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#75 天国を目指す者 その5 (テルサ視点)

前回、間違えて投稿した#75を再度投稿し直します。前回の分は#74に修正したので、まだの方は読んで頂けると幸いです。

「おや……? リナリィ、君が着けているそれは……」



 傍らに控えるリナリィの首から()げられた物にラウルが気付く。



「私がプレゼントした物よ。ね?」



 青玉(サファイア)を加工したペンダントが、リナリィの胸元で鈍い輝きを放っていた。



「はい。日頃の感謝と今後への期待を込めてと、テルサ様が手ずから着けて下さいました。他の皆も、それぞれテルサ様から頂きました」

「ええ。皆、良く似合ってるわ」



 先日の私の要望をラモン教皇は聞き入れ、程無くして私の元に大量の服や貴金属、宝石類が献上されてきた訳だが、当然ながらそれら全てを私が使うのは現実的に無理がある。

 彼女たちに与えたあの品々も高級品には違い無いが、他の献上品に比べれば価格で劣る上に見た目も少し地味で、私の好みではなかったため、宝石箱の中で死蔵しておくくらいなら、下賜(かし)して忠誠心に投資した方が合理的だと考えてのことだ。



 リナリィたちは大いに感激、私に最大限の感謝の言葉を述べた。



 こうして恩を施し、懐の深い所を見せてやることで、『聖女』様のためなら命だって惜しくない、という者を増やしておけば、日頃の仕事振りも向上し、いざ危機が迫った時に身を挺して庇ってくれるかも知れない。

 忠実な手駒を多く揃えた者は強いということを、私はあの教主から学んだ。



「良ければ、あなたたちにもあげましょうか?」



 この二人の忠誠度と好感度も上げておいて損はあるまい。



「いえ、我々は──」

「『聖女』様のご厚意、有り難く頂戴致します」



 ラウルが言いかけた断りの言葉を遮って、ザッキスがずいと進み出た。

 名門出の聖騎士でも高価な品には目が眩んでしまうのか、それとも『聖女』の厚意を無下(むげ)にしてはならないという配慮か、単に遠慮を知らない性格なのか。



「でも、言っておいてなんだけど、貰った物は全部女物なのよね」

「承知しております。実は丁度、妻に贈る物を探しておりましたので」

「あら、奥さんが居たの?」



 人間性に問題があっても、顔と家柄と才覚に恵まれたザッキスならば、さぞ多くの縁談が持ち掛けられたことだろう。



「実はもうすぐ出産を控えておりまして、その(ねぎら)いの品を探していた所なのです」

「それはおめでとう。奥さんを思い遣る良い父親ね」



 親子の愛情は偽善、姉妹の愛情は皆無と、私の人生には家族の絆というものが一切無かった。

 親からプレゼントされた物と言えば、教団が作った本やDVD、教主が直々に念を込めた壺だの皿だの装身具だのといったゴミ以下のガラクタばかりで、姉とは共用物以外に物のやり取りなどしたことが無かった。



「それじゃあ行きましょうか」

「お待ち下さい、テルサ様。その恰好で行かれるのですか? これから例の訓練ですが……」



 今の私の、これから舞踏会にでも参加するような真紅のドレス姿を見て、ラウルが疑問を(てい)する。



「別に問題無いでしょう? 近い内に皇室主催のパーティーがあるそうだから、今から着慣れておきたいのよ。着替えるのも面倒だし」



 護衛と世話係を引き連れて、私は修練場へ移動する。



 サウレス=サンジョーレ曙光島から出る訳でもないのに、こんな風に聖騎士に護衛されるのは流石に過剰ではないか──と普通なら思うだろうが、充分に起こり得る「最悪の事態」への備えと考えればこれでも足りないくらいだ。



「本日は、瘴気浄化の訓練となります」



 ゼルレーク聖騎士団長の横には、厳重に施錠された巨大な箱。



「もしかして、その箱の中に瘴気が詰まっているのかしら?」

「その通りです。この箱を開けてこの修練場に解き放たれた瘴気を、御身に浄化して頂きます」



『邪神の息吹』を鎮めるには、膨大な量の瘴気が放出されている魔素(マナ)の源泉に赴き、そこで浄化を行う必要がある。

 今から行うのは、その予行練習だ。



 国を代表する有力者たちの前で、大々的に瘴気を浄化してみせることで『聖女』と栄耀教会の力をアピールしたい、というのがラモン教皇の狙い。

 いざ本番になって実は浄化できませんでした、では面目丸潰れになってしまうため、本当に私の『旭日』で瘴気が浄化できるか、テストを行って確かめるのは当然のこと。



「そして、瘴気の浄化に加えてもう一つ、試させて頂くことがあります。それがこちらです」



 ゼルレーク聖騎士団長の後ろには車輪が付いた移動式の鉄檻があり、そこには動物園のライオンの如く閉じ込められた、数体のゾンビとスケルトン。

 ただ本能のままに生者を襲うことしか考えられない、生と死の狭間に置かれた哀れな者たちが、私へ腕を伸ばし、虚ろな眼を向け、飢えた呻き声を上げている。



「浄化と同時に、こちらのアンデッドたちも相手にして頂きます。理由はお分かりですね?」

「いくら『聖女』でも、瘴気の浄化にはある程度の時間と集中が必要だから、まずは寄って来る変異魔物やアンデッドを追い払わなくてはならないから、よね?」



 初代『聖女』もそうやっていたと史料には記されていた。



「然様です。無論我ら聖騎士団、御身に指一本触れさせない覚悟で戦いますが、瘴気の地に湧く邪魔者共は数が多く、討ち漏らした個体が御身を襲わないとも限りません」

「そうね。瘴気の浄化が『聖女』の役割とは言え、自己防衛ができるに越したことは無いものね」



 所詮、最後に頼れるのは自分のみ。

 そのための教練も受けてきた。

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