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小鬼  作者: り(PN)
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 起動室は緊張している。数分前からだ。

「小鬼の位置を確認しました」

 電子音声が告げている。

「一九九四年、いえ、一九九三年の日本です。東京都、新宿区または渋谷区近辺。十二月二日を起点に、誤差前後十六日です」

 まだだな、とレイヴは感じる。まだ範囲が広過ぎる。

 その想いはレイヴ以外の仲間――対小鬼起動捕獲有資格者――でも同じだったようだ。まわりを見まわすと彼らおよび彼女たちの表情にはまだ余裕がある。

「小鬼による事象はリンクされています」

 わずかの間の後、電子音声が追加事項を報告する。

「現在までに確認されたリンクの数は二件。以後、起点日を中心に八日以内に五件まで増える可能性が、有意確率八十二パーセントで確定されています」

 今度の奴の狙いは何だろうか?

 巨大電光パネルと卓上のディスプレイを交互に眺めながらレイヴが思う。ここ数年、小鬼は大災害を引き起こしていない。狂人を操り民衆を扇動して戦争を仕掛けたのも昔の話だ。そういった大変動による事象のずれ=ポテンシャル差は小鬼にとって、おそらく大味になってしまったのだろう、とレイヴは思う。満腹にはなれるが、標準的な味だ。珍味ではない。二年前、おれの標準起動偏差資質がリッケルト法による誤差内擾乱の範囲内にあると推定され、やはり二〇世紀末の別の日本に任務でリープしたときの感覚からいえば、結果的に多数の人間または知的生物を関与させる大変動は、せいぜい焼き肉程度の味でしかない、という表現もできる。決して鯔子からすみさえずりのような珍しさはないのだ。

「範囲がさらに狭められました。有資格者の選出を開始します」

 ここから先の小鬼の詳細情報は関与する人間の意識にも関わってくる。特定される位置情報が有資格者の意識によって擾乱を受け、宇宙の特定領域に変化を与えるのだ。そのため有資格者には絶対数が必要なのだ。たしかに小鬼と有資格者によって引き起こされる宇宙の特定領域の擾乱は宇宙全体からみれば時空の冗長度によって修正可能な些細なものでしかない。しかし、その幾何学的性質によって局所時空内に生じるある方向性を持ったゆらぎが散逸構造的に拡大される可能性はいくらでもある。だからこそ、小鬼との直接対決には、そのポテンシャル差を許容範囲内の最小限度にとどめる有資格者が必要なのだ。


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