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痛感する無力

 その日は家族を失った13歳の女の子のカウンセリング予定だった。カウンセリングするときは、カウンセリングする人物についての資料をよく見る。彼女の母親はすでに亡くなっていた。そして、その後よりどころであった兵士の父親の訃報が届く。上の兄弟はいるが男性のため戦争に駆り出されていた。彼女は1人だった。


 きっと彼女は孤児院に行くか引き取り手を探すことになる。だが、その前に大切な人を失った心の傷は誰かが寄り添って癒さなければならない。今までたくさんの人々をカウンセリングにしてきた。心に変化が見られない人物もいれば、私のカウンセリングによって変化する者もいた。

 全員ではないが確かに私は実感していた。中学生のとき写真でみた「恵まれない人間」。彼らへ携わり援助することができている、力になっていると。


 愚かにも、、そう私は、、満足していたのだ


 カウンセリングの直前、私は集中していた。きっと周りが見えなくなっていたのだろう。カウンセリングする女の子のことばかり考えていた。どんな言葉が有効か、何をいってはいけないか、彼女が何を感じているのか…頭の中で思考していた。



 轟音。




 私のいた部屋は部屋ではなくベランダになっていた


 崩れた家でできた醜悪なベランダだ


 何が…

 砂埃が舞い視界が奪われる。耳は鼓膜が破裂したのだろうか。うまく聞こえない。


 そしてようやく視界が開け、照り付ける太陽と共に

 山のように大きな男の集団がそこにはいた。


 そこからは、、、思い出したくもない。

 今回カウンセリングを担当する少女、その父親を殺した集団。敵国の兵士だった。明らかに私は日本人だったので、兵士たちは敵の人間ではないとわかってたはずだった。もちろん、敵兵士が武装していない日本人を巻き込んだとバレれば国際問題に発展する。


 ただし、バレれば。


 紛争地帯で戦闘行為に巻き込まれ死亡。

 紛争地帯で行方不明。


 いくらでも言い訳は転がっているのだ。そうなればもはや無法地帯。国際問題も人権もクソもない。


 汚された。


 必死に抵抗はした。だが、私はは無力だった。

 知っていたはずなのに。気づいていなかった。

 平和な日本で暮らしてきた私は女性は男性よりも力がないなんて単純なことに気付けなかったんだ。


 私は汚された。

 あとは口封じのために殺される。


 運命を受け入れた私は心を無にしようとした。

 だが、銃を向けられ殺される最期の瞬間。

 そんな瞬間すらも現実は無慈悲だった

 カウンセリングする予定だった女の子が瓦礫の下で血を流して動かなくなっていた。


 あれ、私なんのためにここに来たんだっけ?

 あの子の心を救うためだよね?

 なのに、あの子は死んでる。

 そして、私も死ぬ。絶望的なまでに無意味な犬死にだ。


「バン」

 乾いた音だった。

 撃たれた。


 意識がまどろむそんなとき

 ようやく愚かな私は気づいた。

 恵まれない人間の力になっているだと?

 満足しているだと?


 ふざけるな!!


 恵まれない人間などまだまだ無数にいる。

 でも自分は死ぬ。もう何もできない。

 恵まれない人間は恵まれないままだ!

 私は力になどなっていない。

 世界のほんの数百人をカウンセリングしてきただけだ。

 世界は何も変わっていない。

「誰かがやらなければいけないなら私がやる」だと!!

 崇高なモットーを掲げて粋がってただけだ。

 クソッ!! クソッ!! クソッ!!


 …悔しいよ。気づくのが遅すぎたよ。

 私は無力だった。カウンセラーじゃ駄目だったんだ。

 もっと力のある存在になって、「恵まれない人間」がそもそも発生しないようにしなければいけなかった。

 もしもう一度人生があるのなら、それが実現できる首相や大統領、いや、「王」のような存在を目指したのに…


 ここで終わりたくないよ。

 神様、いるのならもう一度だけ私にチャンスを。


 …


 誰かからの声を聞いた

『面白い。』

『いいだろう、もう一度チャンスを授けよう』

『その願いにふさわしい魔法もな』


 私の意識は夜空のような暗闇に落ちていった


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