしい。
なんとかいいところで切り上げて逃げようと思案をめぐらす。
一匹倒したぐらいでは突破口にならないだろう。後2、3匹は締め上げなくてはならない。
とりあえず次の標的を捕まえようと動かなくなった狼をどかす。
ところが、倒したはずの狼がゆっくりと起き上がった。
せっかく倒したのにもう復活したのか? うんざりする。もうこのさい横になりながらごろごろと転がってこの場を逃げ出そうかと考える。こけて体力を消費することもないし、狼の攻撃による衝撃は地面に受け流せるし、どっちみち服は泥だらけだし……半分本気でそんなことも検討する。
起き上がった狼はしっぽをふって俺の方を見つめてくる
狼が仲間になりたそうにこちらを見ています。仲間にしますか?
YES
なんとなく頭の中でそんなやり取りを想像してしまった。と、突然おきあがった狼が光に包まれる。
光が消えると一回り大きくなっていた。皮膜で覆われていたはずのあの瞳も、普通の瞳に戻っている。
狼は仲間たちに吠えると仲間の狼も俺に対する攻撃をやめた。
狼たちはしばらく大きくなった仲間を見つめていたがやがて立ち去っていく。
後には一回り大きくなった狼と俺だけが残された。
名前 ハチ
性別 ♂
種族 ???の末裔
レベル1
HP 22
MP 0
攻撃力 25
防御力 8
素早さ 35
おつむ 6
運 12
魅力 12
霊力 5
スキル 封印中
口 なし
足 なし
頭 なし
体 なし
アクセサリー なし
どうやら狼は仲間になったらしい。
身分証明証のページも更新されステイタスが追加されている。
種族は???の末裔と書かれているが、やはり本当は狼ではなくモンスターということだろうか? ただ見た目は狼だ。
瞳も普通になったし俺に懐いた今となってはむしろ犬にしか見えない。大きさはちょっと大きいけれども。
強さは……強いのか弱いのかよくわからんが、俺と比べると防御力とHPが低いのは気になる。
実際、仲間になったときのHPは1しかなかった。
俺なんてあれだけフルボッコにされたのにHPは4しか減ってない。防具をフル装備していたのが効いたのだろうか?
狼にやくそうを食べさせて回復させてやることにしたが、やくそうは一つしかなかったので俺のHPは28-4で24のままだ。
狼の襲撃で体力をとても消耗したがHP自体はあまり減ってない。体力とHPは別物というこなのか?
狼に名前がないみたいだからハチと名付けておいた。だって犬だし。ハチかポチでいいだろう。
スキルは封印中とあるが、レベルがあがれば封印が解けたりするのだろうか? 装備に関しては装備できそうなものが何もなかったで何もつけてない。
とりあえず一難さったわけだが、疲れた。そして本格的に腹が減った。
もうモンスターの肉でもいいから食べてしまいたいところだったけれど、泥の中を這いずり回った結果モンスターの肉も泥だらけになってしまった。もはや名実ともに人間の食うものではない。仕方がないのでハチにあげた。
おなかへってへとへとで泥だらけの俺。もう一歩も動きたくない。
何気に雨があがったことだけが救いだが、日が暮れてきたので差し引きゼロだ。なんだか冷え込んできた。泥水でぐしょぐしょの俺の体は急速に冷やされていくのだが、眠気の方が先に来る。
これは眠ったらいけないパターンではないだろうか? そうは思うのだが眠気にはあがらい難く、俺はまどろみの中へ落ちていった。