〜苦いコーヒーと言えない真実〜
ただいま、学習相談室につき。
つい5分前、僕は滝島先生によってここに連行されたのであった。
この部屋は2年生全4クラスから離れた同じ階の、寂しげな雰囲気の場所にある。
いいとこといえば、日当たりがいいぐらい。
中に入り少し奥に行くと、年季の入った真っ黒な革のソファがある。
「まあ座ってろ。コーヒー飲むか?」
「へっ?あっ、はい!」
そういうと先生は奥へひっこんでしまった。
なかなかこんなとこ来る機会がないから、つい興味津々に。
ただ、さっきから緊張で手に汗がにじんでいる。
きっと、いや絶対にさっきの時間のことを聞かれるだろう。
冷静に、かつスマートに言ってやろうじゃないか。
「何もありませんでした(キリッ)」と。
いつ攻められるかわからない。
これは白浜さんの名誉のためでもあるんだ。
大きな心持ちとはうらはらに、僕は大きなソファにちょこんと座って、先生を待っていた。
しばらくすると、両手にマグカップを持った先生が現れた。
「あ、ありがとうございます…!」
せっかくつくってくれたんだし、飲まないのも失礼か、と思いマグカップに口をつけた。
「ところでお前さっきの時間白浜と何してた?」
「ぶっ!!」
いきなり直球できたな!!
ケホケホと咳き込んでいる僕を、先生が苦笑いでみつめてくる。
「まさか、ヤラシイことなんてしてないよな?」
とたん、白浜さんとの近すぎる距離や、飲まれているときのや、柔らかい唇の感触を思い出し、ボボッと顔が赤くなった。
先生にシラーッとした目で見られ、居心地が悪い。
ごめん白浜さん……。
僕がふがいないばかりに……。
「俺が言いたいのは、学校でおもむろにそういうことをするなって話だ。するなら放課後とか休み時間にやれ。相手はほとんど毎日血を飲まなくちゃいけねえからな」
あれ。もしかしてこの人。
白浜さんがヴァンパイアってことに気づいてる……?
無意識に目つきが鋭くなる僕に、おおこわ、と肩をすくめる先生。
「安心しろ。他人には言わない。俺もお前と同じ立場だからな」
えっ……?
キョトンとする僕に先生は付け加えた。
「俺もヴァンパイアの彼女がいるってことだよ」
「……えっ、え、ええっ!!」
先生に彼女いんの!?
しかもヴァンパイアの!
イケメンの先生に、さらには容姿が整った彼女がいたんだ…!
一人興奮とパニックに陥っていたとき、ハタと気づいた。
ん?ちょっとまて。
先生、「俺もヴァンパイアの彼女がいる」って言ったよな。
つまり、僕の彼女は白浜さんだって思われてる……?
えっ、それはだめだよ!!
だって、それじゃ白浜さんがかわいそうじゃんか!
そのとき、ズキン、と胸が痛んだ。
あれ、なんで。
白浜さんのためにも、説明しなきゃいけないのに。
胸が、苦しい。
黙った僕を見て、先生はマグカップを持って立ち上がった。
「お前を呼び出したのは、なかなか帰ってこなかった理由を確認するのと、同じ境遇のやつ見つけて嬉しくて話を聞きたかったからだ」
「……」
これからも、相談したいことがあったら何でも言ってくれ」
そういうと先生は再び奥へ消えてしまった。
一人ぽつんと取り残され、うつむく。
結局、先生に説明できなかったな……。
何も言わない僕を優しく包むように、新鮮なコーヒーの匂いが部屋中に広がった。
続く