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#66 天国と地獄 その13 (ダスク視点)

 互いの意思が一致した三日後、俺たちはサウレス=サンジョーレ曙光島に出頭した。



 取り調べは無く、早速その日の夕刻に処刑執行が決定。

 魔力封印の手枷を嵌められ、俺たちは並んで断頭台に掛けられた。

 イーバたちのように魔物と戦って死ぬとばかり思っていたが、カルディス王弟と出会う前の悪童時代に想像していたような、罪人として処刑される最期になってしまった。



 しかし、これは意味のある処刑なのだ。



 いつ魔物に喰われてもおかしくなかった身、死への恐怖は無い。

 比べれば、ギロチンで瞬時に終わるのはむしろ有り難いとさえ思える。



「──何か言い残すことがあれば聞こう」



 断頭台に拘束された俺たちに、聖騎士団長が言葉を掛ける。



「……無い。それより例の頼みはどうなった?」

「ダイアとの面会か。心配せずとも直に来る」



 せめて最後にダイアと会わせてくれ、と俺たちは希望していた。



 そして聖騎士が、俺たちの元へダイアを連れて来た。

 それだけではなく、カルディス王弟、セレナ、ディルク──俺たちが命に代えても救いたかった四人全員を纏めて連れて来た。



「最後の再会だ。喜ぶがいい」



 しかし、四人を連れて来たのは聖騎士団の最後の温情などではなく、再会した俺たちに喜びなど微塵も湧きはしなかった。



「な……ッ」

「こ、これは……ッ!」



 それもそのはず、連れて来られた四人は──既に物言わぬ頭部だけとなっていたのだから。



「「──ぬうおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」」



 魔物の咆哮以上の絶叫が、俺たちの喉の奥から爆発した。



 カルディス王弟たちだけでなく、命は助けると約束していたダイアまでもが、既に処刑されていた。

 ベナト王も栄耀教会も、最初から助命などする気は無かったのだ。



 秘密を知った者は、女子供であろうと、例え王族の血を引いた者であろうと皆殺し。

 全ては俺とグロームを労せず始末するための、無慈悲な奸計(かんけい)だったのだ。



「よくも……よくも騙したな、貴様らァ……ッ!!」

「ダイア様だけは助けると約束しておきながら、このクソにも劣る卑怯者共がァ……ッ!!」



 自分の甘さと愚かさ、そしてこの結末を仕組んだ者たちへの憤怒と憎悪で、反吐(へど)が出そうだった。

 食い縛った歯茎からは血が滲み、両眼から流れ落ちる滝がボタボタと地面を濡らす。



 何とかしてこの拘束を解き、憎き者共を皆殺しにしてやろうと足掻いたが、どれだけ力を込めようと、既に俺たちの運命はがっちりと固定されてしまっていた。



「ルーンベイルの時点で、大人しく捕まっておれば良かったものを。貴様らが王太子殿下を襲うなどという無駄な足掻きをしたお陰で、多くの騎士が哀れにも命を落としたのだ。当然の報いであろう」



 聖騎士団長のその言葉に、立ち会っていた者たちからゲラゲラと下卑(げび)た笑い声が上がる。



「この卑劣な外道共がーッ!! 多くの者を生贄にし、真の献身者を罪人に仕立て上げ、何の罪も無い女子供さえ無慈悲に処刑するなど、それが兄のすることか! 神に仕える者の為すことか! 血の通った人間のやることなのかァーーーーッ!!」

「おのれベナト、おのれ栄耀教会……!! 絶対に……絶対に赦さねえぞッ! 例えこの身が滅びようと、この怨念までもが消え失せると思うな! 貴様らの一族を! この国を! 神と信仰を! 未来永劫呪い抜き、祟ってやる……『邪神の息吹』が終わろうと、必ず暗黒をもたらしてやる……ッ!!」



 思い付く最大限の罵倒を、喉が張り裂けんばかりの声で吐き出したが、眼前の聖騎士団長はそれを最高の賛美のように、満足気に浴びていた。



「喚くがいい、悔やむがいい、呪うがいい。貴様らのように魂まで汚れし生粋の極悪人には、その結末こそ相応しい」



 かつてグロームは教えてくれた。

『天国』とは、己の人生に満足して、誇りと充実感を抱いて命を終えることだと。



 ならば『地獄』とはその逆──後悔と絶望に悶え、この世の全てを恨み、憎み、呪いながら死んでいくことに違い無い。



 まさに今、俺たちは『地獄』へ突き落とされたのだ。



「貴様らの骸は冥獄墓所へ葬られる。全員仲良く、陽光届かぬ永劫の闇へ堕ちよ」



 俺もグロームも、数え切れないほどの命を奪ってきた。

 多くの者の運命を狂わせ、不幸にしてきた。



 この世の全ては因果応報。

 命には命を以て報いるのが自然な道理。



 それでも──

 それでも、せめて──



 せめて、この世に生まれてきた意味を見出したかった。

 父親を手に掛けた罪を浄めたかった。

 期待と信頼を寄せてくれる者たちに応えたかった。



 務めを全うして、未来に何かを残したかった。

 生きていて、この世に生まれてきて良かったと思いたかった。

 己の人生に満足して──『天国』に行きたかった。



 俺のような暗闇に生まれた男には、それすらも傲慢だと、強欲だと、運命は言っているのか。

 過去を悔い改めて主君に忠を尽くそうと、罪は永久に消えないと言うのか。

 闇に生き、闇に死ねと言うのか。



 その通りだと言わんばかりに、血のように真っ赤な太陽が、西の地平線に没していく様子が見えた。



 あれは俺だ。

 俺の命の輝きも、ああやって今から沈んでしまうのだ。



 太陽が沈み切り、辺りは薄闇に包まれた。

 絶望の闇だ。



「──死ね」



 直後、断罪の刃が落ちる音が、鼓膜を小さく打った。

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