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ミムラスの花畑にいる夫へ

作者: 小泉 上沙
掲載日:2025/08/01

私と夫の話。

読んで頂けると幸いです。

 私の夫は昔から、他の人とは感性が正反対な人でした。


 


 幼稚園のとき、楽しみにしてた運動会のリレーで、夫がコケてしまっても。


「ぼく……、なかないもん!」


 他の子なら泣いているのに、夫は涙を浮かべた笑顔で笑った。



 

 小学生のとき、夫が図工の時間で必死に描いた絵に、私が水をこぼしてしまっても。


「もう一回描き直したいと思ってたんだよね!」

 

 怒っても当然のことをされたのに、夫は嬉しそうな顔をした。


 

 

 中学生のとき、夫がキザなセリフで告白して、それを私が振っても。


「我は、諦めぬぞ……!」

 

 振られるのって悲しいもののはずだけど、夫は怪しい笑みを浮かべた。


 

 

 高校生のとき、私が学校でいじめに合っていた現場に、夫が出くわしても。


「大丈夫か!? 何やってんだよお前ら!」

 

 クラスの皆は笑っていたのに、夫は見たことのない顔で怒っていた。


 

 

 高校3年生のとき、私と夫が同じ大学を受験して、夫だけが合格しても。


「……」

 

 自分が合格して飛び跳ねたいほど嬉しいはずのに、何も言わず一緒に朝まで泣いてくれた。


 

 

 なんとか浪人して私が夫の後輩として大学に入れたとき、わざわざ夫と同じサークルを選んでも。


「よく頑張ったな! まあ、俺はお前が合格するって信じてたよ」

 

 こんな私に付きまとわれて鬱陶しいはずなのに、誰よりも明るく口を開けて笑った。


 

 

 社会人2年目のとき、夜の公園で私が意を決して夫に告白しても。


「俺も、ずっと……好きだった。こちらこそよろしくお願いします」

 

 はたから見れば、幸せなムードに包まれていたんだと思うけど、私は泣いてしまって、夫も泣いていた。


 体から水分が無くなってしまうんじゃないかってほど泣いた。それほどまでに、嬉しかった。


 

 

 些細なことで喧嘩したとき、私がムキになって夫と口を利かなくなっても。


「ほんとに俺が悪かった。一緒にこれ食べて仲直りしよう!」

 

 私の態度に怒っても普通なのに、夫は、ニコニコと笑顔でプリンを渡してきた。


 何であなたはそこまで優しいのですか? 私なんかに優しくしてくれるのですか? その優しさがあれば、もっと素敵な人を選ぶこともできるだろうに。


 

 

 社会人5年目のとき、夜景の見えるレストランで夫が私にプロポーズしても。


「誰よりもお前を幸せにするから。俺と、結婚してください!」

 

 私なんかを選んで後悔するに決まっているのに、夫は、私を幸せにすると言って笑った。


 私も、この人を幸せにしたいと思った。自分を選んでくれたあなたを、誰よりも幸せな人にしたかった。


 

 

 私が家事を失敗してばかりのとき、夫がどんなに仕事で疲れていても。


「いつも家事を頑張ってくれてありがとな。けど、今日は俺に任せろ!」

 

 休日は自分自身に使いたいはずなのに、夫は笑いながら、いつも私の代わりに何でもしてくれた。


 

 

 夫が過労で倒れてしまったとき、私が夫の不調に気づけなかったと悔やんでいても。


「お前は何も悪くないよ。自分の体のことも分からなかった俺が悪いんだ」

 

 夫に無理をさせていたのは私で、悪いのは私なのに、夫は寂しそうに笑いながら、私の頭を撫でてくれた。


 

 

 検査の結果、過労じゃなくてもっと重大な病気だと発覚したとき、私がショックでワッと泣き出してしまっても。


「あちゃあ、ごめんなぁ。大丈夫、大丈夫だよ。こんなのすぐ治るさ」

 

 泣き出したいのは自分のほうだろうに、治らない病気だと分かっているのに、夫は申し訳なさそうに微笑みながら私を抱きしめてくれた。


 この温もりが消えるのが怖かった。あなたがいない未来を想像するのが怖くて仕方なかった。病気が治ると心の底から信じていた。


 

 

 夫が段々とご飯もまともに食べられなくなってきたとき、私が夫の前で弱音を吐いても。


「お前は強いから、俺なんかがいなくなっても大丈夫。多分、俺はもうすぐ死ぬけど、俺のことは忘れて新しい人生を歩んでほしい」

 

 死ぬのが怖くない人なんてこの世にいないはずなのに、健康な身体を持っているのに弱音を吐いている私に腹が立っているはずなのに、夫は蝋燭の火のような声を発し、笑顔で笑った。


 私は強くなんてありません。あなたがいなくなっても大丈夫じゃありません。あなたは絶対に死にません。あなたのことを忘れるなんて一生できません。あなたのいない人生を歩みたくなんてありません。


 ……あなたは、私のこと何もわかっていませんでしたね。


 

 

 いよいよ最後となったとき、チューブに繋がれた夫の前で私はただ泣くことしか出来なくても。


「俺と、結婚してくれて……ありがとう。……あぁ、また、一緒に……、プリン食べたいな………………」

 

 苦しくて苦しくて、話すこともままならない状態だというのに、夫は消えてしまいそうな声でそう言って、弱々しい表情で笑った。


 それはこっちのセリフです。あなたの隣で生きられただけで幸せでした。あなたには感謝の気持しかありません。プリンだって、いくらでも食べましょう。これから、いくらでも……。


 だから、誰かこの人を助けてあげてください。私を助けてください。神様間違えていますよ? 連れて行くべきなのはこの人ではありませんよ? なぜこの人なんです? なぜ今なんです? なぜこんな願いも叶えてくれないのです?


 もう誰でもいいから、何でもいいから、この人を生き返らせてやってください。私の命と引き換えでも構いません。ただ、あなたの笑顔をもう一度――。


 


 私が夫の墓の前で手を合わせたとき、夫のことを思い出して目に涙を浮かべていても。


 「」

 

 夫は何も喋らない。墓石は微動だにだって動いたりしない。


 それでも私には分かります。あなたはきっと、こんな泣いてばかりの私の前で、あの優しい顔をして……、笑っているのでしょう?


 心の底からあなたを愛しています。またいつか、この空の上で会いましょう。


 もちろん、そのときは笑顔で。



どうも上沙です。


あなたには大事な人がいますか?

      愛する人はいますか?

       その人の笑顔を、今すぐ思い浮かべる

                ことはできますか?                              


大切な人の笑顔というものは、そこにあるだけで私たちの心の雲を吹き飛ばし、晴れやかな気分にしてくれます。


今日その人に会ったとき、満面の笑みで話しかけてみてください。きっと、その人も渾身の笑顔を返してくれますから。         

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