〜バケモノだから〜
「なるのよ!私といると、不幸に!!私は、バケモノだから!!だからいつか、人間を傷つけてしまう……!!」
榊くんが息を飲んだのがわかった。
勢いで出た、「バケモノ」という単語。
今まで忘れようとしていた過去の思い出が、鮮明に思い出された。
そうだ。あの日は、月がきれいな晩だった。
私には中学のとき、パートナーがいた。
パートナーとは、恋人の証。
ただ、本当のパートナーどうしの首筋には、薄いハートマークが刻まれる。
それはお互いの愛が深まったとき、自然と浮かび上がってくるらしい。
私と速水くんは本当のパートナーではなかったけれど、あと少しで、という段階だった。
ある日、私は速水くんのお家に誘われた。
『今日、うちの両親いないんだよね。バレンタインのお返し渡すから、家に来てよ』
『う、うん…!』
初めての彼氏のお家。
私は親に帰りが少し遅くなるとメールして、ドキドキしながら目的地へと向かった。
でもその日その晩、事件はおきた。
その日、3日ぐらい血が飲めていなくて、いつもよりも体調が悪かった。
速水くんが部活の大会があるとがで放課後忙しかったんだ。
だから、今日は誘われたついでに血をもらおうと決めていた。
『ゔっ……』
速水くんのくぐもった声で我にかえる。
あれ?今何時?
なぜか部屋は真っ暗で、いつもよりも視界がクリアだ。頭もスッキリしてる。
視線を下に下げると、ぐったりとした速水くんの姿があった。
首筋からは、白いシャツが真っ赤に染まるほど、血がでていた。
『速水くん!?』
目の前の光景が信じられなくて、私は後ずさった。
と、棚にガタンっとぶつかって、反射的に振り向くと、鏡に映った自分の姿が目に入った。
そこに映った、醜い「自分」。
頬は興奮して紅頬し、顔や口元、シャツの胸元には、返り血がついていた。
真っ暗な部屋に月光が差し込んできた。
光に反射して、牙がキラリと光る。
『バケ……モ、ノ…』
かすれた声が、確かにそこにいる「バケモノ」の存在を裏付けるように、暗闇に響いた。
そこからは、何も覚えていない。
ただ、震える指で救急車を呼んだことは覚えてる。
私もその場に残ろうとした。
でも。
『はやく……いけ……』
速水くんは大傷を負わせた私のことを心配してくれた。
いや、これ以上バケモノと同じ空間にいるのがいやだったのかも。
私はうなずくことしかできなくて、その場を去った。
家に帰る途中、私は公園に寄って、たくさん泣いた。
中学生が一人で外にいていい時間じゃなかったけど、到底家に帰るきにはなれなかった。
好きな人を傷つけてしまった。
自分の理性を抑えられなかった。
好きな人にバケモノだと言われた。
これは自業自得だけど。
何もかもが苦しくて、辛くて、悲しくて。
私は一生分かってほど泣いてから、ようやっと重い腰をあげて帰路についた。
帰ってから両親にしこたま怒られたけど、私の雰囲気に、それ以上は何も聞いてこなかった。
こういうとき、理解がある親でよかったな、と安心したのを覚えている。
「なんで……。なんで、そんなこと言うんだよ。白浜さんはバケモノなんかじゃないよ!」
必死の形相の榊くんに、言いようのない怒りが湧く。
何も、知らないくせに。
私の過去も、思いも、苦労も、悲しみも。
それなのに、軽々しく血を吸って、とかバケモノじゃない、とか。
「何も知らないのに、勝手なこと言わないで。私はもう血を飲まないって決めたの!榊くんにどうこう言われる筋合いはないわ!!」
感情が荒ぶっているせいで、いつもよりも強くあたってしまう。
榊くんは一瞬息がつまったあとで、冷静な顔になった。
「……たしかに、僕は白浜さんのことをあまり知らない。でも、それは白浜さんが僕に伝えて、知ってほしいって思ってないからだ。白浜さんがどんな過去で、どういう理由で血を飲まなくなったのか、僕は知りたいし、受け入れたいと思ってる」
私は目を見開いて、ゆっくりと彼を見た。
初めて見た、凛々しい顔。
あれ、榊くんって、こんな強い意志を持った瞳だったっけ。
私はあっけにとられながらも、強く思った。
この人は、他の誰とも違う。
私の思いを、気持ちを、感じたことを、聞こうとしてくれる。知りたいと思ってくれる。
私は震える唇で、今まで誰にも話したことのなかった自分の過去について、ゆっくりと語り始めたーー。
「桃の香りとヴァンパイア」5話目になりました!アクセス数やユニーク数が増えているのが本当に嬉しい!皆さんのおかげですね!!今の時代だからこそ、こうやって皆さんとつながっているのが、本当に嬉しくて楽しいです。大好きです!!中学生で文章力やばいのですが、これからも、この作品を読んでくれたら、こんなにも嬉しいことはありません!
この喜んでる姿、伝わるかな!?皆さんの想像している100倍は喜んでいると思ってください!
それではまた6話で!
(会えたら嬉しいな!)