表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小鬼  作者: り(PN)
4/29

(もう手がない。それこそ首をくくるしかないだろう)

 内藤高志が思う。

 まさかの株の暴落だ。二、三の企業吸収の噂は聞いている。確かにリスクはあっただろう。が、まだ持つはずだったのだ。落ちるのが速過ぎる。あまりにも……

 結局、それを引き起こしたのは別の噂だが、今となっては、もうどうでもよいことだ。パソコンを使った一般投資家の市場が解禁された当初、『あなたもご家庭で簡単に破産できます』と自身でキャッチコピーを作って笑ったものだが、それが現実となったのだ。笑えない事実として自分自身に還ったのだ。おまけに手をつけたのは公金だ。高志にとっては大金の二千万円。いっそ、女を殺して逃げるか、と高志は思う。が、麗子だってバカではない。今は知らなくても明日になれば確実におれの失態に気づくだろう。

 さまざまな声が高志の頭の中で渦巻き始める。「そんな子に育てた憶えはない」と母親が言い、「いや、でも昔からそういう奴でしたよ」と同窓生の何人かが断言する。名も声も知らない一般市民がたて続けに笑いはじめ、その笑い声がくわんくわんと夜の街に反響した後、一般市民が見て見ぬ振りという態度を繰り返し取る。その全員が冷笑を浮かべてながら……

「だまれ!」

 高志が大声を張り上げる。誰もいないマンションの一室。三日前から役所は有休で休んでいる。どうにもならない。銀行預金を下ろしても金は二十万たらず。

 とりあえず麗子に逢う手はずだけでも整えるか? 世間に笑われるよりは、たとえ一瞬でも殺人者として畏れられた方がずっとマシだ。

 麗子はファッションモデルのようなすらりとした美人で、だが険があって傲慢な女だ。おれには本当のところ、どんな関心も抱いていないだろう、と高志は思う。そんなことはわかっていたのだ。理性ではどうにも詮ないことがある。麗子を抱くのは死体を抱くようなものなのだ。ひんやりとした爬虫類の死体。相手に応える気がなければ、それはマスターベーション以下になる。が、それでも構わない。ただ彼女の歓心を惹きたかったのだ。はじめて高志に男の満足を与えてくれた女が麗子だったからだ。

 ふいに玄関のチャイムが鳴る。

(警察か?)

 不安を隠しきれずに高志がドアの前に立つ。

「どなたですか?」

 おびえた声でそう訊いたが返事はない。反射的に、どんな家の扉にでもついている来客確認用の魚眼レンズを覗く。

 すると、そこに立っていたのは……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ