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不敗軍師の意地(前編)

 それは虫の群れにも似ている光景だった。

 眼前を埋め尽くすのは大小の無数の怪物、それらが大嵐の大河を埋め尽くす怒涛のように地響きを立て、怒号を響かせ、こちらへと洪水のごとく押し寄せてくる。

 小高い丘に構えた本陣から見える光景はすべてそれ。魔物が9、その他が1。土の茶も見えず、空の青も見えず、混濁した色が合わさった灰色のみが眼前すべてを埋め尽くしている。

 

 人類に残った最後の戦力7083名。

 人類に残された逃げ場、なし。

 この戦場を抜かれれば人類は最後のひとりまで死に絶える。


 決して負けられない最後の戦場で、本陣の中央に置かれた床几に座した軍師は黙して眼前の光景を見つめていた。

 もはや寄せ集めでしかない人類連合軍の軍師、不敗の軍師と綽名された彼の双肩に人類の運命は託されていた。


 


 魔王が現れたのは10年前だった。

 大陸全土を揺らした大地震、そしてそれに続く怪奇な魔物の襲来。

 人が到底たどり着けないような高山、何処まで続くのかもわからない大森林、灼熱の火山、地の底をもさらに穿つ大迷宮、そして大図書館の閉架書架の書物の中でしか見られないような希少であり凶悪である魔物が地の果てから洪水のごとく押し寄せ、村や街を飲み込んでいった。

 ごく初期のみ、遠い国の惨禍を他人事のように考えていた国や人が対岸の火事のごとき心持ちで居たようだが、野火にも似た容赦のない侵攻はすぐさま彼らを当事者に引きずり込んでいった。 

 漁夫の利を得ようと考えたある国の宰相は、軍部に口出しを行い足を引っ張るうちにもろとも国ごと八つ裂きにされた。

 人々のため立ち上がった英雄も、果敢に戦い抜くも雲霞の如く押し寄せる大群に揉みつぶされた。

 ひとりの例外もない。

 惨禍の中悪人も善人も屍を晒すばかり、世界の縮図を地図に描けば、端から黒く燃えて煤となり燃え尽きていくがごとき侵攻であった。


 決して相容れない異形の群れに対し、ここに至り人類は団結した。

 帝国も皇国も王国も、親密な国も遺恨濃厚な国も、人間もエルフもドワーフも獣人も、男も女も若者も老人も、すべてが例外なく協力した。

 

 でなくば、死ぬのだ。

 未曽有の危機におよそ記録に残る限り初めてだったかもしれない、人類一丸となって抗った。

 

 だがそれでも侵攻を留めることはできなかった。

 

人類総じて抵抗の声を挙げ軍を発したころには押し返すことができたことがある。

 だがある一体の魔物の出現がすべての盤面を覆した。

 

 魔王。

 魔王はただ一体、ゆえに名前はない。

 人の倍ほどの背丈の、人の身体に竜の首を持つ巨人の姿をしている。

 暗色の鱗の上から人のように鎧をまとい、その身体に相応しい巨大な武器を振り回して兵士を蹂躙してきた。

 だが魔王の本質はそこではない。

 魔王が指を一本振るだけで、子ども程度の戦闘力の小鬼が筋骨隆々の戦士並みに戦うようになり、空を舞う飛竜が嵐のごとく風を纏いすべてを吹き飛ばし、火竜の吐息は無尽蔵に都市を焼く。

 ただでさえ有象無象で溢れんばかりな魔王軍、それが上から下まですべて強靭無双な豪傑とされてしまっては人類には抗うすべはなかった。


「ホリーライト神聖王国王都防衛戦」

「ビッグブリッジ撤退戦」

「ブレリズ大平原会戦」

「モリリン谷奇襲作戦」

「第1次、第2次人類連合軍決戦」


 魔王出現以降に記録されている大小の会戦はことごとく人類の完敗に終わった。

 幾多の英雄の死、幾百万の軍属の死、敗北に敗北を重ね、撤退に次ぐ撤退。

 大陸の端の端まで追い込まれもはや大海に面した小さな町ひとつが人類に残された最後の地。逃げ延びる大地も人類の運命も崖っぷちとなりもはや逃げ場なし。

 

 座して死を望まない最後の兵が隊伍を組み、人類の滅亡の時間をわずかとも伸ばすべく集ったのである。




「左翼ホリーライト神聖騎士団全滅!敵右翼健在、前進してきます」

「ドワーフ山岳猟兵団、損害多大!」

「援軍?そんなもの居るものかよ!……敵の、だと?」


 野陣に天幕を張っただけの簡易な本陣に怒鳴り声が飛び交う。本陣へ通信魔法で寄せられる連絡はすべてが自軍の劣勢を示すものばかりだった。


「だめです、数が違いすぎます!どの戦線も維持すら困難!どうすれば、軍師!」

「……左翼残存兵力は中央と合流、中央軍の左を固めろ。右翼は丘の右前方に隊列を組み死守だ。守りに徹するように言え」


 あたりにいくつもの箱が積まれた本陣の中央に立つ初老の男が簡潔に指示を出す。

 通称として軍師と呼ばれ、そしてもはや人類で軍師と言えばこの男しか残っていない。軍階級の上での役職が彼本人を示すようになっている。

 彼自身も自分の名を名乗ることもない。自称を軍師と言い、他人にもそう紹介される。

 もはや人類に彼の顔を知らない人間は居ない。知らない人間がいないほど死んでいった。

 かつて彼の名を呼んでいた人はもういない。


 本陣を張っているのはお椀を伏せたような円形の丘、その頂に本陣はある。

 その本陣に戦場の怒号と悲鳴、剣戟の音がだんだんと近づいてきた。

 

「近いな……」

「ここまで来るか」


 本陣での舌打ちの声の中、陣正面にひとりの兵士が駆け込んできた。

 全身は血に塗れ、その右腕はもはや無い。ちぎられた肩口から流水のように血が流れだしている。


「軍師!お逃げください!魔王が、魔王が!」

「魔王だと!どこだ?どこに出たんだ?」


 ざわつく通信兵の問いにその瀕死の兵士は口を開こうとした。

 そこに背後から彼の頭に覆いかぶさる巨大な手。鋭い爪を持つそれは、果実を握りつぶすような湿った音を立てながらゆっくりと閉じられた。


「ココだよ」

「魔王!?」


 今掴み殺した兵士を人形のように軽々と投げ捨て、もう片手に持ったおそらく先の兵士のものであろう腕を齧りながら冗談のように陣の入り口にそれは立っていた。


「ジンルイのゴミの諸君、ゴキゲンよう。こういうときはハジメマシテと言うのだったか?」


 竜に似た風貌ながら、その血に塗れた口元には異種族たる人類にもわかるほどの嘲笑がこびりついていた。

 ここに居るはずのない魔王の突然の出現に、本陣に詰める通信兵らの間に動揺が走る。


「どうしたね?まさか魔王たるワタシが最前線、しかモ敵本陣に直接現れるとは思ってもみなかったか?」

「……魔王、城に居るはずでは……」


 本陣に詰めていた兵士が呆然とつぶやく。


 もはや片手で数えられる数しかいない忍びの者らが、文字通り命をかけて魔王の在所を伝書鳩で送ってきたのは1週間前のことであった。

 その情報を元に起死回生の一撃を放つべく、生き残りで最も腕の立つ4人を魔王城、かつてホリーライト王国の王城であったシャイニングヒル城に飛竜による片道特攻作戦で送り込んだのは昨日のことであった。


「勇者?英雄?なんか知らんが残念だったネ。先ほど4人とも昼食にしたと連絡があったヨ。

 一応ゴミにしてはよくやったと誉めてやろう。城に置いておいた側近をひとり討ち取ったらしいね、脆弱なヒトの身でよくやった」


 魔王は鱗に覆われた手で人間のように、数度手を打ち鳴らした。


「だが無駄だったね、肝心の魔王はココにいる。キミたちの勇者は無駄死にだ。ゴミのように生き、死んで我々の腹を満たすだけの存在だった」

「くそっ、誤報だったのか!」

「誤報?バカを言っちゃあ困る。まさかコノ魔王がやすやすと君らに情報を掴ませると思ったのかね?

 ワザとだよ。忍びの者か何だか知らんが、せっかく城までやってきたんだ、土産のひとつも渡すのが礼儀、というものではないのかね?」


 ククク、と人のように嘲笑を響かせながら魔王は満足げにこちらを見やる。


「コノ状況」


 魔王は両腕を大きく開き、あたりを見回すように大きく伸ばす。


「右も左も、上も下も、前も後ろもすべて魔族、魔族、魔族だ。……おおっとシツレイ、後ろはまだだったね。だがそれも時間の問題、キミらをすべて殺せばもう誰もそれを止められない」

「させるものか!」

「オヤオヤ、威勢がイイね。だがどうやってコノ魔王を止めるのかね?」


 腕を組み嘲笑する魔王を前に、軍師とその護衛である近衛隊長以外の全員が剣を抜き構えた。

 魔王も自らの右肩のあたりに手をやると、空間から黒くゴツゴツとした巨大な両刃の斧を取り出す。


「今ここで貴様を討ち滅ぼす!いくぞみんな」

「やって見せたまえよ、ゴミ」


 半円に魔王を取り巻いた本陣の兵士が一斉に斬りかかった。

 だが魔王は最初のふたりの斬撃を軽々と斧の柄で受け止めると藁を振り払うように吹き飛ばし、態勢を崩したふたりの胴を横向きに一閃。

 晒した背中に突きかかった兵士を左の裏拳で血煙に変え、足元を突いた槍を小枝のように踏みつぶす。

 宙に舞う血糊に怯む兵士をその竜眼でギロリと睨むと魔王は片頬を釣り上げて嘲笑した。

 ほんの瞬時の攻防であっけなく幾人もの兵士が地に伏した。

 

「なんだ、コンナものかね。ジンルイ最後の軍と言うから少しは期待したんだが、所詮は寄せ集めなのか」


 ニヤニヤとしながら得物を肩に担いだ魔王に、兵士たちが押されたように一歩下がった。

 からかうようにもう一歩踏み出した魔王だが。


 鋭い金属音を立て、その足を鋼鉄の熊の手が掴んだ。

 ベアトラップ、トラバサミとも言う。鋼鉄のギザギザの歯を持つ鉄の罠であり、バネの力で挟み込み獲物を動けなくするものである。

 人間の手足でも挟まれば重傷は免れない。それの対大型獣用のやつが今魔王の足に食い込み止めている。


「ムオ、小細工を!」


 本来なら大型の熊をも捉えて重傷を負わせるほどの鋼鉄の歯も、魔王の竜鱗に阻まれて食い込みきっていない。

 だが同時に今まで傷の一つも負わなかった魔王に血を流させた。思ってもみなかった罠に今まで余裕の表情だった魔王の顔に焦りの色が浮かぶ。

 

 腕を組みその瞬間今まで一言も口を開かなかった軍師が右腕を振るい叫ぶ。


「今だ全員下がれ!ドワーフ砲兵!」

「応ともさ!」


 魔王に切りかかっていた兵士が全員左右に飛びのき、軍師と魔王の間に空間ができる。

 軍師の左には筒を束ね丸太のように太くした金属の長物が1機据えられている。射手のドワーフ兵がベアトラップに足を取られた魔王にその筒先を向け構える。

 箱で偽装され見えないようにされていた切り札のひとつ、


「ドワーフ鍛冶最大最終の武器、回転連続速射砲を食らいやがれ!」

 

 横に備えられたハンドルを疾走する馬車の車輪のごとくぐるぐると回し、同じ勢いで轟音を立てて無数の銀色の弾丸が魔王の竜鱗を抉った。ベアトラップの歯でも食い込まない魔王の体から、炭のように黒い鱗の欠片が雲母片のように飛び散り、紫色の血しぶきが魔王の姿を覆い隠す。


 軍師が魔王に語り掛ける。


「なまじ大掛かりな手を使うから気づかれるのだ。単純に足元に罠を仕掛け布で偽装しておく、魔王という強大な存在に対し、魔法で隠したわけでもなく大仰な仕業で隠したわけでもない。見えているのに見えないよう虚を突く、そこにあるのに誰も気づかない、それが手品の極意だとシャイニングヒル城でお前たちが殺した道化が言っていたよ」


 横で連射砲のハンドルを回しながらドワーフ兵もせせら笑う。


「かつてのホリーライト大聖堂の聖円十字を鋳つぶして作った弾丸、さぞ痛かろう?」

「ゴミが!ホザクなぁ!」


 銃弾に全身を抉られる魔王。だがそのままでは済まなかった。

 まだ自由になっているほうの脚で足元に転がっていた死体を蹴り飛ばし、射線に割り込んだ兵士の死体で一瞬弾丸が途切れた隙に魔王は自らの武器である大斧を肩に担ぎ大きく振りかぶり投げつけた。


 台風で飛んでくる大木のような音を立てて回転する魔王が投げつけた両刃の斧が、射手のドワーフごと連射砲にいとも容易く食い込んだ。

 機構を四散させながら速射砲がばらばらの部品となって止まる。半ば胴を両断されたドワーフ射手が、その中指を魔王に突き立てながら地面に崩れ落ちた。


「クソ魔王……先に地獄で待ってるぞ……」

「食われて滅ぶベキなゴミが、よくもやってくれたネ!」


 魔王は総身から紫色に流血しつつも忌々しげに片足のベアトラップを引きちぎり投げ捨てる。

 その魔王の前にひとりの剣士が進み出た。

 銀箔に縁どられた鎧、光り輝く明らかに魔法の品である長剣、塵で薄汚れながらもそれを構える剣士の足取りは確かである。


「そのゴミという我々の力、我々は簡単に滅びはしない!人類最高の剣士と言われた私の剣を受けろ!」


 軍師の横に控えていた近衛隊長が抜刀し、魔王に切りかかる。退いていた兵士らも同時に左右から槍を繰り出した。


 ……あっけなかった。

 近衛隊長は十数合切り結び、確かに単騎で魔王と渡り合えるだけの腕前ではあった。純粋な剣技だけならば魔王より優位だっただろう。

 だが身体的な基礎力が違う。

 近衛隊長の一撃は斬り入れようとも龍鱗を割りその下の肉から血を流させる程度に対し、無手にも関わらず魔王の一撃は防ぐともその肉体を責め苛む威力がある。あまりに一撃の威力が違いすぎる。


 やがて負傷と疲労で手の鈍った近衛隊長の隙を突き、魔王はその口を大きく開き悍ましい音を立てて吸気すると、その口腔から獄炎の吐息を吐き出し周囲を薙ぎ払った。

 槍の柄、皮鎧、頭髪皮膚そして肉そのものを焼かれゴミのように兵士らが崩れ倒れる。 

 吹き飛ばされ倒れた近衛隊長のみかろうじて命を留めていたが、皮膚の露出した部分は赤く爛れその顔も半面が崩れている。


「ヨシヨシ無事生き残ったな。人類最高、だったか?言うだけあってそれなりに健闘したな」


 魔王はそう言うと近衛隊長のもとに歩み寄るとその頭を左手で掴み眼前まで釣り上げた。


「まあ、以前のアレより物足りないがな。せっかくだ頂こうか」


 魔王は右腕を後方に引き絞ると抜き手の構えに取り、近衛隊長の胸にその手を突き込んだ。

 その鋭い爪は難なく鎧ごと近衛隊長の胸を貫きその右手は体の奥深くに埋没した。

 グジグジとその右手を蠢かせると、やがて赤黒い肉塊を掴みだし用無しとなったその身体を投げ捨てた。


「サテ、極上の血は極上の器で、と」


 魔王はその肩口の空間に手を入れると何やら半球状のものを取り出した。

 盃である。

 その盃に右手に掴んだ心臓をギュッと絞り出し、溢れる血液を注ぐ。

 その並々と血の注がれた杯は人の頭蓋骨の形をしていた。

 箔濃(はくだみ)という。頭蓋骨の内側を塞ぎ液体を注げるようにした上で漆を塗り重ね装飾をしたものである。

 漆塗りには斑がありあまり上手い細工ではないが、それがまた悍ましい。おそらく魔王の手製であろう。


「知っているか?この杯はビッグブリッジで単騎で殿をしていたハルヒという豪傑のものだ。

 まあ、強かったよ。これまでの人類のなかで一番強かったと言ってもいい。

 だが見ての通り、負けて、その首はワタシの喉を潤す盃。

 いやぁ、ジンルイにしては役に立ったほうでないのかね?」


 いかにも美味そうに近衛隊長の血を啜った魔王がなみなみと杯を満たしていた血を飲み干す。

 その口元を血に染めて、ついに本陣最後のひとりになった軍師に笑いかけた。


「さて軍師、もうこの場にはオマエひとり。そしてもうすぐ人類もすべて死に絶える。

 オマエを除いて全員が死ぬ光景をまざまざと見せつけてやるのも一興だが……」


 ニヤニヤと笑っていた魔王の面が、ふと真顔になる。


「軍師。ジンルイに残った最後の軍師。ほぼすべての会戦に参加し神算鬼謀を持ってジンルイの戦を支え、そしてすべての会戦に勝てなかった。

 長い付き合いダ。

 遠くから書面で指示を出し合い小競り合いをしていたころから戦い半ばのお互いが大群を指揮しぶつかり合う大戦、そして今の敗走戦。

 そうだ、オマエは勝てなかったのだ、一度とシテ。

 

 ……だが同時にワタシを勝たせもしなかった。

 ホリーライト侵攻戦では騎士団の一部と王族の最後の生き残りを逃がし、ビッグブリッジではハルヒとかいう猛将の助けがあったとはいえ追撃軍を留め本軍の撤退を成功させ、大平原では雑兵とはいえ数多の魔族を罠に嵌め滅ぼした。

 二度の決戦においても数限りないジンルイを殺し滅ぼしても、負かしても負かしても息の根を止められない。

 すべてオマエの仕業だ。

 ジンルイを滅ぼそうとするワタシに食い下がるオマエの」


「お褒め頂き恐悦至極、魔王、私の宿敵よ」


「ジンルイは終わる。最後のヒトリまでことごとく殺しつくす。

 ……だがオマエだけはどうしても、このワタシの手で殺してやりたかった。

 憎くも愛しい、ジンルイで唯一のワタシの宿敵よ」


 いかにも感慨深い風に語る魔王に、無表情に軍師が問いを返す。


「魔王よ、ひとつ聞きたいことがある」

「何カネ?」

「わざわざ単騎で人類本陣まで一騎駆け、危ないと思わなかったのか?」


「バカな問いだ。どこにワタシを害せるものがあると?もはや有象無象しかいない。せいぜいが先の人類最高の剣士とかいうザコくらいだろう。

 ワタシとてオマエのことは調べている。軍議の際もオマエのことは必ず話題にした。戦場に出るたび、玉座で戦略を練るたび、オマエのことを考えないことはナイ。

 オマエひとりにことごとくワタシは煮え湯を飲まされてきたのだ。だからオマエの計画した勇者特攻?の策を看破したのだ。

 ワタシが死ねば魔族どもは力を失う。主力のほとんどが出払う隙に首狩りというのは看破できなければ危うかったかもしれんがね。

 だからこそ戦場に出てオマエの計略を外してヤッタ。

 しかし、そんな下らん問いはオマエらしくないナ」


 眉のあたりをひそめる魔王に、軍師は懐に手をやった。

 取り出したのは懐中時計。

 その文字盤に目をやると、無表情に魔王に顔を向けた。


「魔王よ」

「なんだ軍師?」

「お前はもう死んでいる」

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