.みつばちとおさとう
おわるものなんて、ないのだと、いつぼくは気付いたのだろう。
風鈴が、ひとつだけかなしそうに鳴く。
「いとおしいわ」
「なにが」
ぼくが囁きかえすと、きみは挑発的にこちらをみすえた。
そして、ピンクのルージュで彩った自分のくちびるをぼくにおしつけるのだ。
「ん」
舌で、むりやり口をこじ開けられて、ぼくのなかに何かがおしこまれた。
「ほれぐすり、だよ」
目をほそめて、けはけはと笑う。
でもぼくがその異物を、舌でなぞるとオレンジの味がした。ほんのりとやさしい、オレンジの味だ。
「あたし、ピーチあじ」
「ふーん」
「また、たべさせてあげよーか」
「やだよ」
「舌、かむよ」
「やめてよ」
また君はけはけはと笑った。
せみの鳴き声にまじって、もいっかい風鈴の音がした。
夏が、ぼくたちをつつんでいく。
「でも、いちばんおいしーあめは、京ちゃんだよ」
「いきなり?」
「わるい?」
ぼくをあざけるように、ふふ、と笑ってから君は小脇にあったマシュマロをつかんだ。
「もう、あめなめたの?」
「ううん」
「かんだのか」
「うん」
君の顔がちかくなったと思ったらまた、くちびるをくっつけてきた。
そして今度は舌で器用に、ぼくのあめを持っていった。
「おれんじあじ」
君の口のなかで、がりごり、という音が聞こえた。
無残にあめは、さいごまでなめられることなく噛み砕かれて、壊されてしまった。
「それ、ほれぐすりなんだけど」
ぼくがむっとした顔でつぶやくと、君はまた挑発的にせせらわらった。
「もう、じゅうぶんほれてるよ」




