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今日・・・新しい学園生活が始まった!


通常の小説形式とは異なります。

違和感・不快感を持たれる方は・・・こんなアホな奴も居たんだな~。と投げ捨ててやってください。


---阿久津 秋人(あきと)の今日---



今日。俺はついに黎明(れいめい)学園へと入学する事が出来た。まさに記念すべき日だ!

まぁ2年になってからの転入だったし、試験も厳しく難しく難解である事この上なかったのだが、艱難辛苦を乗り越え!ついにこの良き日を迎える事が出来た。付きっきりで勉強を見てくれた姉の夏希には感謝の言葉も無い。いや、感謝の言葉しか無い。


前年度通ってた俺の母校が経営破たんの為に閉校の事態。いや、驚いたのなんのって。まぁ、それでも全校生徒は他の高校への振り分け転入が措置として取られたのだが、俺はわざわざ措置を受けずに黎明学園への転入を希望した訳だ。

何故か?

無論!重大かつ譲れない理由が在っての事だ。

黎明学園とは、小・中・高・大学までのエスカレーター式のマンモス学園なのだが、レベルも高ければ敷居も高い。当然、転入試験も素晴らしくレベルが高い訳だが、それでも俺は行かねば成らんのだ!

何故なら、黎明学園には、我が家の同居人にして家族!俺の妹も同然の瀬奈(せな)が通っているからだ!

黎明学園中等部2年!そして中等部において、否!黎明学園において間違い無くナンバーワンの美少女に違いない!!

おまけと言っては何だが夏希も通ってる。今は大学の法学部3年だ。まぁ精々頑張って弁護士にでもなんでも成ってくれ。ってそんな事はどうでも良い!

まさに一貫教育であり編入や転入等は余程の金持ちか天才でなければ有り得ないのだが、今回は我が嘗ての母校が閉校となり特別に転入試験の実施となった。この機を逃してどうしますかお客さん!

いやいや、まさに地獄の受験ロードを全力疾走!1日20時間の試験勉強を経て、俺はこの新学期、黎明学園高等部の2年への門をくぐった!!

遂に俺はお前の傍まで来たぞ瀬奈!

今迄はお前が苛められていないか?とか、襲われていないか?とか、階段から落ちて怪我をしていないか?とか、お腹を空かせていないか?とか心配で心配で仕方が無かったのだが・・・・・・もう大丈夫だ!これからは俺が近くに居る!何の心配も要らないぞ瀬奈よ!30分置きのメールも今日からは1時間置きに減らした・・・・・・・・・寂しくなんか無いもん。


今朝も瀬奈と夏希を起こして朝食を済ませ登校。あぁ!まさか一緒に通学路を歩き登校出来る日が来るとは!3回程涙ぐんだのは内緒だ。

始業式も早々に俺はクラスへと案内された。

どうやら1年から2年へはクラス替えは無い様だ。う~ん、コレは完全にアウェーだな。ま、別に構わんがな。

流石に今日は始業式だけで授業も無いし、簡単なホームルームで学校は終わった。

友達らしいモノは出来なかったが、ま、それ程心配はしていない。なんとかなるさ。

前の席に居た工藤(たける)って奴とは少し話しをしたな。中々気さくな奴だった。取り合えず簡単には挨拶したけど

「俺は工藤武!武でいいぞ。で、早速なんだけど阿久津、バスケやらないか?」

いきなり勧誘された。取り合えず俺の事は秋人で良い。とは言っておいたがバスケ部入部はきっぱり断った。

「え~!何でだよ」

面白い奴だ。寧ろ何故驚きの声を上げるのかが不思議だ。

「いや、てっきりバスケ部に入ってくれると思ったから」

俺は今日バカと知り合った。出来れば早めの席替えを希望する。

まぁバカの妄言は適当にあしらうに限るからな。本気で相手にしてエキサイトする事は無い。俺はバイトも抱えてるし、家に帰って家事もある。家族の食事を作るのは俺の仕事だ。部活なんかしてたら夕食が手抜きになってしまう。

「別にいいじゃん。晩飯なんか適当に作ったって腹に入れば同じだろ」

・・・・・・・・・いや、大人気無かったな。しかし夏希はともかく瀬奈に適当に作った夕食を食べさせるなど言語道断不義不忠!!

俺は武に、晩御飯と云うモノが如何に人間にとって尊いモノで有るかを猿にも分かる様にミジンコ並に砕いて語り聞かせてやった。カロリー配分から栄養バランス、そして一家団欒がもたらすであろう精神的効果!担任の教師がお節介にも俺を止めた。ええい。まだ半分も終わっていないのに忌々しい。

だがコレこそが我が理想の学園ライフと云う事件!いや、奇跡が起きた。


秋兄(あきにい)!一緒に帰ろ!!」


いかん。今思い出しても涙が出る。

瀬奈が俺を迎えに教室に。

瀬奈が俺と一緒に帰ろうと。

瀬奈が俺と一緒に下校。

瀬奈が俺と一緒に夕食の買出しに・・・あぁ、ついついお菓子を買ってあげてしまった。夏希のビールを発泡酒に変更した。

どうやら中等部はクラス替えが有ったらしい。仲の良い友達と一緒になれたと喜んでいた。良かったな、瀬奈。

「うん!一美も梓も木村君も久遠さんも一緒!あ、先生は同じ山崎先生なんだ」

そうかそうか・・・・・・取り合えず瀬奈。木村君とやらの住所だけでも聞いておこうか。

「?なんで?」

いや自分で調べるから良い。気にするな。

「ふ~ん。変な秋兄」

ふふっふふふふ。木村君・・・・・・まさかの君付け・・・・・ちっ!俺とした事が抜かった!まさか瀬奈に悪い虫が近付いていたとは!

コレは明日にでも早速その木村虫を調査せねば。

まぁ瀬奈の事だ。人を見る目は確かだろう。

きっと木村君は資産500億の資産家の御曹司で在りながら生徒会役員とサッカー部10番と野球部エースで4番を同時にこなすナイスガイに違いない。100点満点のテストでいつも120点を叩き出す天才児であるならば俺も喜んで瀬奈を君に託せると言うモノさ・・・・・・そうで無いのなら今の内に辞世の句でも書き綴っておくがいい!わははははははは!!!

「落ち着けアホ()!!」

夏希。笑ってる間にアッパーは止めてくれ。まだ舌がヒリヒリしてる。


頭を冷やす意味でもバイトに入る。俺のバイトはプログラミングのバイトだ。家で出来るしソコソコ良い金に成る。ま、出来高制ってのは良いよな。やりがいも出るし。

今取り掛かってるのを仕上げちまえば3ヶ月は喰うに困らん。瀬奈も新しいシューズが欲しい頃だろうし、中2に成ったんだから参考書だって買わないと。う~ん・・・来月には瀬奈の好きなロックグループのコンサートが有るしな。仕方無い。コレを仕上げたら単発モノでも入れるか。単発モノは実入りも少ないが手っ取り早いからな。

「あ!ねぇ秋人。私週末飲み会なんだよね~」

まったく。ソレが一体なんだってんだか

「今月ピンチでさ~。ちょっと貸してよ」

3千円で良いのか?なら貸してやる。って言ったら泣かれた。お前幾つだ!止むを得ず2万の出費。いよいよバイトを空けてる場合じゃ無くなったな。ドチクショウ!

本気で気合を入れて仕上げねばな。


深夜2時の俺のベットでは瀬奈が静かに寝息を立てている。

「ねぇ!今日コッチで寝て良い?」

今日なんかの日だったか?俺が瀬奈関連の記念日を忘れる等有り得ん筈だが

「ふふ。なんか今日から学校でも秋兄と一緒だと思ったら嬉しくて!だから今日はずっと一緒に居るの」

言って3分としない内に眠ってしまった。



「・・・・・・お父さん・・・・・・」



寝言なのだろうか?そんな言葉を聞く度につくづく思う。

俺はこの寝顔を護りたい。護らなければ成らない。たとえ何を引き換えにしようとも・・・


どうか・・・幸せな夢が見れます様に・・・・・・おやすみ、瀬奈。



◇ ◇ ◇



---栗谷 瀬奈の今日---



今日はとっても最高の日!だって秋兄が私と一緒の学校に通う事になった初めての日だもん!

今迄はず~っと違う学校だったけど、これからは毎日一緒に学校に行けるんだ。こう考えたら秋兄の学校が潰れたのってラッキーだったかも。

私は秋兄と夏姉(なつねえ)と3人で暮らしてる。

4年前にお父さんが死んでお母さんがお母さんの実家に帰って。私はお手伝いさんと一緒に暮らす事になった。

お父さんの事が大好きだったお母さんは、お父さんの事が大好き過ぎて・・・・・・私と一緒に暮らせなくなっちゃった。私を見るとお父さんの事を思い出しちゃうから。

そんな時、秋兄が私を迎えに来てくれた。

「瀬奈は僕が預かります!」

それが今から3年前。

秋兄の両親は4年前に離婚して、秋兄と暮らしてた秋兄のお母さんの頼子おばさんは病気で亡くなった。秋兄は有耶無耶のウチに独り暮らしになってた。

「母さんの保険金も有るし、なんとかなるさ」

そうして半年後に私を迎えに来てくれた。

流石に最初は色々と問題・・・が無かったのが問題って言うか・・・寂しかったのを覚えてる。

お母さんもお爺さんもお婆さんも、「お前の好きにしなさい」だけだった。

月々のお金が口座に振り込まれて、黎明学園の卒業まで学費は直接支払われている。正直可也の金額なんだけど

「いつか瀬奈が必要になるかも知れないだろ?だから出来るだけこのお金には手を付けないでおこう」

そう言って秋兄は私のお金には手を付けない。秋兄が働かなくても充分に生活していけるのに・・・今でも毎月100万円。あの頃には分からなかったけど、大金が振り込まれてくる。私にはこのお金をどうしたら良いのかまだ分からない。

「貴女が大人に成った時に答えを出せば良い。それまでゆっくりと考えなさい」

夏姉はそう言って笑ってくれた。

夏姉は秋兄のお姉さんで2年前から一緒に暮らしてる。それまでは黎明学園の学生寮に居たみたいだけど、秋兄が私と暮らしてるのを聞いて一緒に住みだした私の家族。

黎明学園に特待生で入った凄く頭の良い人!しかも美人なんだ。スタイルも良いし明るくて!

今は法学部の3年で将来は弁護士さんか検事さんかな?

私の自慢のお姉さんです!

「秋人~~。私朝はコーヒーだけで良いってば~」

「やかましい!キチンと飯を喰わんと健康に良くないだろう。成長期の不摂生は害悪で罪悪だ!」

「いや、私もう成長しないけど」

う~ん・・・夏姉も外ではキリッ!とした感じなんだけど、家の中ではダラ~っていうかホニャ~って感じなんだよね。まぁ、家族だから安心してるって事なんだろうけど

「夏希。朝はシャワーを使うなとは言わんが朝食は服を着て食べろ!瀬奈が駄目人間の影響を受けたらどうしてくれる!」

「え~~・・・むふふ。瀬奈、コレがナイスバディの秘訣なのだよ」

ちょ・・・・・・とだけ考えた。ら、夏姉が秋兄にお玉で叩かれた。

「アホな事言うな!瀬奈も考えるな!ただのアホ話だ!」

秋兄には分かんないのよね。乙女心。


今日からは秋兄と一緒に登校。それが嬉しい。

学校までの道程じゃ私が先輩だもんね。秋兄に近道とか毎朝挨拶するお家の人とか、よく寄り道するゲームセンター・・・は出入り禁止になりかけた。危ない危ない。色々と教えながら歩いてたらアッと言う間に学校に着いた。ホント、楽しい時間は経つのが早い。

今日から2年生。クラス替えはドキドキしたけど仲の良い皆とは同じクラスになれた。良かったな~。

今日は始業式の日だから簡単なホームルームだけ。

「一緒に帰ろう!今日は部活無いんでしょ」

久遠さんが声を掛けてくれた。

私と一美は女子サッカー部。今日は始業式って事で休みだ。でも、折角今日から秋兄と同じ学校なんだもん。やっぱり一緒に帰りたい。

「へ~。栗谷の兄ちゃんか」

「秋人さんでしょ。ウチの転入試験に受かるなんて凄いね」

一美と久遠さんや梓は秋兄とは会った事あるしね。当然、私達が血の繋がった兄妹で無い事も知ってる。第一苗字が違うしね。それでも皆、秋兄を私のお兄さんって呼んでくれる。流石私の親友達。

「じゃあ近い内に会えるかもな!」

木村君はそう言うんだけど

「止めといた方が良いよ木村」

「・・・短い人生だったね」

「木村一志。思えば良い人だった」

一美・久遠さん・梓が木村君を哀しげに見詰めていた。なんで?

高等部の高舎は少し緊張したけど、部活の先輩とかも居たから偶には行ってた。でも今日は違う。今日は・・・秋兄が居た。

秋兄!一緒に帰ろ!って言ったら秋兄が泣き出した。ビックリだ。

もしかしたら転入したばかりで友達が出来なかったのかな。なんか秋兄と話してる人が居たけど、あの人はまだ友達じゃないんだろうか?

「じゃな、武」

いや、友達だね。もう名前で呼び合う人が出来るなんて流石は秋兄!

でもあの人は「あ、ああ」とだけか。やっぱりまだそんなに仲良くないのかな?よく分かんないや。

帰りは秋兄とスーパーに一緒に行った。こうして夕食の買い物を一緒にするのは久しぶりだ。やっぱり同じ学校って良いよね。

秋兄も楽しいみたいで、いつもはダメって言われるポテチ大袋を買ってくれた。チョコもジュースも。やっぱり新天地ってウキウキするのかな。

夕食を食べながら今日の学校での事を話したんだけど、ひとつ疑問。木村君の住所を秋兄が知りたいって・・・なんで?

「いや。自分で調べるから良い。気にするな・・・学園のデータベースにハッキングして・・・待てよ?市役所のデータベースから入った方が・・・」

秋兄がブツブツ言い出した。なんか分かんないけど食べ終わった食器を片付けて簡単に洗ってたら

「落ち付けアホ人!!」

「はははハギャン!!・・・|ヒャニヒュンヒャヨニャヒュヒ《なにすんだよなつき》」

ホントに夏姉と秋兄は仲が良い。

こんな賑やかで温かい日は、独りで寝るのが勿体無い。


「今日なんかの日だったか?」


秋兄の部屋に行ったら秋兄は仕事してた。プログラミングのバイト。

秋兄はパソコンで仕事をして、その収入で私達3人分の生活を支えてくれてる。頼子おばさんの保険金も結構有るみたいなんだけどソレにも手を付けていない。出来るだけ残して置きたいんだって。この先何が有るか分からないからって。

でも秋兄って結構優秀みたいで、凄い裕福って訳じゃないけど、私達3人がそれなりに暮らしていける位の収入を得ているみたい。夏姉も凄いけど秋兄もやっぱり凄いと思う。

ホントは私もバイトとかして少しでも協力したいんだけど

「瀬奈が働く必要なんか無いぞ。瀬奈の周りにだって、働いて家計を助けてる同級生が沢山居る訳じゃ無いだろ?」

だけど。と言っても聞いてくれない。

「そうだな。夕食の献立が納豆と米だけになった時には瀬奈にも働いて貰う事にするよ」

そう言って秋兄は笑ってた。


秋兄の後ろ姿。この背中が私をいつも護ってくれる。重なる映像が思い瞼の裏に映る。

昔見た、コレはお父さんの背中だ・・・お父さん・・・

言葉に成ったのだろうか?眠気に包まれた薄い視界の中で、秋兄が私に振り向いた・・・ねぇ?どうして秋兄はそんな哀しい顔をするの?

何か言ってあげたい・・・のに・・・・私は眠りに落ちていく。

ココは温かい。秋兄の温もりと匂い。


・・・・・・大丈夫だよ。お父さん・・・私は今、幸せだから・・・・・・



◇ ◇ ◇



---工藤 武の今日---



今日は面白い奴と会った。と言うか知り合った。

黎明学園に転入してくる事も珍しいが、なんと言っても変わった男だ。

阿久津秋人か。

一見して鍛えてる身体つきだ。こう見えても俺だってバスケ部じゃ2年にしてレギュラー入りしてるんだ。それなりに自信がある。その俺の勘が言う。

コイツは出来る。

だが、まぁ早速部活に誘ってみればあっさりと断られた。

「部活か?断る」

本当にあっさりだ。いや、むしろバッサリと言った感じですらある。しかも理由が

「俺はさっさと帰宅して妹の為に夕食を作らばならんのでな」だそうだ。

しかし俺も迂闊だった。夕食なんて適当に作れば~なんて言ってしまったのが悪かった。だがしかし、アソコまで熱い奴だったのか。30分、俺は如何に夕食と云うモノが中学2年生にとって大事な物なのか!と言う事を叩き込まれた。込まれたのだが・・・すまん秋人。俺にとっては全く必要無い知識だった。オマケに奴は中学2年に限定するものだから時折話が脱線して訳が分からん。

しかし驚いたね。秋人の言う妹があの栗谷瀬奈の事だとはな。と、言う事は上の法学部の夏希先輩は

「?夏希は俺の姉だ」

どうにもコイツは俺達男子を敵に回したいらしい。

夏希先輩と言えば黎明学園のスター!栗谷瀬奈にしても将来の有望株として名を知られている。まさかあの2人の兄弟が転入生とは。

先輩と栗谷に関しては、事情があって同居している家族同然の間柄。と言うのが定説だ。が

「アホタレ。瀬奈は俺の妹だ。苗字がどうでも血縁がどうでも関係無い。ソレが真実でソレが全てだ。他に必要な物なんかねぇ」

ココまでハッキリ言い切れるのは、コイツにとってソレが本当だからなんだろうと思った。

やっぱりコイツは面白い奴だ。正直、俺は気に入った。


「秋兄!一緒に帰ろ!」・・・・・・もっと正直言おう。俺はコイツをいつか殺すかもしれない。


栗谷瀬奈ってこんな良い顔で笑ったっけ?

いや、確かに部活でも見掛けたし活発な女の子では有ると思ってたけどな・・・中々どうしてコイツは・・・有望過ぎる株だな。

って、おい・・・

「~~~~~~~~!!」

秋人。お前は何処まで感涙してんだ。

成る程。どうやら秋人は栗谷を溺愛している様だ。もうソレは気持ちの良い位に。

コロコロとゴロゴロと。まるで子猫の様にじゃれ付く栗谷に笑みを浮かべながら秋人は帰って行った訳だが、まぁその光景は微笑ましかった。ソコまでは我々も許そう。だがな秋人。

「あれ?ねぇ秋人居ない?」

「え?あの」

「あれぇ?おかしいなぁ。確かにこのクラスに転入って聞いたんだけど」

まさか夏希先輩が来るとはな。いやいや、いつ見てもお美しい。てか美人過ぎる生夏希!

写真部のプロマイドがバカ売れも頷ける。ってか俺も買ってるが・・・ダメだ。本物の美の10分の1も表せていないじゃないか!ウチの写真部にはもっと腕を磨いて貰いたいもんだ。

秋人ならさっき中等部の栗谷と帰りましたよ。って俺話したよな。あぁ、今日は記念日だこりゃ。

「あら?瀬奈と。じゃあ仕方ないか。うん、ありがとね、君」

ふっ。もう死んでも良い。

いやぁ、それにつけても・・・・・・・・・駄目だ。あの2人と今も1つ屋根の下で暮らしているかと思うと阿久津秋人への呪いの言葉を100は連ねる事が出来そうだ。青少年の想像力&妄想力を侮るなよ秋人!お前は既に俺達の中では禁断の扉を蹴破って大人の階段を3段飛ばしで駆け上がっちまったぜ!

だが、まぁお蔭で楽しい1年が始まりそうだ。それはそれで良いさ。ウン。

明日は連絡先でも交換しようか。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ!てなぁ!!



◇ ◇ ◇



---阿久津 夏希の今日---



やれやれ。今日は流石に慌しい1日だった。

それにしても秋人がウチの学園に受かるとは。我が弟ながら瀬奈の為には異常なパワーを出すわね~。感心感心。

それに瀬奈も嬉しそう。

あんなにはしゃいで家を出て行くなんてね。よっぽど秋人と登校出来るのが嬉しいのね。

ま、秋人の事だからウチの学園にもスグに馴染むでしょうし、心配もしていない・・・いや、心配事はあるわね。


事、瀬奈の事に成るとアイツは周りが見えなくなるから、暴走しないか心配だわ。


ちょっと釘でも刺しておこうかと思って教室に言ってみたけど

「あ、秋人ならさっき中等部の栗谷と帰りましたよ」

そっかそっか。瀬奈に先を越されたか。ま、良いわ。

って、良くなかったわね。なんで私のビールが発泡酒になってるのかしら?秋人。

「?夏希は呑み過ぎなんだから何飲んだって一緒だろ?それとも大自然でも買ってこようか?ビックボトルで」

ちっ!さては帰りに瀬奈にオヤツでも買い与えたか!そそくさと瀬奈が消えたし。まったく・・・どこまでも秋人は瀬奈に甘い。

だが案の定、暴走気味にもなってるわね。

「・・・・・・・・・イスガイに違いない。100点満点のテストでいつも120点を叩き出す天才児であるならば俺も喜んで瀬奈を君に託せると言うモノさ・・・・・・そうで無いのなら今の内に辞世の句でも書き綴っておくがいい!わははははははは!!!」

取り合えず殴って黙らせた。ブツブツと気持ち悪い。

何やら瀬奈の友達の中に男の子が居たらしい。予想してたとは言え、こりゃ早々に疲れるわね。

大体、瀬奈だって年頃の女の子なんだし、男の子と遊ぶ事だって有るでしょうに。

「あああああ遊ぶだとーーーーー!!まさか・・・・・・なんで年頃だからって男遊びせねば成らんのじゃ!!」

男の子と遊ぶ!って言っただけでしょうが!!

久々に2発連発で殴ったわね。

本当に秋人は瀬奈の事に成ると変なベクトルで物事を考えるから困る。って言うか、よくソコまで突き抜けた思考を持てるものだと逆に感心する。

そんなに心配なら今度会いに行けば良いんじゃないの?瀬奈の事だもん。ちゃんと良い友達を見つけてるわよ。何と言っても私の自慢の妹だもんね。

「そうか・・・そうだな。それじゃあ早速明日にでも」

うんうん。

「武器を持って殺し合いに行くとすギャ!!」

3発目は顔面にストレートをお見舞いしてあげた。

コレは早めに手を打たないとその男の子が危険ね。


今夜も秋人はバイトだ。ま、家の中でだけど。

本当に秋人は頑張る。頑張り過ぎてコッチが心配になるんだけど、それでも一向に止まろうとはしない。

多分・・・動き続けていたいんだと思う。不安な自分を支える為に。

私も自分の食費位は!って家庭教師のバイトもしてるんだけど、中々に身入りは少ないし勉強もしなきゃなんないし、付き合いとかもあるし、ね。

父さんからの仕送りは学費と僅かに食費に消える。

あ~。2万貸してくれたのは助かったな~・・・って駄目ジャン私!来月から頑張るから許してね!秋人!

せめてもの。と思ってコーヒーを持って行ったんだけど、僅かに開いたドアから見えるのは秋人のベットで眠る瀬奈。偶に一緒に寝るんだよね。あ、私も偶に瀬奈と寝るし。

でも聞いてしまう。


「・・・・・・お父さん・・・・・・」


瀬奈の呟きは私と秋人に突き刺さる。

私は良い。でも秋人はその度に・・・止まれなくなる。


「・・・・・・おやすみ、瀬奈」


こんな時の秋人の顔は見たくない。私はコーヒーを持ってリビングへ戻るしかない。

4年前まで普通に在った私達の日常。

私達にも瀬奈にもそれぞれ両親が居て家族が在って、隣同士でよく皆でご飯を食べてた。

瀬奈の家は古武術の道場で、門下生もソコソコ居た。

まぁ、ソレは副業みたいなもので本業はサラリーマン。それでも土日や夏休みなんかはワイワイと賑やかだった。

秋人もソコに通って教えて貰ってたし、私も瀬奈もよく稽古を観に行っていた。

あんなに楽しかった生活が・・・たったの4年前なのにどこか遠い。

格闘技には事故が付き物で、怪我も付き物で・・・・・・ただホンの少し運が悪かっただけで・・・


稽古中におじさんが死んだ。


おばさんは壊れてしまった。瀬奈の家は無くなってしまった。

秋人は何処までも自分を責めた。責めて責めて・・・私達にはそんな秋人を見続ける事が耐えられなくて、父さんと母さんの間にも亀裂が入ってしまった。

私達の家庭が壊れた事も秋人は背負ってしまった。秋人の所為では無いのに・・・だけど私達には余裕が無かった。心に・・・もう一杯一杯だった。

母さんは身体の弱い人だった。結末は予期出来なかった訳じゃなかった筈なのに。

私はそのまま寮に入った。いや、きっと寮に逃げ込んだのね。ただの学生である事に、私は逃げた。

2年前、学園で瀬奈に会った。同じ黎明学園に居るのは知っていたのに、私はどこか瀬奈と会うのを避けてた。でも偶然に出会ってしまった瀬奈は明るかった。

その時には秋人と暮らしていた。

「俺は瀬奈を護るよ・・・何があっても瀬奈を護る。その為なら俺の命なんてどうだって良い。俺の未来の全部を賭けても、瀬奈の未来が開けるならそれで良い」

久しぶりに再会した時、まだ中学2年だった秋人はもう全てを決めてしまっていた。


あれから2年。

せめて一緒に暮らしたかった。秋人の荷を一緒に背負ってあげたかった。もうその荷を降ろすと云う選択肢を秋人は望んではいなかったから。せめて一緒に背負いたかった。

あの日に望んだ未来に今の私達が居るのかは分からない。分からないけど、そう悪くない未来に自分達は立っていると私は思いたい。


こんな夜はお酒を飲んでしまう。いつもより深く。深く。

こうして落とし所を作ってしまう自分が情けない。

大丈夫。きっと明日は今日より良い日に成るから・・・そう信じて・・・おやすみなさい。秋人。瀬奈。



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