貧乏ギャルのダンジョン金策
ウチ、冒険者になる――
そう決心したのは先月のことだった。
理由なんてありふれてるかもだけど、父親がいなくなっちゃったから。別に死んだとかじゃなくて、出ていったってんだよね。それでママが一人でウチと、それから弟妹を養わなくちゃいけなくなったのが二ヶ月前のこと。
それからママは本当に大変そうだった。
パートを始めて朝から晩まで働いて、帰ってきたら家のことをやって……疲れてるな~っていうのはすぐ分かった。
だからウチも何か手伝おうと頑張った!――でも、ウチの不器用さはママを楽にするどころか逆に面倒を増やすだけだった。料理をすればまっくろ焦げになるし、掃除をすれば綺麗にするどころか逆に散らかすことも。
そうして一か月頑張って、ウチには家のことでママを助けるのは無理だと思い知った。
だから別の方向で助けることを決めた。
それがウチも働いて少しでも家にお金を入れて家計を助けること!
こんだけ不器用なウチでもできるバイトってなんだろうな~って考えた結果、辿りついたのが『冒険者』になることだった。
冒険者――
それはダンジョンに行ってモンスターを倒してお金を稼ぐ人達のこと。
喧嘩が得意って訳じゃないし、武道の経験があるってわけでもない。だけど体力なら人一倍あるし、細かな作業があるわけじゃないからウチでもできると思った。
ただ冒険者になるためにはちょっとした試験とかがあってそれだけが不安だったけど、そこは優秀な弟妹に手伝ってもらった。頭の良し悪しに年齢は関係ないもんね! 二人ともウチが冒険者になるのを心配してたけど、なんとか説得して勉強を手伝ってもらうことができた。
もちろんママには秘密! だって心配かけるわけにはいかないし! それにちゃんと稼げるって保証もないんだから、期待させるようなことも言いたくなかった。保護者の同意書とかは、その……
そんな感じで今日、ついに冒険者の資格を得ることができたのだ!!
「よしっ! それじゃ、いきますか!」
資格をもらったその日、ウチは家の近所にあるダンジョンにやってきた。
武器なんて買うお金は無かったから、弟が昔使ってた金属バットを持ってきた。講習会?でも低階層のモンスターならこれで十分だって言ってたし、バットで殴られたらぜったい痛いからイケる!
ダンジョンに入ると、中はひんやりとした洞窟になっていた。
目の前には一本続く道があるだけで、ひとまずモンスターらしき姿は見えない。だけどモンスターはダンジョンのどこから襲ってきても不思議じゃないって言ってたし、しっかり警戒していかないと……!
「大丈夫……そう?」
周囲を警戒しつつゆっくり前に進んでいくと――向こうの曲がり角から何かが出てきた。
「っ!」
とっさにバットを構える。
飛び出してきたのはサッカーボールみたいな影で、それはバウンドしながらこっちに向かってくる。
間違いない……アレは、<スライム>だ!
上から押し潰したボールみたいなシルエットに、ブルーハワイで出来たゼリーみたいな身体。おおきさはやっぱりサッカーボールぐらいで、話に聞いていた<スライム>の特徴にピッタリはまってる!
<スライム>はウチに狙いを定めたのか、真っ直ぐにこっちに向かって近づいてくる。でもスピードはそんなに速くない。これでも体育でやったソフトボールでは百発百中でヒットを量産したこともある。
あれぐらいなら……当てられるッ!!
「――せいっ!!」
そしてバットが届く距離まで近づいてきた<スライム>に、空中で思い切りバットを振り抜く。
ぐにゃんとした重い手応えがあったけど、振り切れないほどじゃない。
「おりゃあ!!」
ウチがバットを振る抜くと、<スライム>はその勢いのままダンジョンの壁に叩きつけられた。水をぶっかけたようなべしゃっという音とともに、<スライム>の身体がダンジョンの壁に広がる。
それから少しして地面に落ちてきたかと思ったら、もう動くことはなくて弾けるみたいに灰になって消えてしまった。
後には濃い紫色の石と灰が残される。
「ふぃー、なんとかなったー。ていうかこれが『魔石』ってやつだよね? これをギルドにもってけば買い取ってくれるんだっけ。うんうん! なかなか順調じゃん! これで幾らになるんだろうなー?」
さすがにこれ一個だけじゃ雀の涙ぐらいにしかならないけど、これを十個、百個と集めていけば……んふふっ。
「しゃー! つぎ行くぞつぎー!」
ダンジョンを奥へと進んでいくと、少しずつモンスターとの遭遇回数も増えていった。といってもぜんぶ<スライム>だったけど、一撃で倒せるし思ってたよりもずっと楽。
手応えにしたってソフトボールよりもちょっと重いぐらいだし。あれぐらいならもう百回振ったって問題ない。身体の頑丈さと体力だけが自慢だからね。これで器用さも持ってたら完璧だったんだけど、とはしょっちゅう思ってる。
弟妹曰く「欠点があった方が愛嬌があっていい」らしいけど、ウチとしてはやっぱり器用さも欲しかった。そういえばモンスターを倒していくと『レベルアップ』してもっと強くなるらしいけど、器用さとかも上がったりしないかな?
そんなことを考えつつざっと二、三十体ぐらいの<スライム>をべしゃっとしたところで姿が見えなくなった。
「倒しすぎた?」
というわけで、今日のバイトはここまでにすることにした。
次の階層にいけばまだいるんだろうけど、ダンジョンは下にいけばいくほどモンスターが強くなるらしい。一階層の様子をみたかんじイケそうだと思うけど、まあ初日だからさ。
ダンジョンを出て近くにあったギルド――『冒険者組合』の建物に入る。
「すみませーん。魔石に買い取りおねがいしますー」
「畏まりました。それではこちらに魔石に提出をお願いします」
カウンターの上の板?金属板?に今日の成果である魔石を並べる。
「ええと……六等級の魔石が二十七個。ずいぶん頑張りましたねぇ。こちらですと買い取り金額は『八千百円』になります」
「は、はっせんえん!?」
今日のバイト時間はざっくり三時間ぐらい? 途中で少し休憩もしたりしたからもうちょっと少ないかも?
それで八千円ってことは時給にすると……二千円とちょっとぐらい?
ち、ちょう高時給じゃんっ!?
するとウチのその反応をどう誤解したのか。受付のお姉さんは眉を八の字に曲げて、すごく申し訳なさそうな顔になる。
「驚かれますよね。六等級ですと買い取り金額もこの程度になってしまうんです。五等級からはもう少しマシになるのですが、それでもまだ安いんですよね。申し訳ございません」
「い、いやいやいや!? むしろ高過ぎてびっくりしたくらいっすから!? え、八千円でも安いって冒険者ってどうなってるんすか!?」
「他国だと同じ内容でも一万円を超えるところもありますよ。日本はまだ冒険者というものに対して認識が甘いというか――と。こんなところで言っても仕方ありませんね」
「はえー……」
知らなかった……冒険者ってすごい儲かるんだ……
だってこれを毎日続けたら八千円が三十日だから、に、二十万円、とか?
そんなのもうバイトってレベルじゃないでしょ! 就職じゃん! 普通に就職したぐらいの稼ぎじゃん!
これで海外に言ったらもっと高いって――だからお姉さんが申し訳なさそうな顔になったんだ。ウチとしてはこれで十分だけど、ひょっとすると他の冒険者からすると安いって思うのかもしれない。
ウチとしてはこれで十分だけどねッ!
だからお姉さんにはそのまま買い取りをお願いした。
「あら? 今井さんは今日が初ダンジョンだったんですね」
「あ、そうっす」
「それでこれだけの成果を出せるなんて、とてもすごいですよ。優秀な新人が入って来てくれて喜ばしいです。ところで、もしよければ鑑定を受けていかれませんか?」
「鑑定?」
「はい。これだけの数のモンスターを倒したのであれば、レベルが上がったり新しいスキルなどが発現しているかもしれません」
鑑定一回にかかる料金は千円らしい。それも今のウチには無駄遣いに思えるけど、もしスキルが発現してるならたしかに確認しておきたい。
冒険者におけるスキルの重要性は、講習会でも弟妹に教えでもさんざん言い含められたから。
そうしてウチは鑑定をお願いすることにした。
サヨナラ今日の稼ぎの千円。また明日取り返すからね……
「ではこちらのアーティファクトに手を置いてください」
お姉さんがカウンターの下から出した、さっきとは違う金属板(なんか手形のガイドがかかれてるやつ)の上に手を乗せる。
「そのまま少々お待ちください…………はい。もう離して大丈夫ですよ」
「今ので鑑定できたの……?」
「最近の技術の進歩は凄いんですよ。こんな金属板一枚で短時間かつ正確に【鑑定】を発動してくれるんです。加えてPCに繋げて印刷にも対応してるんです。いま今井さんの鑑定結果が印刷されるのでちょっと待っててくださいね」
そう自慢げというか嬉しそうに語るお姉さん。
よく分かんないけど便利になって良かったね、てこと?
……ていうかこれで千円も取られるの高いって思っちゃう。
もちろんそんなこと口には出さないけどさ。
するとコピー機の動く音がして、またカウンターの下からお姉さんが一枚の紙をカウンターに裏向きで置いた。
「こちらに今井さんの現在のステータスが書かれています。後程ご確認ください」
「あ、ありがとうございます」
なんかすごいあっさり終わった。
それから鑑定結果が書かれたコピー用紙と、今日のバイトの報酬を受け取ってウチはギルドを出た。
さて。ここで一つ、重要な問題がある。
それはどうやってこのお金をママに渡すかってところだ。
冒険者になったことすら黙っていたんだから、そもそもこのお金だってすんなり受け取ってもらえるわけがない。ていうか勝手に冒険者になったことがバレたら絶対に怒られる。
ママってば、怒ると本当に怖いんだよねー……想像したら寒気がしたわ。
じゃあ最初っから言っておけばいいじゃんって話なんだけど、それはもう今更いってもしょうがないし。
弟妹たちも薄情だよね。
こういう一番協力してほしいときに限って自分でどうにかしろとか言うんだもん。そりゃあ自分でまいた種だから、ごもっともだしママが怖いのも分かるけど――ちょっとぐらい知恵を貸してくれたっていいじゃん!
「ひ、ひとまず今日は見送ろう。うん。ほら、お金だってもっとまとまった額で渡した方がママだって嬉しいだろうし? 別に毎日小分けにして渡すこともないじゃん! とりあえず一週間分ぐらい溜まるまでは保留ってことで! そう、それがいい!」
そう自己完結したウチは、今日のバイト代をリュックの奥に押し込んで隠す。
「それより鑑定結果! ウチのステータスどうなったのかな~!」
家への帰り道、さっきもらったコピー用紙を広げていざみてみることにした。家に帰ったらママにバレるかもしれないから、途中にある公園のベンチに座ってそれをみる。
「えっと――」
――――――――――――――――――――
名前:今井美羅 性別:女
レベル:3
スキル:
【スキルポイント】
――――――――――――――――――――
「ふむ……?」
スキルなのに【スキルポイント】とはなんぞや?
もっと詳細に分かんないのかな~と思ってると、下の方にその詳細が書いてあった。
――――――――――――――――――――
スキル:スキルポイント
モンスターを倒す、レベルアップする毎にスキルポイントを得ることが出来る
――――――――――――――――――――
「はぁ……つまりどういうこと?」
ポイントがもらえるから何だって話なんだけど? いやでもスキルポイントって言ってるんだからスキルに使えるポイントってこと? でもウチ、他にスキルとか持ってないんだけど。
「あーもう! ウチにも鑑定能力があればいいのにー!」
思わずそう叫んじゃった次の瞬間――
『スキルポイントを消費しスキル【鑑定】を習得しますか?』
「ん!?」
そんな機械っぽい音声が頭の中に聞こえてきた。
「……じゃあ、はい」
『スキルポイントを50消費してスキル【鑑定】を習得しました』
いまいちよく分かってないけど、つまりウチは鑑定のスキルを手に入れたってことでいいの?
本当に? そんな変な話ある?
さすがに信じられないけど、実際に試してみればいいか。
あれ、スキルってどうやって使えばいいんだ? とりあえず自分に対して鑑定が使いたいんだけど――
そう思った途端、頭の中にさっきコピー用紙でみたウチの鑑定結果みたいなものが浮かんできた。
――――――――――――――――――――
名前:今井美羅 性別:女
レベル:3
スキル:
【スキルポイント】【鑑定】
所持ポイント:7pt
――――――――――――――――――――
「ま~じか……本当に見れちゃった。ていうか本当にスキルに【鑑定】増えてんじゃん。あ、残りのポイントとかも見れる」
てことはさっきの謎の声はウチの幻聴でもなく本物ってこと?
「なにそれちょー便利じゃん! ポイントを溜めればスキルを習得し放題ってことでしょ!?」
他の人がどうかは知らないけど、講習会でも「スキルは重要だ」と耳にタコができるぐらい繰り返していた。それがポイント消費だけで手に入るのって、かなりダンジョン探索しやすくなるんじゃない?
それすなわち、バイトが捗る=お金ががっぽり稼げる!
「らっき~! 神様ありがとう~! どこの神様か知らないけど!」
今日溜めた分は【鑑定】を得るのにほぼ使っちゃったっぽい。たしか50ポイント消費とか言ってたしね。
こうしてウチはポイントでスキルを習得できるスキルを手に入れつつ、初日のダンジョンでのバイトを終えて無事に帰ることができた。
ちなみに。
家に帰ると、なぜか玄関でママが仁王立ちで待っていた。
そして一言、
「何かいうことがあるんじゃない?」
「ぴぃ……」
その後ろには悪戯っぽい顔をした弟妹どもが。
まさか……!
「ま、ママ。なにそんなに怒ってるの? ほ、ほら! そろそろ夕飯の時間だし、ウチも手伝うから準備しよう! 今日はなに作ろっかな~!」
「アンタ料理なんて出来ないでしょ。それよりお母さんに、何か、言うことが、あるんじゃないの?」
「はぃ」
玄関の扉の閉まる音が、逆に地獄の扉が開く音に聞こえた。
ウチ、生きて明日を迎えられるかな…………




