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素早く服を身に着けると、わたしは気の弱そうなおやじの部屋を後にする。
さっきの音が気になったからだ。
隣室のドアの前で多少気後れしたが、思い切ってノブをまわし、少しだけドアを開けて顔を覗かせる。
途端に濃厚な気配がわたしを襲う。
ねばねばした空気が全身を包む。
その空気に引っ張られるように、わたしが部屋の中に引きずり込まれる。
浴室のドアが開いている。
硬直した死体のような人間が床に何人か転がっている。そして、その前に黒服の影と、もうひとり別の男がいる。
そのもうひとり男が浴室の鏡越しにわたしを見る。
わたしの見知らぬ顔の男だ。
が、わたしの姿を認めたとたん、その男が硬直する。
ついで自分の背後に気配を感じる。