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異世界ハイジ二スト  作者: 一ノ瀬 千秋
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1歯 ヤル気スイッチ=転移!?

歯科衛生士という仕事を私はぶっちゃけ甘く見ていた。

国家資格だけど合格率は90%以上。210問中132点以上、つまり6割解けてれば合格なのだ。給料だって初任給の平均は24万円代だし、どうせ歯のお掃除をして先生に気に入られていればイージーモード……とね。

ははは…学校に入るまでは。歯科衛生士の専門学校に入って分かったのは歯の事だけじゃなくて全身の解剖学、生理学、病理学も学ばないと行けないし高齢化社会の影響か高齢者歯科、口腔リハビリ、障害者歯科まで学ぶことは多岐に渡ること。しかもしかもだ、歯科助手のバイトを始めた時は歯科衛生士なんて先生のホステスよなんて言われてただただ隣で微笑みながらバキュームで水をズゴゴゴなんて吸うだけで楽勝モードだったのにいざ臨床実習に放り出されてみれば歯のお掃除と病気の関連性を真剣な表情で伝える歯科衛生士のお姉さんの姿だった。


「はぁ…」


「どーしたん、千秋?」


「なんかね、歯科衛生士になれるのかなぁって…」


「なれるっしょ。国試受かれば」


「その国試に受かるのがムズいじゃん。今回の模試100点いかなかったし…。てか、解剖とか生理とかの問題作ってる奴の意地悪さ半端なさ過ぎ」


「あー分かる。底意地の悪さが滲み出てたよね。あの写真どーみたって橈骨だったのに尺骨とか訳分からん」


「そんなこと言ってさ真希ちゃんは132点以上だったじゃん」


「そりゃあ、アタシは歯科助手経験長かったから診療系とかはとれるし、やりたい分野もあるから余計勉強してるだけ」


「あ、そういえば就職決まったって言ってたね」


「そうそう。アタシ小児の口腔発達不全に携わりたいから小児歯科専門の医院に内定決まったんだ。今度内定先で※MFTのセミナーやるからそっちもやらなきゃだよ」


ブイサインをしながらシニカルに笑う真希ちゃんに私は手を叩く。黒髪ベリショでクールな真希ちゃんは、高校卒業して入学した私よりも歳上でかっこいいお姉さんなのだ。


「おめでとう」


「千秋も早く就活終わらせなって。その方が勉強に集中出来るよ?」


「うーん……けど、さ。真希ちゃんとか臨床実習の衛生士さん見てたら、私何を目指したら良いのか分かんなくなっちゃった…というか、衛生士ならない方が余韻じゃないかなぁ、私…単純に駄目駄目過ぎてヤル気起きないのも……って痛い痛い痛い!!!」


グデッとなっていると、真希ちゃんが呆れたように笑いながら私の頭の脳天を親指でめちゃくちゃ強く押してきた。


「ヤル気スイッチ押してあげてるんだから我慢しなって」


「いや、ヤル気スイッチじゃなくてそこ下痢ツボだから!?はぁ…私のヤル気スイッチどこにあるんだろうか」


きっとそんなことを思ったからだろう。

休み時間が終わって、国試対策の授業が始まりうつらうつらとして目を擦った瞬間。


頭に知らない誰かの声が響渡った。

[おめでとう、キミの願いと供給が一致したよ!きっとキミもやる気になれるし向こうの世界も知識が増えるし人も助かるしでウィンウィンだ。あ、けどそもそもキミ駄目駄目なんだっけ?じゃあ教科書とか授業資料とか必要なものだけは持ち込み可にしてあげるから。頑張ってねー]


金縛りにあったように動けずただただ捲し立てられるように早口で告げられるよく分からない軽快な声。何事!?と思いながらも周りにはその声は聞こえてないのが何事もないように続けられる授業。なのに私だけ身動ぎひとつ出来ず、日常の風景が文字通りぐにゃりと歪んでいき逃れる事も叶わずに目の前の景色が一変した。


「ようこそ、我がミュシュ帝国へ。歓迎するぞ、異世界の治癒者よ。」


金髪碧眼見事な口髭に映画でしか見たことの無いような王冠。立派なマントのおじさん他耳長い人に、犬頭の人、等などここはハロウィンのコスプレ開場ですかというような面々に囲まれる形でこうして私は机教科書一式と共に見知らぬ土地に転移したのであった。


拝啓 真希ちゃん。…ここはどこなのでしょう?


※MFT=口腔筋筋機能訓練

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