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内定式

作者: 緋色ざき
掲載日:2022/10/04

 朝起きて、気づく。今日は内定式の日だ。

 ひととおりカバンの中身を確かめる。忘れ物はとくにないと思う。

 家を出ると、あいにくの暑さ。スーツを羽織るにはいまいちな日和である。 

 自転車に乗って、駅へ向かう。あれだけ確認したのに、ふと持ち物が気になる。

 財布、よし。新幹線のチケット、よし。領収書、よし。

 最低限のものは問題なし。そこでふと気づく。そういえば、ハンカチを持っていない。

 ビジネスマンにあるまじき失態だ。僕ははあとため息をついて、それからどこかのコンビニで買おうと決意する。

 ありがたいことに時間には余裕があるのだ。むしろ、時間を潰すのにはちょうどいい。

 そんなこんなで駅に着く。満員電車。普段大学に行くさいに乗るときとは比べものにならないくらい混んでいる。スーツケースじゃなくて良かったとほっとする。

 ぎゅうぎゅうに詰め込まれた電車内で考える。僕はきっと働き始めると毎朝これを経験するのだ。下り電車に乗りたいけれど、家賃の高さには抗えない。世知辛い話である。

 目的地の駅に着いて、それから新幹線に乗り換え。切符の二枚挿入というのは、いつもICカードでピッとやっている人間からすると少し不安になるものだ。

 とはいえ、別に何か問題が起こることもなく、難なく通過した。そして新幹線に数時間揺られ会場の最寄り駅に着く。そこで適当にお昼を済まし、ハンカチを近くの雑貨屋で購入し会場へ向かう。道中、スーツ姿の人々を見かける。皆一様に同じ方向へと歩いている。同期かな、と少しわくわくする。 その中の何人かは、僕の予想通り同じ場所へと足を踏み入れたのであった。これから一緒に働くであろう、ある種、運命共同体的な彼らに僕は心の中でよろしくと小さく呟いた。


 内定式はつつがなく終わる。そして、同期たちでご飯に行くというささやかな交流を行った。いろいろな人たちがいるが、穏やかな人が多く上手くやっていけそうな予感がした。 一通り食事が終わり、新幹線や電車で帰る人たちとはお別れする。

 僕はホテルを取っていたので、場所を調べた。同じホテルに泊まるという偶然は当然のように起こらず、一人夜道を歩く。静けさの混ざったその道に、さっきまでの緊張や熱さはなく、なんとなく疲れを覚えた。

 少しだけブルーな気持ちになった僕の頭に、本当に働いていけるのかという一抹の不安が差し込む。僕は小さく頭を振った。いやいや、働いてみないうちから何を考えているのだろう。きっと大丈夫だ。

 そんなことを考えているうちにホテルへ着いた。部屋のベッドにどすりと寝っ転がりながら、天井を仰ぐ。

 きっと考えても答えなんて出ない。そう言い聞かせ、僕は思考を放棄した。

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