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桃の香りと優しいヴァンパイア  作者: チャロたん
9/29

〜苦いコーヒーと言えない真実〜

ただいま、学習相談室につき。

つい5分前、僕は滝島先生によってここに連行されたのであった。

この部屋は2年生全4クラスから離れた同じ階の、寂しげな雰囲気の場所にある。

いいとこといえば、日当たりがいいぐらい。

中に入り少し奥に行くと、年季の入った真っ黒な革のソファがある。

「まあ座ってろ。コーヒー飲むか?」

「へっ?あっ、はい!」

そういうと先生は奥へひっこんでしまった。

なかなかこんなとこ来る機会がないから、つい興味津々に。

ただ、さっきから緊張で手に汗がにじんでいる。

きっと、いや絶対にさっきの時間のことを聞かれるだろう。

冷静に、かつスマートに言ってやろうじゃないか。

「何もありませんでした(キリッ)」と。

いつ攻められるかわからない。

これは白浜さんの名誉のためでもあるんだ。

大きな心持ちとはうらはらに、僕は大きなソファにちょこんと座って、先生を待っていた。

しばらくすると、両手にマグカップを持った先生が現れた。

「あ、ありがとうございます…!」

せっかくつくってくれたんだし、飲まないのも失礼か、と思いマグカップに口をつけた。

「ところでお前さっきの時間白浜と何してた?」

「ぶっ!!」

いきなり直球できたな!!

ケホケホと咳き込んでいる僕を、先生が苦笑いでみつめてくる。

「まさか、ヤラシイことなんてしてないよな?」

とたん、白浜さんとの近すぎる距離や、飲まれているときのや、柔らかい唇の感触を思い出し、ボボッと顔が赤くなった。

先生にシラーッとした目で見られ、居心地が悪い。

ごめん白浜さん……。

僕がふがいないばかりに……。

「俺が言いたいのは、学校でおもむろにそういうことをするなって話だ。するなら放課後とか休み時間にやれ。相手はほとんど毎日血を飲まなくちゃいけねえからな」

あれ。もしかしてこの人。

白浜さんがヴァンパイアってことに気づいてる……?

無意識に目つきが鋭くなる僕に、おおこわ、と肩をすくめる先生。

「安心しろ。他人には言わない。俺もお前と同じ立場だからな」

えっ……?

キョトンとする僕に先生は付け加えた。

「俺もヴァンパイアの彼女がいるってことだよ」

「……えっ、え、ええっ!!」

先生に彼女いんの!?

しかもヴァンパイアの!

イケメンの先生に、さらには容姿が整った彼女がいたんだ…!

一人興奮とパニックに陥っていたとき、ハタと気づいた。

ん?ちょっとまて。

先生、「俺もヴァンパイアの彼女がいる」って言ったよな。

つまり、僕の彼女は白浜さんだって思われてる……?

えっ、それはだめだよ!!

だって、それじゃ白浜さんがかわいそうじゃんか!

そのとき、ズキン、と胸が痛んだ。

あれ、なんで。

白浜さんのためにも、説明しなきゃいけないのに。

胸が、苦しい。

黙った僕を見て、先生はマグカップを持って立ち上がった。

「お前を呼び出したのは、なかなか帰ってこなかった理由を確認するのと、同じ境遇のやつ見つけて嬉しくて話を聞きたかったからだ」

「……」

これからも、相談したいことがあったら何でも言ってくれ」

そういうと先生は再び奥へ消えてしまった。

一人ぽつんと取り残され、うつむく。

結局、先生に説明できなかったな……。

何も言わない僕を優しく包むように、新鮮なコーヒーの匂いが部屋中に広がった。

                続く




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