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短編

山にありがちな話

作者: 猫宮蒼



 夏休みだったので、おじいちゃんの住んでる田舎に遊びに行った。


 おじいちゃんの家の裏には大きな山があって、春は山菜が、秋にはキノコが採れる。夏は……何か一応食べられるものがあるらしいけど、残念ながら僕にはその区別がつかないので手を出していない。


 おじいちゃんも、わかんないなら手を出すなって言ってたからね。素人が知ったかぶって手を出した結果毒でした、なんてよく聞く話だ。だから僕は絶対にこれは大丈夫、ってやつしか手を出さないし、おじいちゃんもそれでいいって言ってる。


 とはいえ、春も秋もおじいちゃんのところに行ける暇はないから、山菜もキノコもおじいちゃんが沢山とれたよって時にだけ送ってもらう事になってる。

 そんな山には、時々不法侵入する人がやってくる。

 個人のではなく、国の山だと思って山菜を取りに来ちゃった人とかがたまに。

 それと、あとはなんだろう。

 ……前は確か、サバイバルゲームだったかな?


 ともあれ、あまり荒らされると困るので、そういう時は警察の出番だったりする。

 でもここ田舎だから、警察っていっても近くにいるのは駐在さんとやらで、僕が住んでるところの警察とはなんだかちょっと違うような気がする。全体的にゆる~い感じだ。

 警察呼んでもすぐに駆け付けてこられるような所じゃないから、そういうの知ってる性質の悪い相手なんかも来るらしい。警察が来る前に逃げてしまえば、そう考えるみたいだ。


 でも、前にそういう事を考えて実行しようとした人は、山の中でイノシシに遭遇して突進食らって腰骨を骨折して動けなくなって、死ぬ一歩手前でおじいちゃんに発見されてた。

 その状態で警察に捕まったんだから、馬鹿なやつもいたものだなぁと僕は思ったりもしたものだ。懐かしいな。



 さて、そんなわけで今年もおじいちゃんのところに来たわけだ。夏休みの間中ずっと、ってわけじゃないけど、数日はおじいちゃんと一緒にスローライフを楽しもう、そんな気持ちで。


 おじいちゃんの家はとても古くて、もっと小さかったころはオバケが出そうでとても怖かったけど、今ではすっかり慣れっこだ。むしろ今じゃ本当に幽霊が出てきたらどうしよう、なんてちょっと楽しみにしちゃう程度には余裕がある。ま、今まで見た事ないんだけどね。

 適当にスマホで家の中を撮影しても、別に何も映らないし。オーブとかいうのもない。単純に古い民家。それだけ。


 昼の間に畑のお手伝いなんかをして、結構疲れてくたくたになったから午後はのんびり家の中で過ごしてた。おじいちゃんはその間にちょっと山に行ってくるって。山の中には川も流れていて、そこに罠を設置してあるから、もしかしたら今日の夕飯に川魚が出るかもしれない。昔は魚ってあまり好きじゃなかったけど、今は割と好き。なので夕飯がとても楽しみだ。


 魚じゃなかったら、別の何かだ。冷蔵庫の中には食材がある程度入ってるから、魚がないからメインディッシュはありません、なんてことにはならない。


 おじいちゃんもいない家に、たった一人。


 しんと静まり返っているかと思いきや、山にいるだろう鳥の鳴き声なんかが聞こえてきたりするのでそこそこ賑やかだ。秋になったら虫の声がたくさんするっておじいちゃんは言ってたけど、虫は苦手なんだよなぁ。僕が小学生くらいの頃におじいちゃんが虫かごに入れた状態でたくさんのコオロギを届けてくれたけど、思えばあれが虫嫌いに拍車をかけた気がする。


 山の近くとはいえ、かろうじて電波はある。

 だからスマホも圏外になってない。たまにちょっと通信速度が遅いかな? って気がする事もあるけど、見れないよりは全然マシ。


 田舎の山の近くなら、電波があるだけむしろ充分だろう。

 僕が住んでる都会の方でこれなら、間違いなくブチ切れてるけど。


 ゴロゴロしながらも、暇つぶしにと適当に動画サイトを開く。


 今のところ通信状態は良好。だからまぁ、大丈夫だろう。なんて気楽に考えて。


 とはいえ、特に見たい動画があるわけでもなかったから、適当にサムネから何か良さそうなのを探してみる。そうしてたまたま目についたのは、心霊スポットに突撃するというやつだった。

 夏になると増えるよね、こういう心霊スポットに行きました系。夏じゃなくてもやってる人はいるみたいだけど。


 どうせ何もないんだけど、こういうのは撮影者のテンションやリアクションを楽しむものだと思っているので、何とはなしに動画を再生する。



『はいどーもー、今日はですね、えー、心霊スポットに突撃してみようかなと思いますー。いや怖いな!? えー、やだなー、俺怖いの苦手なんだけどなー。や、まぁ、撮影してくれてるカッちゃんがいるからね、実際一人じゃないからね。うん。ねっ、カッちゃん!?』

『え、や、何かあったらお前置いて俺逃げるよ』

『マジかよカッちゃーん!』


 そんな感じでテンション高く始まった動画は、とりあえずこれから向かう先の心霊スポットについて説明、それから実際に行ってみた、の流れになるらしい。


 どうやら今回行く心霊スポットは山らしい。

 どこの山、とはハッキリ言わない。まぁそうだよね、名前出したら色々とアウトな部分があるかもしれないし。実際は心霊スポットじゃないのに、さも心霊スポット、みたいな事言ってそれを信じた他の二番煎じな人たちが押し寄せて……なんて事になったら。そこが私有地で土地を荒らした連中が警察にしょっぴかれた程度で済むならまだしも、万一何かを破損させたりした場合、賠償しないといけないなんてこともある。


 おじいちゃんの友達が持ってる山には昔使われてた別荘があったみたいだけど、そこに侵入した人が建物を色々壊しちゃったみたいで、賠償金額だけですんごい事になったっていうのをおじいちゃんが話してくれたこともあったっけ。

 昔使われて今は使ってない、とかでも侵入して建物壊した人の所有物件じゃないからね。人の物勝手に壊すのはよくない。自分の物件を自分で取り壊すならまだしも。



 とある山にある心霊スポット。

 そこで噂になってる怖い話は、まぁなんて言うかありがちっちゃありがちだった。

 昔、旧日本軍が、とかいう出だしで大体は察してもらえると思う。


 うーん、心霊スポットで兵隊の幽霊が、とかそういうやつかぁ、どうせそんなん遭遇するはずもないんだから、あまり盛られてもなぁ……と、ちょっと気分が冷めるのを感じる。

 シリアス風に語られてもな……という気持ちなのだ。どうせならなんかわからんけど幽霊出るって言われてて、こえー、ちょうこえー! みたいな最初から最後まで馬鹿っぽいノリでやってくれた方がまだ良かった。


 ともあれ、動画はいざ心霊スポット凸! といった感じで撮影されてる男が怖いのを誤魔化しつつテンション高く喋りながら山に入るところまで進んだ。とはいえ、画面はかなり暗い。

 昼間に凸とかつまんないもんね。でも暗い中の撮影は、機材がよっぽどいいやつならともかく、一般家庭で揃えられそうなお手頃価格のだとまぁ、こんなものかな、みたいな感じだよね。

 正直画面中央に撮影者がいるってのがわかる程度で、それ以外は暗くて何がなんだかよくわからない。


 ザッ、ザッという草葉を踏む音が二人分。

 画面の男と、撮影してるカッちゃんの足音だ。


『カッちゃん、もう俺この時点で超こえーんだけど。帰っちゃだめ?』

『まだなんもでてないよ』

『出たらアウトじゃね?』

『じゃなんで心霊スポット凸しようとか言い出したんだよ』

『夏だから』


 大きな声ではないけれど、それでもまだ二人には余裕があった。


 映ってるのは一人だけど、実際は二人だからまだこの人たちには余裕があるみたい。実際に一人だったらこんな真っ暗な山の中を歩いたりしたくない。

 だって山にはいろんな動物がいるのだ。

 人間よりも夜目がきく動物はいっぱいいるし、もしそいつらが人間を獲物だと判断して襲い掛かってきたら。

 きっとあっという間にやられてしまう。


 幽霊がどう、とかそんなことよりもむしろそっちの方が恐ろしい。

 この人たちはそれに気付いているんだろうか。


 例えばハイキングコースがあるようなとこなら、道なりに進めばいいだけだ。

 でも見る限りこの山にはそういう感じの道がない。

 そもそも登山をするような山なのだろうか?


 ガサガサと葉っぱだとかを踏みしめる音がして、撮影されてる方の男が『いやもう帰ろうぜ』とカッちゃんに言ってる。

 それに対してカッちゃんは『幽霊出るっていう噂の、この先だろ。せめてそこまで行ってから言えよ』なんてさらっと返していた。


 多分、暗さのせいで見通しが悪いんだろう。こうして動画で見てる側は安全な場所で見てるだけだから言うほど怖いか? みたいに思いそうだけど、実際その場にいる二人はきっと結構な怖さを抱えているに違いない。撮影するのに使う機材をカッちゃんが持ってるだろうとはいえ、灯りは懐中電灯くらいだ。そのせいでとても画像は暗く見える。少し先もロクに見えなさそうな状態で、驚く程静かな山の中。


 道路から離れてるのか、車が通るような音も聞こえてこない。

 そもそもこの山がどこにあるかはわからないけど、こんな場所、夜になったらそう頻繁に車が通ったりもしなさそうだ。トラックの運転手くらいじゃないかな、通るの。


 そんなこんなで撮影者とカッちゃんとの会話が続いて、いよいよ幽霊が出るらしいと噂の場所まで辿り着く。正直景色もロクにわからない暗さなので、着いた、って言われても見てるこっちはピンとこない。


 まぁ、実際に心霊スポットじゃない可能性もあるからな……適当に進んでるふりしてその実ぐるっと大きく回るように移動してるだけ、なんてオチもあり得る。目的地とスタート地点が同じ、なんて誤魔化しもこれだけ暗ければやってやれない事はないんじゃないかな。

 山の景色なんて結構どこもかしこも同じようなものだったりするし。


 動画ではどうやらこの辺をぐるっと見て回って、それから帰るって話になったようだ。


 いや結構怖いからホントさっさと見て帰ろうぜ、と撮影されてる男が情けない声で言う。これから出発しまーす、って時のテンションと比べるととんでもなく気分が下がっていた。


『おー、それじゃこのあたりをぐるっとな』


 カッちゃんが言って、撮影者をカメラの中央に収めるように移動開始する。


 しばらく移動していくと、ふと何かを見つけたらしく撮影者が足を止めた。


『なぁあれもしかして建物?』

『ん? あー、ホントだそれっぽい。ここからじゃ暗すぎてわかんないけど』

『廃墟かな? あれが心霊スポットとか?』

『山って話だっただろ。とりあえず近づいてみようぜ』


 そう言ってカメラは撮影者から何やら建物があると思しき部分を映すが、暗すぎて真っ暗な影があるような気がするな……程度でしかわからない。ともあれ動画の二人はそちらへ移動することにしたようだ。


 聞こえてくるのは相変わらず二人の足音。小声で話す二人の声。そして。


 ガサ、と一際大きな音が、二人がいる場所から離れたあたりで聞こえた。


 びくっと撮影者の肩が大袈裟なくらい跳ねる。


『えっ、なになになに』

『落ち着け、タヌキとかじゃないか』

『幽霊じゃなくて!?』

『幽霊に足あるっけ?』


 大声で叫ばないよう小声で二人は言って、とにかく音がした方を見ている。カメラもそっちに向いたけど、暗くてさっぱりわからない。いや、よく目を凝らせば、何やら影が動いているのが見えた。


『えっえっえっ、何あれタヌキじゃないよな』

『大きいな。熊……ではなさそう。鹿、や、何か違う……?』


 カメラの機能をいじっているのか、ちょっとズームされた気がする。けれども見えたのは、黒々とした影だけだ。その大きさからタヌキじゃないのは明らかだった。けれど、熊、とも言い難いし鹿とも違う。なんだかよくわからないシルエットだけが、ぼんやりと映っていた。


『ここ兵隊の幽霊出るとかじゃないのかよ……』

『どうする? 近づくか?』

『カッちゃん何言ってんの、あれ何かやばい動物だったらどうすんの』

『心霊スポット凸から突撃UMAに動画内容変更するか?』

『カッちゃん突然のIQ低下したみたいな発言やめてくんない!? 何かあって怪我したらここ山ん中だから救助遅れるんだぜ!? 死んだらどうする』

『惜しい撮影者を亡くしました』

『秒で殺すのやめて!?』


 小声でそんなやりとりをしているうちに、黒い影はガサガサと音をたてて奥へと進んでいったのか、やがてその音も聞こえなくなった。

 というかこの二人の会話聞いてると、死ぬのは撮影者だけだと思ってるカッちゃんの薄情さが際立ちますね。お前を犠牲にしても俺は生き残る、とかそんなんなのかな。


 ともあれ、二人は万が一の事を考えて撤退。

 幽霊には遭遇しませんでした、というとてもお約束なオチで動画は終わった……のだが。


 動画の最後、真っ黒な画面に白文字でテロップが流れる。


 夜はやっぱ怖いので、あの黒い影がなんだったのかわかんないし次は昼にでも凸ってみます。ま、あの黒いのが昼にいるとは限らないんだけどね。


 幽霊はいないと思うので、次は多分ハイキング動画になるよ!


 そんな、ゆるっとしたオチで動画は締めくくられた。

 動画の最後に流れていたリコーダーのピーピピピープペポーピポピー、という音が何とも言えないしょっぱさを演出している。



 昼と夜とのビフォーアフター。もしかしたら昼だとどこの山かわかっちゃうかもしれないな。

 なんて思いながら。


 次の動画はあるんだろうか、と思って確認するも、この人の投稿動画はこれが一番新しいやつだった。これ以降特に何も投稿していないようだ。

 ちなみに、動画の投稿日は今から二年ほど前。


 動画を編集して投稿してるわけだから、実際にこの投稿日に山に行ったわけじゃないだろう。山から帰ってきて、その後きっと忙しくなって動画を投稿するだけの余裕がないのかもしれない。


 なんだ。

 続きがあるなら一応見ようと思ったのに。残念。

 一応他にも動画を投稿してはいるようだったけど、過去の動画を遡ってまで見ようとは思わなかった。


 けれども、その動画を見た人におすすめ、とかいう感じで他の動画が紹介される。


 それは心霊スポット検証とかいう動画だった。

 某県にあるとされる心霊スポット。そこが本当に心霊スポットかどうか……言葉を変えてるけど、要するにこれも心霊スポット凸動画か。

 ただ、その動画は今見た場所を探して、というやつだった。


 こっちの動画の人は何でも心霊スポットマニアらしく、今までの動画を見る限り数々の心霊スポットに足を運んでいるらしい。とはいえ、あまりにも真っ暗だと見えない事もあったり、また場所によっては夜に行けそうな場所じゃない所もあるらしく、心霊スポットに足を運んだ動画の中でいくつかは昼間に撮影したものもあるらしい。


 で、こっちの動画の人……マニアさんは、今僕が見た動画をやっぱり見たらしく、自分はその心霊スポット知らなかったな、という事でいざ! と足を運ぶ事にしたのだそうだ。

 彼らに連絡をとり、そこがどこかを聞いて、どうやら一緒に行く事にしたらしい。わぁ、フットワーク軽~い。


 ちなみにこの動画はどうやらリアルタイムで撮影したのをそのまますぐに投稿したものらしく、編集したりはしてないようだ。動画にテロップとかも入ってない、無編集なので途中の会話もちょっとぐだっている。


 最初に撮影者だった人とカッちゃん、それからマニアさんとの軽い挨拶から始まって、彼らが行った心霊スポットへと向かう。


 某県にある山。

 あれがそうです、と言われて山が映し出される。特にこれといった特徴がありそうな山ではないので、パッと見ただけでどこそこの何々山だ! とわかる感じではない。

 富士山とかなら一発で誰が見てもわかるだろうけど、それ以外はわかりやすい特徴がなかったら普通の人にはどれも同じ山に見えそうだ。

 でも僕には見覚えのある山だった。


 とりあえず車を停めて、三人は外に出た。

 そうして前に凸した時のルートを進んでいく。


 まだ昼間で明るいからか、前の暗いだけの動画とは大分様子が違って見える。

 山の入口には私有地につき立ち入り禁止の看板があったけれど、彼らはそれを無視して入っていった。


『良い子は真似しないでね』

『今回は検証のためなのでもし見つかったら素直にごめんなさいします』


 なんて言ってるけど、いいのかなぁ、堂々と不法侵入しちゃってるんだけどこれ。


 この時点で僕のテンションは大分下がっていた。

 だってこの山を僕は知っているし、ここは心霊スポットなんかじゃない。むしろこれを見た他の誰かが真似をしてこの山に入り込むんじゃないかな、と思った方が余程重要だった。


 一応不法侵入って事を理解してるからか、彼らは小声で話しながら移動していく。

 以前見かけた影は発見できなかったようだけど、そういや建物らしきものがあったなって事でそっちに向かう事にしたようだ。

 そうして映し出されたのは、一軒の家。


 ここに来るまでで結構な尺を使ったとの事で、あの家に行ってみるのは動画の後編、という事にしてここで動画は一度切れた。

 けれども、次の動画は無かった。


 この動画は編集することなくそのまま撮影してすぐに投稿したもので、だからこそ最初の段階でちょっとぐだっていた。そのせいで時間も無駄にかかったのだろう。動画の時間が多くなれば投稿する際の動画のサイズ、というか容量? あまり重すぎると見る側も大変だったりしそうだし、それで一度動画を止めた。

 ここまではいい。


 で、そのあとすぐに続きが配信されるかと思いきや、こちらもその先はなかった。


 さっきの動画の続きがこれ、と考えても、また中途半端なところで止められている。

 配信日はさっき見た動画の数日後、くらいだ。つまりはこれも二年前の動画。

 ついでにこっちのマニアさんの動画もこの動画を最後に投稿されていない。


 マニアさんはそれなりに視聴者も多い動画投稿者だったみたいで、コメント欄ではいろんな憶測が書かれていた。


 幽霊に遭遇して殺されたか? なんて荒唐無稽なコメントから、普通にあの家に人が住んでて怒られたんだろ。っていう現実的なコメント。

 私有地なんだし、あの家の人が土地の所有者だったんだろ。怒られて追い出されたか何かで動画にするには無理があったから後半はないんだろう。っていうやつとか。いい年して怒られるだけの動画を流すとか確かにしないと思うし、後編がないのはつまりそういう事なんじゃないか? って感じでコメント欄は荒れる事もなく落ち着いていた。


 いい年して、って書かれてたけど、そういやこの三人は大学生のようだ。

 もし私有地に不法侵入して怒られただけのみならず、大学の方に連絡されてそっちでもこっぴどく叱られたならすぐに動画の続きを上げるのは難しいだろう。

 時間をあけて別の動画をあげたとして、前回の続きどうなったん? なんて聞かれるのは間違いなくあるだろうし、そうなれば前回の顛末を説明する流れにもなりそう。


 これは……うーん、どうなのかな。


「帰ったぞ」

「あ、おじいちゃんお帰り。どうだった?」

「そうだな、何匹かとれたから夕飯には魚が出るぞ」

「やたっ! あ、そうだおじいちゃん」

「なんだ」


 とてもタイミングよく帰ってきてくれたおじいちゃんに聞けばいい。


「この人たち知ってる?」


 僕はスマホを掲げてさっきの動画を見せる。三人、と聞きたかったけどカッちゃんは終始撮影に徹していて画面に映ってないので三人、といってもカッちゃんの顔だけがわからない。

 おじいちゃんは最初訝しそうな顔をしていたけれど、思い当たったのか「あぁ」と小さな声が漏れた。


「そういや見た気がするな……勝手に家の中に入り込んでたから警察に突き出そうとしたんだけど逃げた連中だ」

「逃げたんだ」


 動画の中で言った素直にごめんなさいするとはなんだったのか。


「山の方に逃げたからな。そのまま駐在さんに連絡だけは入れたけど結局捕まらなかったなぁ」

「そうなんだ」

「ま、普通にかえっただろうし、もうここには来ないだろう」

「そっか」


 ふーん、そっかぁ。


 大体察したのでこれ以上深入りはしない事にする。


 きっと、一応動画を撮影した状態で彼らは見つけた建物の中に入ったんだろう。

 おじいちゃんの家、つまりはここに。


 その時おじいちゃんは家にいなかったけど、途中で帰ってきて彼らと遭遇した。


 そこで彼らが素直にごめんなさいすればよかったはずなのに、きっと彼らはそうしなかった。

 逃げた、とおじいちゃんは言った。

 まぁ逃げるだろうね。どう見ても彼らは泥棒か何かだもの。ここで勝手に入ってごめんなさい、って言って、そのあとで心霊スポットについて聞こうとかしたとしても、そもそもこの山は心霊スポットじゃない。前の動画で言ってた旧日本軍の兵隊の幽霊なんてもの、出るはずもない。


 後編が出ないのは、心霊スポットですらない事がバレて前回の動画はなんちゃって凸動画でした、なんてことになるからだろう。もうきっと撮影者とカッちゃんの心霊凸動画はそれがバレたら今回はちゃんとした心霊スポットなんだろうな、なんて野次が飛ぶのは目に見えている。


 マニアさんも後編で、って言ったとはいえ、心霊スポットですらない挙句、人様の家に不法侵入。怒られて警察沙汰、なんて自分の名誉に大きく関わるような内容の動画、あげられるはずもない。

 適当に自分たちに都合のいい内容にして動画を投稿する、なんてことを考えたかはわからない。


 でもどのみち、それは思っても実行できなかった。


 だっておじいちゃんが言ったもの。


 彼らは逃げて、捕まらなかった。

 警察のお世話にはなっていない。


 普通にかえった。もうここには来ない。

 土に還ったから、二度とここを荒らすことはない。



 そういや去年、山で白骨死体が見つかったって言ってたっけ。あれがそうなのかな。


 損傷が激しかったって聞いた気がする。きっとイノシシと激突して怪我をしてロクに動けないまま、衰弱して死んだに違いない。おじいちゃんの家のあたりはまだ電波があるけど、山の中は圏外だったりするもの。助けを呼ぼうにも、電波が通じないんじゃどうしようもない。


 なんとなく部屋を出て、家の入口まで移動する。


 そうしてスマホでパシャリと撮影してみたけれど、特にこれといった異変は無い。


 外に出て、山が見えるような場所に移動してそこでも一枚パシャリ。


 うん、やっぱり何も映ってない。


 そうだよね、だってここ、心霊スポットじゃないもん。



 毎年山菜泥棒に来た人がクマに襲われて死んだり、イノシシの突進食らって死んだり、はたまたそれ以外の目的で山に来た人も転落したり滑落したりして死んだりしてるけど。

 それは全部不幸な事故。


 おじいちゃんやご近所に住んでる人たち、駐在さんたちだって、そいつらの後始末しないといけないから、色々と面倒だったり大変だったりするんだろうな。



 そういえば、とふと思う。


 最初に見た動画に映ってた謎の動物。あれ、鹿を仕留めて背負って移動してる時のおじいちゃんに似てる気がしたな、と。


 もしかしたらあの時、おじいちゃんが獲物を捕まえてなかったら。


 獲物になってたのはあの二人だったのかもしれない。

 ま、どのみち新しい獲物連れて戻ってきちゃった時点で結果は同じになっちゃったけど。


 今しがた撮影した画像を消して、スマホをポケットに突っ込んで。


「おじいちゃーん、僕も夕飯支度手伝うよー」


 言いながら家の中へと戻っていく。



 彼らにとってはどうだったか知らないけれど、でも僕にとってはとても優しいおじいちゃんなので。

とても蛇足。

そういやそろそろ春だなー、山菜の季節だなー。

そういや前に知り合ったおじちゃんが山で木を切ったり道路作るお仕事してるっていって、山菜が採れる穴場教えてくれたっけなー。

でも前にそんな感じで穴場を教えた別の人に、到着するなり殺されかけたって言ってたっけなー。

滅多に人がこないとこだから、殺されて埋められでもしたら中々見つからないだろうしその日知り合ったばっかの人に殺されたとかだと犯人も中々見つからないんだろうなー。

山は危険が一杯だなー。

人って怖い生き物だなー。

そうしてできたのがこのお話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かなりリアリティあります! [一言] 田舎に住んでいますが、田舎にいる駐在さんなんかは嫌でも田舎に溶け込まないと例え警察でもよそよそしいです 自分の言うのもなんですが、事件があってもまず、…
[一言] 割と本当に山に山菜採りに行った近所のおじいさんが行方不明になる話とかよくあるので…!そして三年後に少し離れた崖の下で発見…多分…とかいう話、本当に聞くので…! 外から来た人でなくても、地元の…
[一言] 警察が本気出せば逮捕されない訳はないですし、田舎の限界集落に国家権力を欺ける力なんかないです。本当に彼らに何があったのだろう。
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