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#43 理の超越者 (カグヤ視点)

「話を戻すよ。肉体の時間を戻す、という現象の解釈を、もっとシンプルなものに変えると……何が思い浮かぶかな?」

「まさか……『若返り』ですか? プレリュードの体の時間を年老いる前まで戻せるかも知れないと、そう考えているのですね?」



 元の世界では絶対に考えられない答に、ジェフが頷いた。



「若返る術がこの世界では存在するのですか? 元の世界でもアンチエイジングの技術は数多くありましたが、結局は若さの維持、老化の抑制という時間稼ぎでしかありませんでした」



 時の流れには誰も逆らえない。

 時計の針は不可逆故に、まやかしの宗教によって奪われた青春も戻って来ない。



「この世界でもそれは同じですが、数少ない例外がヴァンパイアですね。アンデッド化した者はその時点で老化が止まりますが、若返ることはありません。しかしヴァンパイアは充分な血液を摂取し続けてさえいれば、どんなに老いた肉体でも全盛期まで若返るのです」



 ダスクの場合は二十五歳という全盛期で死亡したため、ヴァンパイアと化した後も肉体年齢に変化は無い。



「他に若返る方法は無いのですか?」

「あと思い浮かぶのは『エリクシール』っていう究極の魔導薬だけど……まあ、これは実在するかどうか怪しい代物だからね。一番現実的なのはアンデッド化だ」



 しかしアンデッド化は確実性に欠ける上、ゾンビやスケルトンのような知性無き下級アンデッドになってしまうことの方が多いのだから、若返りを目論んで自らをアンデッド化しようなどと考える者は居ない。



「じゃあ、早速試してみてよ」

「はい……」



 まさか。

 いやそれは有り得ない。

 あってはならない。



 そんな風に考えながらも、言われた通り若返りをイメージしながら魔力を練り、恐る恐るプレリュードに触れてみる。



 そして──



「これは……ッ!?」



 ほんの少し触れただけで、まるで空気が抜けた風船のように、老犬の体がヒューッと縮み出した。

 大きさこそ縮んではいるが、干物のように乾き痩せ細っていた身には肉が付き、抜け落ちていた皮膚からはフサフサの毛が伸びていく。

 それはまるで、映像の高速逆再生。



 死んだ魚のようだった眼にも光が戻り、十秒と経たない内に老犬プレリュードはその姿を一変させていた。



「こ、仔犬だ……僕が飼い始めた頃と同じ、仔犬の姿になった……!」



 キャンキャンという可愛らしい鳴き声が響く。

 呆気に取られるジェフの足首に擦り寄り、仔犬プレリュードが元気良く尻尾を振る。

 知らない者の眼には先程の病弱な老犬と同一人物──否、同一犬物だとは映るまい。



「ほ、本当にできてしまいました……」



 悪い夢でも見ているようだった。



「そうだね、半分冗談のつもりだったんだけど……どうしようか、お婆ちゃん?」

「どうする、とは?」



 エレノアも冷静ではあるが、目の前で起きたことに多少混乱しているようだ。



「どうする? 今度はお婆ちゃんで試してみる?」



 苦笑いを浮かべながらジェフがそんな提案をすると、



「……確かに、若かりし頃に戻りたいという願望が無いと言えば嘘になります。ですが、それでもやはり私はオズと共に歳を取りたいと思っています。それに私がその力で若返ってしまえば、カグヤの力が世間に知れ渡ってしまうでしょう。それだけは絶対にあってはなりません」



 私もエレノアと同意見だ。

 人間以外の生き物であればまだ誤魔化しが利くが、人間が数十歳も若返れば隠し通すのは難しい。



「まあ、そうだよね。若返る術があるなんて知れ渡ったら、皇帝陛下やラモン教皇のような老いた権力者たちが(こぞ)ってカグヤを狙い、大きな混乱が起きるのは火を見るよりも明らかだ」



 エジプトのファラオや秦の始皇帝の如く、富も権力も地位も名声も異性も得た権力者たちが、共通して最後に欲するのは『時間』──すなわち不老不死だ。



 時間は誰もが平等。

 故に老病死もまた、どんな人間にも平等に訪れる。



 しかし私の闇の極大魔力は、その絶対の理さえ超越してしまう──まさに禁断の力だ。



「でも、こうして若返らせることができたってことはだ、その逆もできると考えて良さそうだね」



 相手の肉体の時間を一気に加速させることで、玉手箱を開けてしまった浦島太郎のように老いさせ、そのまま老衰死させることさえできてしまうのなら、下手な攻撃魔法よりも余程恐ろしいのではないだろうか。



「何なら生物以外でも、物質を老朽化させて破壊したり、逆に古くなった物を新品の状態に戻したりと、様々な応用ができそうですね」



 エレノアの言う通り、様々な使い方ができる便利な力であるのは間違い無い。



 こんなに素晴らしい力を手に入れてラッキー、この先の人生も間違い無くハッピー─―とは、しかし私は微塵も思わなかった。

 神にも等しい超常の力を得てしまって、私はこの先平穏に暮らしていけるのか、という不安と恐怖だけが胸の内で渦巻いていた。

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