28/29
28
「じゃ、気をつけて」
亜樹をメドル・カーで家まで送り届けるとレイヴが言う。軽く手を振ると亜樹もお辞儀をしてから手を振り返す。
「さてと、ところでおれたちは何処に戻されるんだろうな?」
この世界に干渉してしまったからには元の所属時空に戻ることはできない。それが対小鬼起動捕獲有資格者の宿命だ。連動された局所時空のどこかに最適な確率分布で返送されるわけだ。
「旦那は、それでもどっかの時空に戻れますが、あっしはただの鐵屑ですぜ」
メドルがダッシュボードのスピーカーから言って、ため息を吐く。
「旦那とは、もう二度と遭うことはないでしょう」
「いや、そうとも限らんよ」
それが、この時空でのひとりと一台の最後の会話となる。二人は確率変数に分解され、時空の彼方へと飛ぶ情報パタンに変換される。