イマジネーション/コラージュ
真夜中の公園は不思議な世界。一歩踏み入れたら迷い込んでしまう時空間。
真っ黒な空に青白い月のひかり、ビーズのようにきらめいている星々。
風に引きちぎられた雲、天へと枝葉を伸ばすように立つ木々。
途切れ途切れにつく外灯、眩しい明かりに近寄り踊り狂うように飛んでいる蛾。闇夜と同じ色をした孤独なカラス、はばたくときに鳩から抜け落ちた白い羽。
くたくたになりながらも獲物を探す蟻たち、枝からこぼれ落ちる木の葉。
何かの拍子で切れてしまったトカゲのしっぽ、ひと皮むけたカマキリの抜け殻、電柱の側に転がっているすずめの死骸。
飲みかけのオレンジジュースが入ったペットボトル、靴底で踏みつけられたタバコの吸殻。
風雨にさらされサビだらけになってしまったブランコ、砂場に忘れられた赤いスコップ。
かわいらしく花壇に咲いているパンジー、くしゃくしゃに丸められたティッシュペーパー、つつじの植え込みに隠された黄色いゴムボール。
ボール遊び禁止と書かれた貼り紙、水飲み場に置きっ放しの小さな緑色のバケツ、フェンスの網目に差し込まれたタオルハンカチ。
芝生の隙間に自生する白つめ草、水のない噴水に散らかっているスナック菓子の空き袋、ブロック塀にかけられた壊れたビニール傘。
鉄棒の下にばら撒かれた小銭、ジャングルジムにかけられたピンク色のトレーナー。
舗装されたスペースに散らばったチョークの残骸、切り株のベンチに乗っかっている小さな運動靴、無造作に置かれた大きい石と小さい石。
ガスの切れた使い捨てライター、ベンチに置き忘れ風でページが行きつ戻りつしている文庫本、乗り捨てられた自転車。
隣接するアパートから外を眺めている女、窓を見つめながら携帯電話をしている男。
大気中をふわふわ漂う虹色のシャボン玉、大輪の花を咲かせようと上がっていく花火の音。
土管に座って一人静かにお酒を飲む放浪者、急患を乗せて走る救急車のサイレン。
がしゃんとガラスびんの割れる音、夜泣きする幼子をあやす母親の優しい声、徘徊する老婆を捜す夫、老人の懐から落ちた眼鏡。
バイクを暴走させる震動と若者たちの嬌声、眠りを悪夢のせいで妨げられた犬の鳴き声、情事を楽しむ盛りのついた猫たち。
自らの存在を主張し用を足す人を待つ公衆トイレ、鋼鉄でできた備蓄庫の脇で愛を囁きあう恋人。
あなたの肩に手を置くわたし、すとんと落とした細いベージュのヒール、膝でひらひらと揺れるシフォン素材のスカート。
よれよれのスーツに身を包んでいるあなた、少し困っているようなあなたの横顔。
わたしとあなたのふたつの影。
こうして、あなたとわたしが二人きりで真夜中の公園にいることが不思議でたまらない。
日の出とともに咲こうとしているばらの蕾、欠伸をしながら仕事から帰るサラリーマン。
新聞配達のバイク、眠い目をこすってウォーキングをする人、ランニングのためウォーミングアップを入念に行う人。
もうすぐ夜が明ける。わたしとあなたは何事もなかったようにこの公園から去って行く。
(了)