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そこにいたのは麗子だ。うずくまっている。具合も悪そうだ。高志はドアを開けようとチェイン・ロックを外し、ノブをまわす。が、鐵の扉は開かない。麗子がもたれかかっているからだ。しかし最後には彼女を押し退けるようにして高志はドアを開け、腰を支えて麗子を立たせると反射的に首をまわして廊下に人影がないことを確認する。それから部屋の中に入ってドアを閉める。
「おい、どうしたんだ?」
麗子は答えない。ぐったりとしたままだ。顔と肘に殴られた痕らしい蒼い痣がある。
「しっかりしろ」
ベッドまで運ぶと、そっと横たえる。高志が今まで見せたことのなかった心からの優しさだ。水を汲みにいく。麗子の口を開け、少しづつ飲ませる。くそっ、誰だ、こんなことをしたのは? しかし高志に心当たりはない。
しばらくそうしていると麗子がゆっくりと目を開ける。うつろっていた目の焦点が合ったと思った瞬間、覗き込んでいた高志のことをものすごい力で弾き飛ばす。その目が恐怖に震えている。
「殴らないで!」絶叫する。
高志が戸惑う。
「おれだ、高志だ。わからないのか」
「いやよ、近寄らないで」
いったい、これは?
「わたしが悪かったのは良くわかったわ、高志。だから、もう殴らないで……」
「え?」
麗子が起きてベッドに座り直してから服の袖をまくっていくつもの痣を高志に見せつける。
「憶えてないの? あなたがこれを作ったのよ」