表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃の香りと優しいヴァンパイア  作者: チャロたん
6/29

〜優しい君と、交換条約〜

キーンコーンカーンコーン……

5時間目終了のチャイムが、真っ白な部屋に鳴り響いた。

白浜さんは今にも泣きそうな顔でうつむいている。

いつもはツインテの髪をはずしていて、きれいな長い黒髪が、柳のようにしなだれている。

そんな、過去があったのか。

僕も呆然として、チャイムが鳴り終わった部屋は、静けさに包まれた。

「……全部私が悪いの。私が、大切な人を傷つけてしまったせいで。私が、……ヴァンパイアなせいで」

ポツリポツリと語る彼女の声は、悲しみと自虐で満ち満ちている。

やっぱり、彼女はヴァンパイアだったんだ。

…白浜さんの過去を、初めて聞いた。

血を飲まなくなった理由。

学校であまり人と関わらなくなったわけ。

こんなにも、重いものを抱えてたんだな。

今まで、完璧だと思ってた。

周りの人間たちは、彼女の容姿と性格だけで、羨ましい、僕達とは違う、とレッテルをはってしまう。

勝手に羨ましがって、勝手に妄想して。

自分が、恥ずかしくなった。

ーー僕は思わず、彼女を優しく抱きしめた。

「えっ、榊くん!?」

たぶん今、白浜さんは顔が赤くなっているんだろう。

体温がフワッと高くなって、耳たぶが赤い。

こんなときなのに、そんな反応にかわいい、なんて思ってしまった。

「…辛かったね」

僕はポン、と彼女の頭に手をのせた。

さらさらの髪が乱れないように、こわごわと。

「っ……」

白浜さんが、僕のシャツをキュッと握る。

「白浜さんが彼を傷つけたのが本当だとしても、自分の存在を否定する必要はないんだよ。でも、それでも白浜さんが罪悪感が残るんだったら、……僕の血を飲んでよ」

僕の言葉に白浜さんは固まる。

「えっ…?いや、だから私もう」

「うん。だから、白浜さんは血を飲むときに、また傷つけてしまうかもしれないって思って、怖くなるんでしょ?ヴァンパイアは給血パックがあるとしても、やっぱり生の血のほうが新鮮で美味しいんじゃないかな。話を聞くかぎり、1ヶ月に20パックしか届かないらしいし。僕は血をあげて、白浜さんは苦手克服、ってことにならないかな」

スラスラと語る僕に、動揺している白浜さん。

白浜さんは黙って考えるような仕草をする。

僕は小さなため息をひとつついた。

彼女は、優しすぎるんだ。

一度大切な人を傷つけてしまって、血を飲むことに、ヴァンパイアの自分という存在に、怖くなってしまった。

こういう、罪滅ぼし的な言い方をしないと、彼女は遠慮して血を吸わない。

たとえ己が傷ついても、人間を傷つけなくてすむのなら、と。

「……ほんとうに、いいの…?」

白浜さんは、弱々しい声でつぶやいた。

彼女は僕から離れて、涙に濡れた瞳で僕を見上げる。

僕は大丈夫だというようにほほえんでみせた。

「うん。僕は白浜さんが傷つくほうが嫌だよ」

白浜さんは、迷って迷って、弱い、でも意志がある瞳で、僕をみつめた。

「…お願いします」

ゆっくりと近づいてくる彼女。

それでもためらっている彼女の背を引き寄せて、首元に近づける。

ドキン、ドキン、ドキン、ドキン。

僕から提案したはずなのに、心臓が早鐘をうつ。

あー、うるさい。自分の心臓。

ドキン。

僕のものではない音が、白浜さんからも聞こえる。

緊張、してるんだ。

僕だけじゃないことに安心して、身を委ねた。

白浜さんはすうっと息を吸って、恐る恐る僕の首筋に牙をつきたてた。

「っ……」

とたん、めまいのようなクラクラとした感覚に襲われる。

視界がぼんやりとにじんで、頭がぼうっとした。

彼女のつやめいた黒髪が、僕の制服にはりついている。

初めての感覚に頭が動揺しているのに、密着したあったかい体と、甘い桃の香りが、安心感を与えてくれる。

この桃の香りは嫌いではない、なんて。

思ってしまう自分にも動揺しながら、僕はゆっくりと目を閉じた。

                  続く





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ