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3 出会い

 少年がにっこりと微笑んでイースに挨拶をした。イースは訳が分からないとばかりに、「は? なんだって?」と聞き返した。

 少年はイースの返事に首を傾げた。


「おや、お嬢様かと思ったら――」


 少年の視線は、明らかにイースの胸と下腹部を行き来している。

 イースはみるみるうちに顔を赤くしていく。


「貴様、何者だ! 誰の命令でここに来た!」


 イースが叫んだ時には、少年の視線は既に彼女から去っていた。あっという間に興味を失ったらしく、周囲を見回している。


「無礼者! 私の言葉を無視する気か!」


 イースの興奮する様子を見て、ミッチェルは逆に冷静さを取り戻した。


「イース。このような得体の知れない者に気安く近付いてはなりません」


 少年は目に驚きの表情を浮かべていた。

 イースとミッチェルの存在を完全に無視して立ち尽くしている。


「現在地を特定できません。マザーも感知できません。その他の通信網も――。自己診断プログラムを実施します――。異常なし。外部環境に壊滅的なダメージが発生していると推察されます」


 少年はひとしきりつぶやいた後、イースとミッチェルの方に向き直った。


「私はシェリバンジュ夫妻に購入された警護ロボットです。登録IDはMKF78KO5γKH65GG3cbnαE1109。私はサポートを必要としています。私は所有者を探しています。コントラクトのユニークIDは、2088kkimpd67g9y22wpUmです。繰り返します。私は――」


 ミッチェルとイースは呆気に取られたまま、少年が無表情で意味不明な言葉を繰り返すのを聞いていたが、気が短いイースの方が先に我慢できなくなったらしい。


「お前! いい加減にしろよな! さっきから何を訳の分からないことを言ってるんだ。どこから来た? え? 誰の手先だ?」


 話しかけられた少年が、ありえないスピードで首を回してイースの方を見た――ように感じられた。少なくともミッチェルには。

 勢い余って、少年の首がもげて転がり落ちるのではないかと思ったほどだ。


「現在、標高千二百十八メートル付近にいます。気温は十一度。季節は特定できません。時刻も不明」


 独り言のような少年のつぶやきに、ミッチェルが答えた。


「今日は二月十一日ですよ。時刻なら、そうですね。そろそろ七時といったところでしょうか。あいにく時計は持ってきていないのでね」


 まるで友人と会話でもしているような自然さだった。


「ミッチェル! なんで? こんな奴になんで? 敵かもしれないのに」

「そうだとしても。ここで怒鳴ってどうなるものでもありません。城に連れ帰って話を聞いた方がいいでしょう」

「でも――」


 城に戻れば屈強な兵士たちがいる。今ここで二人で対峙するよりも安全だろう。

 少年は、イースとミッチェルの顔を交互に見た。


「私が持っている基礎情報には、この惑星に関するデータがありません。ご教示願えますか?」


 ミッチェルが応じた。


「わくせい? 何ですかそれは。聞いたことがありませんね。それよりも、君は王宮から派遣されて来たのですか? 王都から来たとして、仲間は何人いるんです?」


 少年は少しだけ驚いた表情を浮かべた。


「仲間というと、私のようなモデルのユニットが他にいるかという意味でしょうか。それならいません。それよりも――」


 少年が、真っ直ぐにミッチェルの目を見た。


「王宮と言われましたか? 王都と? つまり、ここでは王による政治が行われているのですか。君主制ですね。文明レベルは理解しました。ですが、アライアンス内にはそのような惑星はなかったはずです。あったとしても、そのような文明レベルではアライアンスに加入できるはずがありません。もう少し情報をいただけませんか?」


 ミッチェルは少年から視線を外さなかった。少年は気にかける様子もなく、その視線をしっかと受け止めている。

 意図せず二人で見つめ合う格好になってしまった。


「驚きましたね。情報をよこせと言うのですか。あっはっはっはっ。面白い! 分かりました。とりあえず落ち着いて話ができるところに案内しましょう」

「ありがとうございます。ご招待、謹んでお受けいたします」

「ちょ、ちょっと! ミッチェル!」


 イースが慌てて抗議の声をあげたがミッチェルは無視した。


「とりあえず、君は王宮とは関係なさそうですが。そう理解していいですね?」

「はい。この惑星――ええと、この世界に私と関係のある者はおりません。それは断言できます」


 無視されたイースは面白くないらしく、無理やり口を挟んできた。


「入城は許可してやる。ただし、常に私を敬え!」


 少年は何と返事をするべきか迷い、目でミッチェルに助けを求めた。


「やれやれ。まあ、そうですね。あらぬ噂がたっても困りますし。王宮から詮索されるのも好ましくありません。君はマルク様の遠縁で、イースの護衛見習いということにしておきましょう。よろしいですか?」

「護衛見習い――それが私の役割ということですね。承知しました。よろしくお願いいたします」


 少年は改まった態度でミッチェルにお辞儀をした。


「こらっ! 敬うのは私の方だ!」


 イースが腰に手を当てて少年を見上げ、頬を膨らませた。

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