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勇者なんかお断り!!9歳

リヨネッタ9歳


 スティーブの態度が8歳半のときから、突然変わったことをリヨネッタは戸惑っていた。

 前からうっとうしいほどまとわりついてきていたが、敵意は無かった。

 だが、最近はどうにもとげのある発言を受けるようになったのだ。例えば、傍に呼ばれた時。


「こっちにこいヤモリ女。」

「なんですかヤモリ王子。ペットのように呼ばないでください。」

「ペット?お前がそんな可愛い者ではないだろう?」


 前なら「ぺ、ペット!?ぼく、俺がお前をそんな風に思っているわけないだろう?!」と言った少し優しい返事だったはずが、今や敵対する相手に向かうような発言ばかりするようになったのだ。


 疑問に思いながらも、言われた通りにリヨネッタは王子に近づく。


「愛玩動物が可愛いのは当然の理ではありませんか。連れないことを言わないでください。」

「ふん、口だけは回る。」


 いつもならここで口づけをしてくるのだが、リヨネッタの手を取っただけで手の中を確認して雑に手放した。


「最近の殿下は冷たくてどうしたらいいのかわかりません。リヨネッタ様の何が気に食わないのですか?」


 見とがめた近衛の騎士が注意をするように口を挟んだ。


(こやつ妾が魔王と気が付いたか!!?)


 皆が婚約の行方を心配する中で、1人違う心配をする彼女に王子の剣呑な視線が刺さった。どうにも寒さでない寒気を感じてリヨネッタは震えた。


「余は…いや、俺は心配なんだ。この者が何かするんじゃないかとな!」

「殿下、言葉が過ぎます。」

「リヨネッタ様が震えていらっしゃいますよ!!」


 そもそもの婚約がスティーブの過失によるものとなっているので、周囲も遠慮がちに王子の方をたしなめた。



「少し寒気を感じただけです。皆さん気にしないでください。」

「ふん、その化けの皮がいつまで被っていられるかな。」


(こやつ、さっきから護衛を務めてくれるものに何という態度をするのえ!!守られている立場の者がする態度ではない!!)


 スティーブに対して何とも思っていなかった彼女はここで初めて、彼を嫌な‟人物“として認識した。


(また情けなく泣かせてやる。それでまた護衛の者に慰めされて彼らの大事さを学ぶがいい!!)




 リヨネッタはかつてスティーブを泣かせた戦歴を持つウシガエルを面会の時に準備した。

 それは本来の目的である手へのキスは封じれなかったが、大泣きさせて一時距離をとることができた実力のあるものだ。

 勿論、スティーブによる手の中のチェックが外れたタイミングを狙った。


(以前の時は、食料用のこの巨大カエルで号泣しておった。今回も‟うっかり“非常食を持っていたことにしてやるぇ。)


 その日、スティーブは念入りなチェックを反省したらしく久しぶりに手の甲にキスをするつもりだと言った。少し罪悪感に襲われたリヨネッタだが、そでに仕込んだカエルを素早く手の中に移動させた。


 手を引き寄せたスティーブの手にブヨリッとした感触が伝わったのがわかった。


(かかったな!!)


 内心ニヤリと笑ったリヨネッタの眼前で血が飛んだ。


「…え??」

「正体を現したな魔王め!!」


 さっきまで生きていたウシガエルが、拳サイズのカエルが、リヨネッタの食料が、とても無残な赤いジュースとなってスティーブの手の中で潰されていた。


「ここでお前を成敗し…」

「きゃあぁぁぁぁああ!!」


リヨネッタは叫んだ。


(妾の食料が!!滅多にない拳サイズだったのに!!)


 彼女の悲鳴で護衛達が集まってくる。


「王子、なんてことを!!」

「殿下、またやったんですか!?」


 返り血はリヨネッタにも飛んでいた。

 食料を無残に潰された彼女は涙を流し、悲鳴をこぼした。


「違う、誤解だ!!くそっ、嵌めたなこの悪魔め!!」


 リヨネッタをかばうように、侍女や護衛達がバタバタと動く。


(妾の食らうはずの食料…!!)


 前回のカエルは王子に振り払われて気絶していただけだったから、後で美味しくいただけた。

 今回は無理だろう。

 久しぶりの大物の損失したショックで彼女は何も言えなかった。


「王子、泣いて怯えている令嬢になんてことを!!」

「今回のことは陛下に伝えさせて頂きますからね!!」

「何ぃ?やめろ、父上に怒られるのは困る!!」


 結果的にスティーブは護衛に頭が上がらなくなった。

 だが、リヨネッタも(食べ損ねた)ショックでしばらく立ち直れなかった。





リヨネッタ9歳と半年


 リヨネッタは嫌でもスティーブがただの勇者の子孫ではなく、勇者自身の生まれ変わりであることを理解していた。

 例の件を理由に婚約を破棄しようと駄々をこねたが、それ以上にスティーブが駄々をこねたらしい。

 さもありなん。

 数か月の面会禁止の後、婚約は続行になった。


「来たな魔王め。」

「なんだぇ勇者?」


 数か月の面会禁止の後に、再会した二人の第一声はそれだった。

 眉をはねさせてスティーブがリヨネッタを見つめる。


「余の言葉を信じるのが、憎き敵であるお前だけだとはな…」

「何を考え深く言っているのか。さっさと甲に挨拶せよ。皆に疑われるぞぇ。」


 スッと今度は綺麗な手を差し出せば、無言になったスティーブがその手に懐かしいキスを落とした。そのままリヨネッタを引き寄せて、耳元でささやく。


「少しでも怪しい動きをしてみろ、倒すことはできなくとも幽閉はしてやるからな…」

「楽しみにしておるよ、勇者。」


 ニヤリとお互いだけの知る真実に二人は笑った。




 スティーブは例のカエルの件の後、自分が勇者の生まれ変わりでリヨネッタが魔王の生まれ変わりだと主張した。

 しかし客観的に見れば、令嬢の挨拶にカエルを潰した王子にしか見えなかった。その為に言い訳だと片付けられ、彼の主張はあの王妃ですら信じなかった。

 当然、国王夫妻にしこたま怒られ、周囲の人の評価も下がり、だれも彼が勇者だと信じなかった。


ただ一人、リヨネッタをのぞいて。


 彼女は直ぐに反応して宿敵を自覚しただけだったのだが、王子の戯言に乗る姿は周囲の評価はうなぎ上りになった。


「リヨネッタ様は出来たお方だ。王子の遊びに付き合って下さるとは―」

「この心の広い人なら王妃にふさわしい。」

「あのようなことがあって魔王呼ばわりされているのに、なんと優しいのだ。」


 何とか愛娘の願いを叶えるべく婚約解消に動いていた両親も、これにはつい愛娘を「心優しい娘でして」と自慢してしまい、解消から遠ざけることをしてしまっていた。


 雁字搦めな2人が後に、ケンカップルと言われるようになる片鱗はここからだった。







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