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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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宝物

作者: シオミ

 ある一軒家で殺人事件が起こった。


 被害者はその家に暮らす小学四年生の少女、水原舞依ちゃん十歳。犯人は彼女の母親、水原千沙子四六歳。父親とは数年前に離婚しており、事件当時、娘の舞依ちゃんと二人暮らしだった。

 

 彼女の死体はビニール袋に包まれ、家周辺のごみ収集所に捨てられていた。

 逮捕後、母親は以下のような内容を供述している。これはその殺人鬼による狂気の独白だ。


 ──あの子は私にとって宝物だったわ。あの子が産まれてきた瞬間の感動は今でも覚えている。


 こんなに美しい存在がいるんだって。猿みたいに顔をしわくちゃにさせながら泣く姿を見て、一生この子を大切にしたいって、心の底から思ったわ。


 だからあの子が小学校にあがってからも毎日、お風呂で体を洗ってあげたし、ご飯も食べさせてあげた。あの子、自分で食べようとすると米粒のついた手で髪の毛とか触っちゃうから、体が汚れちゃうのよね。


 綺麗なままでいてほしかったから、仕事で疲れてても絶対に食べさせてあげたわ。


 小学校の授業の体育も怪我して体を傷つけてほしくなかったから、担当の先生に頼んで毎回見学にしてもらった。あの子は皆と運動できなくて悲しそうだったけど、私からしたら怪我してあの子が帰ってくる方が嫌だった。


 毎晩、お風呂であの子の白くて傷一つない体を見る度に、これからも大切にしようって思えた。


 あの子が産まれた瞬間に感じた感動はずっと心の中に残っていたわ。


 ──でもね、一ヶ月前くらいかしら。あの子が学校から帰ってきてリビングでゲームしている後ろ姿を見てふと思ったの。──邪魔だなって。


 理由はないわ。ただ、突然そう思ったの。


 子供にそんなこというのはどうなのって思う人もいるでしょう。私も警察の人に何度も説明したけど全然理解してもらえなかったわ。何で理解してくれないのかしら。


 これを読んでいるあなたなら理解してもらえるわよね?


 ──あなただって経験あるでしょ。昔大切にしてたものを、年月が経ってもう一度見てみるともういらないって思う経験。昔、親に買ってもらった玩具が大人になって置き場に困るような感覚よ。


 あの子が産まれてから十年経った。十年間も大切に育てたんだもの。もう十分でしょ?


 捨てるには絶好の機会だったと思うわ。あの子も昔より可愛げがなくなったし、成長して体も大きくなった。私もあの子の置き場に困っていたから丁度良かったわ。


 えっ?人間と玩具は違うって?本当に?


 何が違うの?


 生きてるか死んでるかの違い?動くか動かないかの違い?


 動く玩具もいるじゃない。今だったら言葉を話す玩具もあるわ。


 私にとっては人間も玩具も同じよ。だから毎日、あの子を見ても、ただのいっぱい動く玩具のようにしか見えなかったわ。だから私はあの子を処分したの。


 ──それに私、初めに言ったはずよ。あの子は私の宝物だって。


 宝『物』をどうしようが私の勝手でしょう?

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