3歯 王子様
あの後、私は先程の煌びやかな部屋から出てエルフの後について王子の元に向かう事になった。ちなみに私と共に召喚された教科書類は一旦エルフが預かって空間魔法に収納してくれている。
「あの、エルフさん」
「はい、なんでしょう。人間さん」
「……。」
ニッコリとした笑みでそう返されると溜息しか出ない。私の周りに今までいた事のない人種だけれどこれが俗に言う腹黒という奴に違いない。
「…ローズベルトさん」
「はい。なんでしょう一ノ瀬様」
「処刑の話は、本当なんでしょうか」
「そうですね。無きにしも非ずといった所でしょう。別に貴女である必要もないのですから、より有能な者に越した事はありません」
「……。」
「ですので、貴方様には王子を味方に付ける事をオススメします」
「王子様を?」
「あなたの世界がどうなのかは分かりませんが。この国において子は宝、財産とされているのです。子のお願いは大概断られませんからね」
「つまり、懐柔して味方につけろということですか?」
「おや、存外難しい言葉を使えるのではないですか。神からの情報では馬鹿だとの話だったので驚きました」
「…私はどちらかと言うと文系の人間なんです。というか私の情報伝わってるなら庇ってくれても良いじゃないですか」
「自分の目指す道すら示せないような者を庇うほど、優しくは無いので。ほら、着きましたよ。ここが第一王子、ステファン様のお部屋でございます。」
豪華絢爛は変わらない、いや寧ろ増している煌びやかな目が痛くなるような金ピカな扉にかなり引いているのだけど、そんな私にお構い無しにローズベルトさんはノックをして直ぐに扉を開けてしまう。
「ステファン様、失礼致します。国王陛下の命により召喚者の者を連れて参りました。」
怖々としながら室内に入室すると、とても甘くて美味しそうなキャラメルのような匂いが充満していた。
「……」
「彼女は一ノ瀬千秋、口専門の治癒者見習いでステファン様を治しにきたのですよ」
そう語りローズベルトさんが語りかけているのは、本当に王子なのだろうか。
失礼だけれども丸々太って子豚のようだった。
「……」
一言も発しないまま、ただただ両手にお菓子を掴み黙々と食べる姿は昔見たアニメ映画に出てきた赤ん坊を彷彿とさせる。救いと言ったら巨大でなく幼稚園から小学校1年生ぐらいの見た目なのだろうけど……
「ローズベルトさん、彼はいつもこうなんですか?」
小声で問いかけると推定するように頷かれる。
「そうですね。王と私には少し話しますが、基本は食べてばかりで…ふと話をした時に匂いに気が付き見た時には口の中がボロボロになっていたのですよ。何度か希少なエリクサーを使用しているんですがね…気付く度に口の中が崩壊しているのです。」
それは授業の時に何度も聞いたことのあるような例。もっと保健指導の授業を真剣に聞いておけば良かった…
目の前のお菓子を美味しくなさそうに食べる子供を前にして、自分の不勉強さを呪った。
拝啓…真希ちゃん。真希ちゃんが勉強する理由が少し分かった気がします。