特別委員
「特別委員に立候補する人、推薦したい人はいますか?」
騒がしかった教室が静まり返る。雑用係を押し付け合う時特有の空気感だ。
流石に他の生徒を推薦して逃がれるなんて事はしないが、全員が黒板から目を背けたのは言うまでもない。
この“特別委員会”は、入学者を増やすためのプロジェクトを企画・実行するための組織らしい。
要はこの学校をPRする委員会だ。今は11月なので、活動には結構な時間を費やすことになる。
しばらく身動きせず机の木目を眺めていると、チャイムが響いた。
「…では、抽選で決めたいと思います」
「三年二組の特別委員は、赤瀬さんに決まりました」
全員が身体の力を抜く。他の人に不幸が向かわなかった、と自分もほっとする。
正直、今の中学校生活は可もなく不可もなく、という感じで別に委員になって困る事もない。
もっと充実している人達に重荷が掛からなくて良かった。自分が面倒臭いのを我慢すれば良いだけなのだ。
張り詰めた空気が緩み、いつも通りの平凡な昼休みが始まる。
美優可哀想、なんて言う友人の同情の声にも自分が当たらなかった事への安心感が滲んでいる。
「しかもさぁ、早速集合かかったんだけど。弁当食べ終わってすぐ行けば間に合う。ありえないって…」
感情を込めずに口先だけでなんとなく喋り、なんとなく弁当を広げた。
古典の教師の口調が催眠術だとか、オタク味が強い同級生が後輩とデートしてたとか、馬鹿らしい話だなと思う。
思いながらも毎日こうやってグループの中で話す。ちなみに学年で一番人気の女子グループだ。
「じゃ、行ってくるね」
「はいはーい、行ってら」
教師の仮眠室とされていた部屋に時間通りに入ると、そこには既に二人の生徒と担当の教師が座っていた。
「全員揃ったわね、自己紹介から始めて。えっと…赤瀬さんからね」
どうやら特別委員は、この小柄な女子と無表情の男子と私だけらしい。
学校への入学者を増やすプロジェクトをすると聞いていたが、三人でやるとは重労働だ。
「三年の赤瀬 美優です。精一杯頑張るのでよろしくお願いします」
パイプ椅子から立ち上がって会釈し、二人の顔を見た。
女子の方は愛嬌のある笑顔。男子の方はーーーーー目を逸らされた。多分初対面だが、この反応は何なんだろうか?
疑問に思いながら座ると、入れ替わりに男子の方が静かに立ち上がった。
「三年の糸本 綾斗です、よろしくお願いします」
決して大きくないのによく響く声でシンプルな挨拶をした彼、糸本君はすぐに座った。
同級生なのに全く記憶にない。彼は相当な美形で、一回見たら忘れられない容姿を持っている。
明らかに女子にモテるはずだが話題になった事さえないので、恐らく転校生なのだろう。
そうぼんやり思っていると、女子の方が話し始めた。
「えっと、一年の鈴原 ゆずって言います、後輩ですが頑張るのでよろしくお願いします!」
お団子頭、萌え袖、ミニスカなのにギャルに見えないのは、多分ノーメイクの顔が良いからだ。
声も見た目も可愛いな…とぼんやり思いながら眺めていると、手が震えているのに気がついた。
クラスの中心にいるであろうルックスでそんなに緊張するのはちょっと不思議かもしれない。
「あの、三人なんですか」
糸本君が先生に尋ねる。最もな疑問だ。
「三人なのには理由があるらしくて、学校側の見解では」
「え?」