婚約破棄をしたら1日で滅びた国の話
「皆の者!よく集まってくれた!重大な発表がある。異世界から来た女、マドカ・スズキは偽聖女であった。しかも、平民である!」
「「「「オオオオオオーーーーーー!!!」」」」
ここはグランチェス王国の王城前広場、特設会場が設けられ王族と高位貴族たち民衆も集まっていた。
宣言を出しているのは、亡き国王に代わって即位したばかりの若き王である。
本来なら、即位と同時に結婚式をあげるつもりだが、伸びに伸び、婚約者に断罪をし婚約破棄を宣言し処刑を即日にするつもりである。
処刑が終わったら新たな婚約者を紹介し及び結婚式を挙げる予定である。
この国は異世界から聖女を召喚したが、全くの期待外れだった。
回復魔法も使えない。そもそも魔力すら観測出来なかった。
しかも、唖と思えるくらい何も話さない。恐らく話せないのだろうと判断された。
しかし、時間が経てばと、当時の国王は王太子との婚約者に指定し、この国基準で言えば、三年間辛抱強く待ったが全く目覚める気配がない。
しかも、数ヶ月前に、この国の公爵令嬢クリシュナに聖女の力が顕現したので、手のひらを返し。
マドカ・スズキと国王との婚約を破棄をし。彼女を処刑する事は確定事項である。
マドカ・スズキは粗末な服を着せられ、わざと醜悪な姿にするために、黒髪はボサボサ、平民の服を着せられ湯浴みすら何日していないか分からない状態だった。
一方、新たな聖女、クリシュナは水色の髪は整えられ、白の綺麗なドレスと装飾品で足の指先から頭まで覆われている状態であった。
「ゴホン!聖女と偽り多額な国家予算を浪費させた罪、何よりも聖女であると偽って我の婚約者になった罪は大きいぞ! 貴様は魔女に相違ないな。弁明はあるか!」
ワー!ワー!ワー!ワー!
「この偽聖女!」
「税金が高いのはお前の仕業か!」
「お前が役に立たないから父ちゃん魔王軍との戦いで死んだんだよ!」
話せない事を知っていてワザと聞いた。
マドカはこの理不尽な物言いに何も抗議の様子を見せない。
好き好んでこの国に来たわけではない。この国が勝手に呼んだのだ。
特別に素晴らしい待遇は受けてはいない。初めて支給されたドレスは王女殿下のお下がりだった。
しかし、彼女は縛られただ座り地面を見つめるだけである。彼女の両脇には大刀を持った処刑人が一人。抑える役の者が一人いる。
「・・・・・・・」
【皆の者!弁明無しとの事だ。よって、魔女に認定する!
今より宣言をする!我は、この女、マドカ・スズキとの婚約を『ハ~クション!』】
はあ。誰だ。我の宣言の途中でクシャミをする者は!!
「ウゴ、ウゴ!」
チィ、老王族か。確か王太后の親戚・・・
「そのご老体をお連れしろ。体調不良のようだ」
「御意」
「ゴホン!もう一度だ!我は婚約【ウウウウ~~~~ワン!ワン!ワン!グルルルル~~~】
「ウワ~!この犬、おかしいぞ!」
「涎を垂れしている!」
「病気犬だぁ!」
・・・・・・
数十分後平民が集まっている会場に乱入した狂犬は捕らえられた。
噛まれた平民達と家族は退散した。
まだ、民衆は会場には多くいる。
「陛下、偶然でございます。真の聖女である私がついております。婚約を破棄し魔女を処刑したら、今夜から閨を共にできますわ」
「もちろん、これは偶然だ。ゴホン!【宣言する!我はマドカとの婚約を『ヒヒヒヒ~~~ン!』】
「ウワー!暴れ馬だ!」
「一頭だけじゃないぞ!」
「おい、騎士が振り下ろされて会場に向かっているぞ!逃げろ!」
「もしかして、魔女の呪い!」
暴れ馬たちは処刑場周りの庶民を蹴散らしたが、不思議と処刑台の上には登ってこなかった。
やがて、暴れ馬たちはどこかに去った。
今、処刑場にいる観客は高台に設置された観客席にいる王族と貴族たちと警護の兵士たちである。
ここで、国王は不審から確信に変わった。
何だ。おかしい。婚約破棄と口にしようとすると異変が起きるのか?
チラ!
クリシュナを見る。ほお、彼女はなおも堂々としている。さすが真の聖女だ。
「陛下、このようなものは偶然でございます。ですが、私が浄化の魔法を掛けましょう。悪しき者を蹴散らせ!浄化!」
さすが、真の聖女である。両腕を広げて詠唱すると淡い青の粒子が幻想的に会場に降ってきた。浄化だ。
「陛下、これで魔女の最後のあ・・【ガキーーーーン】」
ビチャ!ビチャ!とクリシュナは肉塊になって飛び散った。
「ウワワワワワワーーーーーーーー!!」
我はみっともなく、尻餅をついた。王族や貴族たちも会場から逃げ出す者が多数。
クリシュナが肉片になった。何が起きた!
地面に穴が出来ている!湯気が立っているこれは何だ!
「陛下、これは空から降ってくる石ではございませんか?クリシュナ様に衝突したと思われます」
「ございませんかじゃねええええ!」
ズボ!!
「ウギャ!何故・・」
賢者を思わず刺して殺してしまった。
そう言えば、マドカ。会ったときから無言であった。
日を改めるか・・・しかし、ここで引いたら示しがつかない。
せっかく、異世界から召喚してやったのに・・・少しも役に立たない。魔王軍との戦でも使えない。いや、必要なくなった。ここ数年激しい戦いはない。小競り合いだ。
一度、無理矢理魔王軍との最前線に立たせたが・・・その時は偶然、魔王軍は我が軍の偉容を見て驚愕し慌てふためいて退却した
・・・・あれ、もしかして、魔王軍はマドカを見て逃げたのか?そんな馬鹿な。
婚約破棄を言うタイミングをずらしたらどうだ。
「婚約を・・・・・・・・・破【カン!カン!カン!】」
「大変だ!異変を知らせる鐘だ!」
「狼煙は何本だ!陛下、中止にしましょう!」
「ええい!まずは、婚約破棄が先だ!」
そうか、この女に向かって言わなければ婚約破棄と言えるのだな。
しかし、クリシュナの仇だ。正々堂々と言って・・・
「いや、もう良い!このまま処刑しろ!」
「御意!」
もう、王城前広場の群衆はいない。見せしめにならないが処刑人に命じた。
「処刑せよ」
「御意!」
処刑人が大剣を振りかぶる!
ピカッ!ゴロゴロゴロ、ドカ~~~~~~ン!
「な、何だ。今度は雷か!!処刑人の剣に落ちた・・・」
処刑人は言葉を発する間もなく息絶えた。
「「「「ヒィィイイイイイーーーー!」」」」
「逃げろ!」
「魔女だ!」
「待て!」
残っていた王族、貴族、兵が逃げる。
なら、我が自ら処刑してやる。
我は無人になった処刑場に降りた。
「はあ、はあ、皆、殺しやがって・・・この魔女め。お前との婚約を破棄し!処刑してやる!」
我は生きている。我の勝ちだぁ!
【ア~ハハハハハハ!どうだ。言えたぞ!これで、お前と我は何の関係もない。殺してやる!】
おお、まるで、我を祝福しているかのように空が明るくなった。先ほどまでの雷雲は消えたか?
空を見上げると。雲を乗り物のように使う髭ボウボウの巨人がいた。みた事のない衣服を着ている。ブカブカの服を帯で束ねている。男なのに、髪をもみあげの位置で束ねている。何だ。あの髪型は・・・そして、マドカと同じ黒髪だ。光輝いているだと・・・属性は神か?
いや、 まさか、魔人か?魔族の神か?
巨人が聞いた事のない言語で話しかけた。
「(我はスサノオなり。我が氏子を誘拐したのはお前か?)」
「はあ、何を言っている!意味が分からない!」
「(分からなくても良い。マドカよ。無言の願掛けは成就したぞ。願いを言え。一つだけかなえてやる)」
「(はい、日本に帰りたいです)」
「(うむ。復讐は?)」
「(フフフフ、もう、スサノオ様がされたのではないですか?)」
「(ああ、あと少しの所で我の関知しないところで殺されたら意味ないからな)」
「何だ。マドカ!話せたのか!」
マドカは三年の無言の願掛けをした。これは逆に三年の間、禁忌を犯さなければ命は保障される事になる。
ここで初めてマドカが我に話しかけた。この国の言葉だ。
「ルードリック陛下・・私、聖女なのです。神に祈りや願いが届くスキルがあります。だから、私の国の神に願いました。叶えてもらえるかは別ですが、三年間話さなければかなえて下さるとの啓示を頂きましたわ」
「・・・意味分からないが、そうか、なら、この国のために祈る事を許す!我の隣にいることを許そう」
「婚約破棄をされたのは貴方ですよ・・・もっとも、間接的利益として貴方方の滅亡寸前の国は三年間生きながらえましたわ。もっとも、待遇を良くしてくれたら、考えたかもしれませんね。今がちょうど、三年前に私を召喚した時刻です」
「(さあ、帰ろうぞ!後は魑魅魍魎どもが片付けをしてくれようぞ)」
「(はい!)」
「待て!やり直そう!婚約破棄は撤『ピカッ!』
ピカッ!
光輝いて、巨人とマドカは消えやがった。
やっぱり、魔神に連なる一族だったのだ。
「「「「ウワワワワワワワワーーーーーー」」」」
悲鳴が聞こえる!何だ。
ドロドロドロドロ~~~~~!
太鼓の音が聞こえる。これは、魔王軍の進軍太鼓!!
空を見たら、ワイバーンとそれに乗る魔族兵・・・何だ。我国の壁は、鉄壁のはずなのに・・・まさか、先ほどの警報は魔王軍が壁を越えてやってきたのか?
・・・・・・
その後、魔王軍の軍師、アンデットの骸骨軍師がグランチェス王国最後の国王の死体を確認した。
「ほお、この男からわずかに・・・異世界との縁を感じるぞ・・・」
魔王軍もここ三年異変を感じていた。
この国に進撃しようとすると、雷、陥落、魔獣の多量発生と不思議な現象が魔王軍を襲っていた。
不吉を背負う黒髪の不気味な女が前線に出てきたときは必死に総退却をした。
あれが天変地異の原因か?
攻めることをやめようと思ったら。
それが、突如、ダークエルフの巫女に『進撃せよ』との託宣が届いた。
魔神ではない。黒髪の巨人の夢を見たと云う。
黒髪、何かあると進軍を開始したのだ。
「後、少しで陥落できるところ、三年も持った原因はやはり異世界人がらみでしょうか?
軍師殿、魔王軍でも異世界人を召喚しましょう。設備が残っています」
「やめておけ。馬鹿な人族よ。異世界人は数千年の間、同族殺しを繰り返す愚で凶悪な種族よ。
今は一回の戦いで小国の人口を殺し合う規模と情報が入っている。
好んで召喚する種族ではない・・・外道な種族だ。
平和そうな顔に騙されると駆逐されるぞ」
「しかし、魔王陛下になんて報告しますか?」
「そうさのう。グランチェス王国の首脳部は愚かにも真の聖女を自ら処刑しようとして神罰を受けた。ご報告しろ」
「神罰・・・何か変ですね。そもそも真の聖女なら処刑される場面にすらならないのではないのですか?ほら、阿婆擦れ女神は助けるでしょう」
「フン、勘の良いオーガは嫌いだよ。頭空っぽ女神は、わざと困難に遭わせて助けて自分のありがたさを押しつけるのだとでも説明しておけ」
「はい・・」
・・・実際に処刑すら出来なくて国が滅亡したのは本当だろうよ。
と骸骨軍師は恐ろしい真の聖女がまだこの世界をウロウロしていると人族側に偽情報を流した。
人族側はその真意を測りかねている。真の聖女は有難い存在ではないかと。が、案外、人族に対する警告であったのを理解した者はいない。
最後までお読み頂き有難うございました。