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愛とは見返りを求めず与えること

 俺は冒険者になると決めた。

 王になるために。サラを救い、魔法神託の儀の闇を暴き、この国を正すために。


 だけど、両親にどう説明しようか。突然「Sランク冒険者になる!!」なんていっても不自然に思われるに決まってる。俺は常日頃、成り上がりたいとは言い続けていたが、それはあくまで、学者や騎士などある程度その職業になるまでのレールが確立されている職業だ。Sランク冒険者は確かに名誉だが、冒険者自体はアウトローな存在。不信に思われ親になぜ冒険者になりたいか、尋問されるに決まってる。そうなったら口が上手い方ではない俺は終わり。両親に説得されて『2つの魂』の能力に見合った学者系の道に進めと言われ反論できないで終わるだろう。


 ならいっそ、最初から「学者になる!」と嘘をつき、両親にバレない地域で勝手に冒険者になろうか。学者になるために王都に行くと言えば、今までの俺の家族との会話ともズレないし、魔法に見合ってるので合理的な判断だと理解し、快く送り出してくれるだろう。


 それか、何も言わず家から飛び出してしまおうか。それは、、、


 想像すると暗い気持ちになる

 何にしろそろそろ、出発しないとな。


 こんな考えが逡巡していたある日。

 唐突に火蓮は言った。


「サムエル。両親には全てを正直に話せ。」

 思考が停止し目が点になった。何言ってんだ?こいつ。

「サラのことも。魔法神託の儀のことも。『2つの魂』の本当の力も。私のことも。冒険者になることも。全てだ。」

「いやいやいやいや、信じてもらえるわけないでしょ。だってサラは覚えられてない。君の存在も見えない。それに王になるために冒険者になるなんて言ったら絶対止められるよ。信じてもらうために銃でも出すの?そうしたら俺は両親に魔法について嘘をついたことになる。本当の魔法名が載ってる戸籍謄本を両親が確認するために俺は公的な施設に連れていかれるよ!!そうなったら本当にまずい!!だから信じてもらう方法はないんだ!!そうしたら本当に僕は家出するしかなくなる!!そんなのは嫌だよ!!」

 心のまま必死に訴えた。火蓮は何か言い返してくると思った。


 けれど、


 火蓮は慈愛を含んだような表情で俺を見ていた。

 凛とした火蓮の顔には微笑が添えられていた。

「そうかサムエル。お前は両親を愛しているのだな…」

「…っ」

 口に出すのは恥ずかしかった。ずるい。そういう視点で話すのかよ…


「恥ずかしがる必要はない。私も両親を愛している。愛しているとも。私の両親はあるとき、私の進路に心配を示していた。危険な海外の地域に娘が行きたいと言うのだからな。反対して、海外へは行かせない…そんな選択も両親はできただろうな。だが、私の両親は子どものころから私を見ていて、私が大切にしている価値観を熟知していた。だから私の可能性を信じて、私を送り出した。」


 いつのまにか、俺は黙って聞き入っていた。俺は火蓮の過去を記憶で知ってる。だが記憶を共有しただけでそれぞれの思考は独立している。俺の知る事実は、火蓮の両親は火蓮を心配の言葉をかけながら海外へ送り出した。それだけ。記憶に対する火蓮の考えまでは分からない。今は火蓮の考えを聞いてみたかった。


「他者の可能性を信じて送り出す…これはなサムエル。愛なのだ。」

「それが…愛なの?」

「そうだ。『愛とは見返りを求めず与えること』だ。私の両親は私を送り出したとき、ただ送り出したわけじゃない。私に『心配する気持ちを押し殺して、両親として火蓮の価値観を優先する』という裏のメッセージを私に与えてくれたんだ。そこに見返りなどあろうはずもない。そこにあるのは間違いなく、愛だ。」


 サムエルはハッとした。


「サムエル、お前の今の状況は過去の私に似ている。お前が両親に全てを正直に話せば私と同じように両親は許可をお前に与えて送り出してくれるかもしれない。愛ゆえに、な。ときにサムエル。お前の両親はお前を愛してると思うか。」


「愛してると思う。俺も両親を愛している。」

 今度は恥ずかしがらず堂々と言った。


「ならば、まずはお前が愛を与えるんだ。全てを正直に話すことによって『俺は両親を信頼しているよ』という裏のメッセージをな。お前の両親はお前を愛している。きっと…私の両親のように応えてくれるはずだ」


 腑に落ちる。

 火蓮の言葉が体に溶け込んでいくようだ。

 もはや俺に迷いはなかった。


 そしてその晩の食事に全てを両親に話した。


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