元の世界とか
「サトミは元居た世界のことを正確には覚えていないですか? 」
自称神様と元居た世界について語りあってるうちに、その具体的な情報が抜けていることに気が付いた。
どんな年齢にどんなことがあったか……ということは思い出してきているのだが、西暦何年何月何日とか具体的な情報は全く思い出していない。
逆に自称神様の方はかなり正確に覚えているようで、話の中にも芸能人の名前やテレビ番組の話題が出てきたりして「そういえば聞き覚えがある」と記憶を刺激されたりした。
今までは記憶が戻ることの方に興味が向いていてそこまで考えていなかったが、まだまだ完全に記憶が戻るのは遠そうだった。
「サトミがこの世界に来るのは何年も後のことなのでしょう? それなのに飛ばされて来た世界の年代も国もかぶっているようです。ならばそのことにも意味があるのではないでしょうか? 」
だから、より正確に俺のいた世界のことを思い出すべきだと自称神様は言った。年代とか都道府県を知っておけば、この世界に来ることになった原因が分かるかもしれない。そうすれば戻る方法も分かるかもしれない。
自称神様は元の世界に戻りたいようだった。
ランダムでこの世界に来るなら全く別の国の別の年代の誰かである可能性が高い。にも拘わらず同じ時代の人間と出会った。たまたまこの世界で出会った異世界人が同じ国で同じ年代だというのなら、そこにも何か意味があるのではないか……そう考える自称神様の意見ももっともだ。ただ、それについては俺には一つ思い当たる節もあった。
「この世界で出会う奴は元居た世界でもあったことのある奴っぽいんだよな。もしかしたら俺とお前も出会っていたのかもしれない」
「ほう……」
それは面白い話だと興味を持ったようだ。自称神様はしばらく考えていった。
「サトミは元居た世界ではどこの学校に通っていたんですか? 私は自分の学校のことは覚えていますからせめてそれさえわかればいろいろと分かってくるかと思います」
自称神様は話をしながらも自分の情報は話したがらなかった。自分の身元がばれるのはいやらしい。けれど、今回自分の母校の名前を晒す気があるらしい。どうやら本当に興味を持ったみたいだ。
それにしても学校? 学校かい……
俺は俺はおおっざっぱに70、80まで生きてた記憶がある。自称神様と出会ってるなら学校である可能性は別に高くないんだが……もしかすると自称神様は学生でここに召喚されたのかもしれない。
ということは、おじいちゃんまで生きた俺と学生でここに召喚された彼が対等に話しているということになる。だからと言って何が変わると言うこともないけど。
「学校のことで覚えてる事か……俺は、中学のころは美術部の部長だったな。女の比率が10:1くらいだったから、地味にもてたりしたんだぜ? 高校のころは生徒会の書記を務めていたこともある。卒業後は医者になって病院で働いていた。父さんも医者だったから駄目な2世として噂になっていたかもしれない」
「……」
今までにこやかに話していた自称神様の顔がこわばる。
? どうしたんだ?
「そんな見栄を張らなくてもいいから本当のことを話してくれませんか? 」
「見栄なんか張ってないぞ。すべて事実だ」
だいたい見栄なんか張っている場所自体ないだろう。部長と言ったって美術部だ。クラスの人気者はたいていスポーツ部に行ってたからすごいことじゃない。持てたって言ったって実際に告白されたわけではない。される前に逃げてたしな。生徒会って言ったって書記だ。しかも内申点稼ぎになっただけ。この2つはむしろ根暗な人間がやることとしてマイナスポイントなんじゃないだろうか? 医者に至ってはめっちゃ留年したうえに「奥さん、あそこの病院のお子さん、やっぱりお父さんと比べると腕が落ちますわね。ヒソヒソ」なんて噂になってた。
「……」
ところが、自称神様はそれ以来あまり話をしなくなってしまった。
なんだろ?
ちっ……リア充が! 的なオーラを発散させている。
知り合いと聞いて真っ先に学校をチョイスしたり、出会ってすぐにニートがどうこう口走ったり……まさか? いやいや、そんな安直に決めつけてはいけない。自称神様は俺に対しては気さくに話ができているじゃないか。
「主様は他の世界から来たの? 」
そんなことを考えているとハチが話しかけてきた。ハチは最初の方は話に参加しようとしていたのだが、俺たちが元の世界の話ばかりしていたから話に入れなくなっていたようだ。
「たぶんな」
これはあれだろうか? 「帰らないで主様! 」とか言われちゃうパターンなのだろうか?
大丈夫だハチよ。俺は多分元居た世界ではもう天寿を全うしている可能性が高い。帰りたくても帰れない。
「なら俺と一緒だね」
ところがハチはそんなことを言い出した。
ん? お前はコントンって悪い神様の子供だったはずだろう? この世界の存在だったはずだろう?
「わかんないけど、ここで生まれる前に「次は人間に生まれて来いよ」って言われた気がする。だから人間になれたのかも」
「……」
「ここで頑張ったら、次は本当に人間になれそうな気がする。でも……あれ? 次って何だろう? 変だね。俺もう人間なのに」
「ハチ、お前は……」
俺が話しかけようとしたとき、自称神様が止まるように指示を出した。
「あそこが私の教会です。あそこは天界と下界の文字通り境界にある。あそこにいけば天使も手を出せません。天使達はもう、ハチさんに気が付き折ってきているころでしょうが……彼らが去るまで匿いましょう」
彼の指さす先には教会……というよりお寺のような建物が建っていた。
建物形はこれと決まってはいないらしい。寺の形は自称神様の趣味らしい。




