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出さない手紙。

作者: 紬詩

伝えたい想い。

胸に仕舞った思い。

届けるつもりのない、

あなたに読んでほしい手紙。

お元気ですか?

会えなくなって、5年の時が過ぎました。

私のことなど、思い出したくないでしょう。

きっと、忘れて生きておられることと思います。


後悔しています。

あなたから別れを告げられた時、

どうしてもっと、潔く居られなかったのかと。

追いすがって困らせたりしなければ、

あなたの想い出の中で、かわいい私のまま、

忘れられることなく生きていられたかもしれないのに。


あなたを失いたくなかった。

いつまでも傍においてほしかった。

ずっと隣で笑っていたかった。

もっとたくさん愛し合いたかった。


ただ、それだけだったのです。




-----------------------------------------------------------




教師として初めて赴任した職員室で、あなたと初めて出会いました。

仕事にも環境にも慣れてきた2年目の夏。

あなたとの距離が一気に近づきましたよね。


その年の秋にはお付き合いが始まり、

色んなところへ連れて行ってくれましたよね。


たくさん話して、たくさん笑って、

毎日が本当に楽しくて幸せでした。


幸せでしたよ。


何気ない日常の風景が、とても色鮮やかに見えた、

あの頃のことは、今でもはっきりと思いだせるのです。



あなたの胸に顔をうずめて眠りに就く時間が、極上の幸せでした。

戯れ合いながらキスを交わして優しく愛撫されるのも、

意地悪な表情と言葉で焦らされながら求めることも、

激しく乱暴に扱われることも、

あなたにされることは全部、幸せで大好きでした。

あなたに求められることが、嬉しかったから。



そんな幸せが、ずっとずーーーっと続くと思っていました。



学年主任になったあなたは、仕事が増え忙しくなり、

二人でゆっくりプライベートを楽しむ時間は減っていきましたね。

すれ違うことが増えていき、私は不安になることが多くなりました。


気がつけば二度目の春が訪れようとする頃に、

あの出来事が起こったのでしたね。


3年生の女子生徒が、部活の顧問であるあなたに相談事があるからと、

生徒も職員もほとんどが帰ってしまった、暗く冷たい校舎の一室に

あなたを呼び出し、キスを迫り、抱きつき、抱かれることを要求してきた、

あの事件です。


優しいあなたは無碍にすることもできず言われるがまま、

彼女と関係を持ってしまったそうですね。

人づてに聞きました。


そのせいであなたは、職場から去らざるを得なくなってしまいました。



私以外の職員の方々は、一様にあなたを責めてばかりでした。

でも私は、今でもあなたを信じています。

あなたから何も聞いていないから。聞かせてもらっていないから。

それに、あなたがあんな・・・残酷な裏切り行為をするはずがないですから。






信じているのに。




あなたはこれをきっかけに、私と別れることに決めたのですよね。


「おまえには、俺なんかよりもっと相応しい相手がいるから」


どこにいるのでしょうか?私にはあなたしかいないのに。




-----------------------------------------------------------




あれから5年。

あなたのしたことを知らない人たちに囲まれて、

あなたのしたことを知るはずもないお子様は、

元気に育っていらっしゃいますか?

誰からも責められずに、美しい奥様とかわいいお子様と。

幸せそうに暮らしていらっしゃいますよね。


本当に幸せですか?


あなたは、幸せですか?






あの日から、

あなたが私を裏切ったあの日から、

私はあなたを忘れることなどできるはずもなく、

忘れようとすることもなく。

泣くことも、笑うことも、

誰かを愛することもなく、生きています。




空の青さ、雲の形、風の匂い、街の音。

あなたと二人でなら感じられたたくさんの幸せも、

今は少しも感じる事が出来ずにいます。

あなたと感じていたいから。





「あなたが幸せなら、私も幸せです」

そんなキレイゴトは言いたくありません。









あなたが幸せになるなんて許せない。

私といないあなたが、幸せになるなんて許せない。





こんなにもあなたを憎んで愛して生きていかなければならないなら、

あの時、あなたを殺して、私も死んでいればよかった。










愛しています。これからもずっと。



また、近くに寄った時は、こっそりお顔を拝見させていただきますね。

以前何かの小説の中に「手紙を出してみませんか?」という

作品募集のチラシが入っていました。

軽い気持ちで応募してみたところ、小さな賞をいただきました。

その時の作品(と呼べるような代物でもないですが)を

推敲しなおしてみただけの、ただの暇つぶしです。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり そらのあおさ ですよね
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