〜どうやら連行、されたみたいです?〜
俺は滝島亮。27歳。
ここ、私立星花高等学校の科学教諭をしている。
今日も今日とてうちの生意気でかわいい生徒たちは元気だ。
「なありょうぴ!もう20分もたったのに、榊全然帰ってこねえじゃん!」
榊、のとこだけ若干とげがある言い方をしたのは鈴木。
俺をりょうぴという名前で呼び始めたのが、クラス一の騒がしい男子であるこいつだ。
うん。なんとか目を細めれば、生意気でかわいいガキにかわりはなーー。
「りょうぴなんでそんな目細めてんの?あっ、もしかして老眼!?おつ〜」
「俺はまだ27だ!!」
生徒たちがクスクスと笑う。
前言撤回。
やっぱかわいくはねえわ。
まったく、こいつらは高校生になってもまだ騒がしいな。
俺は小さなため息をひとつつき、真剣な口調で言った。
「お前らまだ高2になったばっかで気が緩んでんのかもだけど、中にはもう受験勉強を始めてるやつもいるんだぞ?こんなくだらねえことでいちいち騒ぐな。遅れるようなことがあったんだろ。あとで俺が聞いておくから授業に集中しろ」
鈴木たち男子はムッとした顔になった。
ただ、受験勉強という単語に口をつぐむ。
ここは私立高校の中でも有名な私立高校で、国立大学を受験するものは毎年たくさんでる。
勉強を頑張らなければいけないということは、彼らが一番わかってるだろう。
俺は静かになった生徒たちを背に、板書を再開した。
キーンコーンカーンコーン
5限終了のチャイムが鳴り終わっても、榊と白浜は帰ってこなかった。
さすがに様子を見に行こうかと思ったのだが、予感がするんだ。
白浜はヴァンパイアだいとうこと。
榊はそんな彼女のパートナーなのでは。
そして今、榊は白浜に血をあげているのではないだろうか。
そんな現場に教師が様子を見に行くのな、と悩んでいる。
俺がこんなにも断言しているのには、二人の行動にあった。
俺が榊を保健室に向かうように指示したとき、榊は妙に嬉しそうにしていた。
他の生徒は気づかなかっただろうが。
教室をでていくときも、小走りになるほど焦っていた。
あの冷静で人間関係苦手なあいつが。
白浜に関しては、「彼女」と同じ匂いがするんだ。
人間を安心させる香りが。
それに、前から彼女の言動でうすうす気づいていて、気にかけていた。
二人に話を聞こうとしたが、榊が帰ってきたのは5限が終わったあとの休み時間だった。
俺の顔を見た瞬間、きまずげな色が宿る。
「榊」
「はいっ」
裏返った声に微笑がもれる。
白浜は帰ってきてないのか。
「榊、ちょうどよかった。学習相談室にこい」
「へっ……?」
榊の顔がサアッと青くなる。
そんなあからさまに怖がらなくても。
俺はクルリと身を返し、相談室への道をスタスタと行く。
榊はあわててついてきた。
「え、でも先生、次6限がありますけど……」
榊はもごもごといっているが、俺はケロリとかえす。
「次はHRだ。大丈夫。クラスのやつらには自習するように伝えといたし、もともとそうする予定だったからな」
俺は榊を振り返り、ニヤッと口角をあげてやった。
続く