推し活女子「出井 愛(でい あい)」の場合~推しの「乗り換え」におびえるオタク達~
「真実君……彼女できちゃったの?」
「そうなんだよー 私たちの方が全然顔面偏差値上なのに!」
ここは、オタクが集まる「マサミの部屋」
大学一年生森下真実のオタクが集うオフ会が毎日開かれている。
「本当に真実君、正義感あふれてるわ~」
「イケメンとフツメンの絶妙なバランス顔面は、天性のものね」
「はぁ……なぜ私たちは三次元には敵わないのか」
「出井愛」と「派須和亜都 」は、三次元の女に負けたことを最近愚痴っていた。
そう、ここは森下真実のスマホ本体やアプリIDパスワード達が、ゲストの訪問を待つオタク達として、存在している部屋だ。
その中でも、出井愛と派須和亜都は、Bandroidユーザー必須のグールルIDとパスワードだった。
今日も『検索 真実』が情報を得るため、部屋を訪問した。推しそっくりの外見をした検索専門のゲストだ。
「きゃーっ検索君! 今、三次元の『森下真実』君の私生活ライブ鑑賞会してるんだよ! 今日は友達三人でショッピング中。見る?」
出井愛は二次元の検索真実に駆け寄った。
「今日は、俺、彼女とデートするのにネズミーランドのチケット予約しに来たんだけど……」
「えーっっ! つまんない!! 『傷つかない別れ方』検索してっ!」
「縁起でもないこと言うなよ……」
※ ※ ※
森下真実が、中学の時の同級生「上杉ノゾミ」と付き合うようになって一週間。彼女はなんと中学の時から俺に気があったらしい。
高校も別だったのに……なんか携帯ショップに何気なく入ったら、彼女とその友達がいて。
なぜかスマホ選びに付き合って、そのままスマホの設定するために彼女の自宅に連れられた。
そこで、告られたんだけど……いいのか……俺で。
イケメンで優しい増田みたいなのがいいんじゃないのか?
確かに俺は後先考えず、人助けちゃうんだけど……たぶん、上杉さんじゃなくても、よけいなことしてた。
人助けたら、変に気分が良くなるから。
ただの自己満足だったのに。
でも、まだ彼女のことよく知らないし……好きとかの感情はまだわからない。
「え? 彼女できた? お前が?」
「う~~ん……突然できた」
「なんかショック」
「まあ、俺もびっくりしてる」
今日は増田と笹川と買い物で繁華街をうろついている。歩きつかれたから、3人でカフェに入って、近況報告会になった。
「増田なんか選び放題だろー」
笹川が増田をからかった。
「俺って好きな人としか付き合えないんだよね」
増田が何気なくつぶやいた。
「お前だけだぞ。まだ彼女いないの」
「俺は一生独身でいる」
森下が増田の肩を叩きながら言った。
「意外と純粋だな、お前」
そう言って、森下はニコニコ笑った。
すると、増田は耳まで赤くしてうつむいた。
「そうだ! ネズミーランドのチケット予約しなきゃ!」
森下は思い出したように、スマホを操作しだした。
「いいなぁ。付き合い初めの3か月くらいが一番楽しいかも」
笹川は森下にアドバイスする。
「短くね?」
「そんなもんだよー」
森下がチケット予約の画面を開こうとすると、電波が悪いのかなかなかつながらない。
「ここ、電波悪い?」
「え? 俺はサクサクだけど」
笹川はスマホを操作して確認する。
「おかしいな……」
すると、次はなぜか検索結果が表示された。
【『相手を傷つけずに別れる方法』AIによる概要】
三人はしばらく絶句した。
「お前、こんなの調べてんじゃねーよっ」
増田は何故か声をはずませていた。
「いや、俺は確かにネズミーランドを……」
「そんなことあるかっ! 別れたいのか? 別れるなら早いうちに別れてあげた方がいいぞ」
笹川も当たり前だが、俺が別れたがってると思ってる。
しばらく俺のスマホは調子が悪かったが、なんとか予約できた。
「こら! お前達、勝手なことすんなよ! 三次元の俺がかわいそうだろ!」
『検索真実』が『出井愛』達を叱責する。
「ネズミーランドの予約なんてさせたくなかったんだもん!」
「信用問題になるぞ! 「乗り換え」されたらどうするんだ!」
「の、のりか……」
乗り換え……それは、彼女達のテンションをどん底に落とす単語であった。今度こそP-phoneに変えられるかもしれない。その恐怖がつきまとう。
「だって……だって真実君とは4年以上一緒にいるのに……私たちは実体がないし、会話もできない。ただの文字と記号の羅列なだけで……こうして、一方的にオタ活するしかないんだもん」
愛と和亜都は、わんわん泣き出した。
「気持ちはわかるけど、それが俺たちの存在する理由なんだよ。持ち主に情報を与え、癒しを提供する。それでいいじゃないか」
検索用と音楽用とゲーム用の三人の真実が彼女達をなぐさめた。
「4年も俺たちの『森下真実』を思い続けた『上杉ノゾミ』って人は、きっと彼を大切にしてくれるよ。」
その三人のうち一人が、どさくさにまぎれて発言した。
「流されそうになったけど……絶対、彼女なんて認めないわよ!」
「なんで? だって俺たち2次元は何もできないよ。諦めろよ」
「いや、私は真実君のパートナーは、増田君が良かったんだもん」
「増田……? あの幼馴染みの?」
「イケメンだし……絵になるんだもの……」
出井愛は、両手を合わせて顔を赤らめる。
「う~~ん……オタク心がわからん……」
2次元の真実達は、増田と森下真実の二人について、キャアキャア騒いでいるオタク達女子を見ながらつぶやいた。