ねえ、起きてよ
掲載日:2012/10/31
ゆっくりと目をつむり、ふうと夫が息を吐いた。
静かに、心電図の音が、一直線へと変わる。
傍で見ていた医者が、脈拍や瞳孔を検査し、
静かに私へ告げた。
「ご愁傷様です」
深々と私は医者に頭を下げる。
医者が病室から出て、一人きりになった時、夫に聞いた。
「ねえ、起きてよ。朝だよ」
涙が自然とあふれてくる。
もう夫は起きてこない。
冷酷な現実は、私と夫を隔ててしまった。
子供や孫も、私の傍へとやってきた。
危篤だということをすでに伝えていたから、彼らも特に驚きはしていない。
「おじいちゃん、何で寝てるの?」
5歳になった孫が、私に聞いた。
「それはね、新しい旅に備えて眠っているのよ」
静かな病室に、優しい寝顔。
私は、夫と出会えて本当に良かったと、確信をもって言える。
それは、眠り続けている夫への最後の感謝だった。




