行方不明者が続出する村
「ご利用ありがとうございました。お出口はあちらになります。」
白たちは無事にたどり着くと、とりあえずギルド内の席に着いた。
ここに来たのはよかったのだが、何をすればいいかが思いついていなかった。
「…この後どうしようか?」
「とりあえず女王に会いに行かないとじゃない?」
白が皆に聞いてみたところ、シエルが女王に会うことを提案した。
するとソイルが珍しく悩むような表情をしていた。
それに気付いたアルスがソイルに話しかけた。
「どうかしたんですか?…あ、ソイルさんなら女王様に会ったことがあるんじゃないんですか?」
「あるにはあるんだが…まぁいいわ、行くか。あいつが居んのは世界樹の方だからギルドを出て北の方だな。」
アルスが言った通り、ソイルは何度かこの国に来たことがあった。
ソイルが先導して6人は女王がいる世界樹へと向かった。
その間、ソイル以外は初めて見る妖精族を目で追っていたり、周りの自然を体感したりしていた。
通り行く人や妖精族の間では近頃港町では漁獲量が減っているという会話がされていた。
やがて世界樹の入り口に着くと、そこには妖精族の兵士がいた。
「ソイル様、お久しぶりです。女王様がお会いしたいと申しておりました。」
「そうだろうな。あと今回は他の奴らも連れて来たんだが入ってもいいか?」
「ソイル様のお仲間の皆さまでしたら大歓迎でございますよ。」
「ありがとな~」
6人は世界樹に入った。
まるで自宅のように進んでいくソイルの後ろを他の5人がついていった。
「他国の女王様がいる所なのに堂々としてるわね。」
「何度も来てるからな」
ヘスティアとソイルが話していると後ろではエリスと白が「お姉ちゃんあれ何?」「何かの宝石かなぁ」という会話をしていた。
ソイルはただの色付きガラスであることを知っていたが黙っていた。
世界樹の中を進んでいき、ソイルは玉座のある部屋の前に来ると、白に頼んで扉を開けてもらった。
すると何かがすごい勢いで突っ込んできた。
「ソイル~会いたかったのじゃ!」
「え、何この子めっちゃかわいいんですけど~」
突っ込んできた何かはどうやら妖精族のようだった。
金髪のミディアムヘアで青く綺麗な透明感のある羽の生えた幼い見た目の妖精族は白にとって凄く好みだったようで、抱きしめて頬ずりしていた。
「なんじゃこの小娘は!離すのじゃ~!!」
ヘスティアが白の肩を優しく叩き離してあげるように言うと、名残惜しそうに離した。
その妖精族は少し怒り気味だったが、ソイルがいることを思い出し、久々に会えたことをうれしく思っていたので、すぐに機嫌が戻った。
「やっと離れおったか。我はこの国の女王、イリス・シルフィードじゃぞ!子ども扱いしおって。…まぁよい、それより今日は何の用じゃ?」
「暗黒神の復活が近づいていることは知ってるだろ?そいつらを討つためには対抗できる力が必要なんだが、何か知らないか?」
ソイルがイリスに尋ねた。
他の5人に関してはこの先のことを全く想像できていなかったが、ソイルは今まで読んだ文献などから何となく察していた。
そしてイリスはどこからか本を取り出して開き、数秒経つと再び本をしまった。
「お主ならある程度分かっておるじゃろうが、その力を手に入れるには、世界各地に居る“竜王”と呼ばれるものに会い、“秘境”の挑戦を受ける必要があるのじゃ。それと秘境の挑戦を受けられるのは竜王に認められたものだけなのじゃ。」
「…ってさっきの本に書いてあったんだな。」
「わ、忘れてただけじゃ!」
「ところでその竜王ってどこにいるのか分かるんですか?」
イリスはソイルにいじられていたが、それをよそにアルスは竜王の居る場所についてイリスに聞いてみた。
「教えてやるのはいいが、こちらの頼みも聞いてもらいたいのじゃ。この国の南西にあるイトク村で村人たちの行方不明事件が起きておるのじゃ。一度外部との接触を断った後収束していたのだが、また行方不明者が現れたとのことじゃ。まだ周囲の街や国では発生していないのじゃが、不安要素は早めに取り除いた方がよいじゃろうし、頼むのじゃ。」
少し悩んだ後、イリスは交換条件のように話を持ち出した。
白たちは条件にしなくても言われれば助けるつもりであった。
そのため、5人は特に嫌な顔をせず了承したのだが、ソイルだけは何やら心配事がある様子だった。
「すまん白、お前ら5人で行ってくれるか?俺は確認したいことがあるから、また後で合流する。」
「おっk…」
「ちょ、ちょっと待ってよ兄さん。私も一緒に行っちゃいけないの?」
白の答えを遮ってシエルが話に入ってきた。
「兄が行くなら自分も」と思いぱっと出た言葉だったがソイルは無下にせずその理由を答えた。
「ここに来るまでに港町で漁獲量が減ってるって話を聞いたろ?もしかしたら海で何か起こってるかもしれないと思ってな。それにこの辺にいる竜王はたぶん“風の竜王”だ。お前が行く必要があるからな、こっちのことは俺に任せとけ。」
「…うん、分かった。気をつけてね。」
シエルは納得し、ソイルに心配の声をかけた。
ソイルは微笑んでうなずくと、白たち5人はその場を後にした。
残されたソイルはイリスに詳しい事情を知らないか聞いた。
「俺が言った問題についてだが、何か知らないか?」
「確かに報告は入っておる。なんでも海水が生きてるかのように動いていたらしいのじゃ。じゃがそれは氷属性を扱う魔剣士によって解決したとのことじゃが…」
イリスもその件については知っていたが、解決した者だと思っていたためどこが疑問だったのか不思議に思っていた。
ソイルはその魔剣士についても気になったが、「海水が生きてるかのように動いていた」というところに引っかかった。
「情報ありがとな。(海水が…何かしらのモンスターか、あるいは…)」
「それはそうと、我と婚約する気になったかの?」
「その話はまた今度な。じゃあ俺も行くから。」
「うむ、気を付けていくのじゃ。(いずれなってくれればよい、まだ焦る時ではないのじゃ。)」
そうしてソイルは白たちが出た少し後に世界樹を出て北の方の海岸へと向かった。
白たちは世界樹を出た後、エンスタシナの南西にあるイトク村へ向かった。
村に着くと思った通り止められてしまったが、外部との接触を断っているとはいえ自分たちが賢者であることを話せば村の中に入れてくれると思い、白は左手の甲を止めてきた村人に見せた。
「それは⁉賢者様、ようこそイトク村へお越しくださいました。どうぞこちらへ。」
無事にイトク村の中に入れた5人は村人に連れられて村長の家に向かった。
村長の家に行くまで村人とは一切会わず、不気味な雰囲気が5人を包み込んだ。
村長の家に案内されると、5人はこの村に来た理由などを話した。
「この村で行方不明事件が起きてるって聞いたんですけど、村内で不審なところとかはありますか?」
「特にないとは思いますが、そうです!賢者様たちもあの鏡に祈りを捧げてはくれませんか?」
特にないといいつつも、4人はその鏡が怪しいと思った。
エリスはよく分かっていなかったので、とりあえず白たちの言うとおりにしておこうと思っていた。
5人は鏡を見に行こうと思いその提案に乗ると、鏡が祀られているらしい小屋の方へ案内された。
「こちらが魔法の鏡でございます。この鏡に祈りを捧げればさらなる魔力が授けられるとされているのでございます。」
モンスターの骨のようなもので縁取られた丸鏡が祀られていた。
白たちはその鏡を見てみると嫌な予感がしたため村長には立ち退いてもらい、賢者たちだけで話をした。
「おそらくあの鏡が原因で間違いないと思いますが、一応エリスに確認してもらいましょう。」
「わかった~。」
アルスがエリスに頼むと、エリスは“ファクト・アイン”を使って鏡を見てみた。
鏡の中央にはコアがあり、その鏡がモンスターであることを指していた。
「間違いないよ。」
「やっぱり…では白さんとシエルさんは村の人たちを避難と保護を、エリスは外からこの小屋が見えないようにしてください。僕とヘスティアさんであの鏡を倒します。」
アルスが指揮を執るように言うと、他の皆も理解してそのように動き始めた。
白とシエルは村人達を村の外へ連れ出し、エリスはそこについていきながらも全員が避難したことを確認すると、魔法を唱えた。
「スペルバリア、ネグロアルカ」
まず薄い紫色の立体的エリアが小屋を包み、その後外から小屋の様子が見えないように黒い立体的エリアで小屋を包んだ。
「賢者様、今から何をなさるつもりで…」
「大丈夫ですよ、これが終われば行方不明者はでなくなりますから。」
シエルが村人たちを安心させるように言った。
ここで「鏡を壊す」ということを言ってしまったら、村人たちがあの中に行くかもしれないと思ったので、詳しく言わなかった。
アルスとヘスティアは“リンク”の魔法で少し話した後、鏡と対峙していた。
「もう姿を現していいよ。」
アルスが鏡に対して呼びかけると、その鏡は本当の姿を現した。
鏡に一つの目と人間のような歯を持った口が現れた。
「いずれ見つかるとは思ってたが、ずいぶん早かったな。だがお前らさえ殺せばまた人間どもを食べることが出来る。ここで死ね!」
鏡の目が黒い光を放ってきた。アルスはそれを避けると、鏡に向かって魔法を放った。
「グアンスピール」
光属性の槍が放たれたが、鏡はその魔法をアルスの方に反射させた。
反射された魔法を避けると、鏡が喋り始めた。
「弱点を突いたつもりだろうが残念だったな。俺は魔法を反射できる、魔法を使うお前とは相性がいいようだ。」
「こっちからすれば最悪ですけどね。ホーリーレイ」
一つ上の位階の魔法を放ったが、その魔法も反射されてしまった。
アルス先ほどのように反射された魔法を避け鏡の方を見ると、鏡はまたもや余裕な雰囲気を出していた。
「無駄だということがわからねえのか、レイドヘイル」
「ファイヤープロテクト」
鏡はアルスの方に氷属性の魔法を放った。アルスは炎属性の壁を作り防いだが、周りの床は少し凍っていた。
「ホーリーレイ」
アルスは鏡の左の方に魔法を放った。
鏡には当たらず、魔法は外れてしまった。
そのことに鏡はアルスのことを嘲笑っていた。
「所詮その程度の実力か。グレイシアスピール」
鏡が氷属性の槍をアルスに向かって放った時だった。
鏡は後ろから何者かに攻撃され、素早くコアを貫かれ、あっけなく消滅してしまった。
「ナイスタイミングでしたよ、ヘスティアさん。」
「まさかアルスの光魔法と私の炎魔法で“シンセシスエンチャント”するとは思わなかったわ。」
「ヘスティアさんも攻撃する瞬間まで魔力を押さえていられるの、凄かったですよ。」
二人は鏡を倒すと、消滅した鏡の跡から行方不明となっていた10人ほどの人たちが現れた。
「助けてくださりありがとうございます。あの鏡に取り込まれて、脳外に出れないかと思っていました。」
「助けることが出来てよかったです。それでは外に出ましょうか、あなたたちの家族も心配していると思いますよ。」
そういうと2人は村人たちを連れて黒いエリアから外へ出た。
それを見て白たちと村人たちはアルスたちの元へ近寄り、エリスは張っていた魔法を解いた。
「アルス~大丈夫だった?けがとかしてない?お姉ちゃんが看病してあげるね♪」
「無傷ですので大丈夫です。それより村長さん、あの鏡が行方不明事件の原因でした。鏡は処理しましたし、行方不明になっていた方々も救出できましたよ。」
救出された村人達は自らの家族の元へ戻り、村長を含め他の村人たちも喜んでいた。
村長はアルスたちに深く礼を言うと、自分たちに何かできないかと考え始めた。
「賢者様、この村を救ってくださりありがとうございました。我々に何かできないものかと考えましたが、これを。リーフハーバーの道具屋にいる者に渡してくだされば、旅に役立つ物を受け取れます故。」
「カード?ですか。分かりました、ありがとうございます。」
アルスはその青色のカードをしまった。
白はアルスと半ば無理やり手を繋ぐと、エリスもそれを真似てアルスと手を繋いだ。
シエルはヘスティアに小屋であったことを聞きながら、5人はエンスタシナに戻っていった。