勇者の子孫なんかお断り!6歳
リヨネッタ6歳
彼女は前世の記憶を使い、1年かけて魔法を習得していった。
前世の死を踏まえて、防御魔法をメインにしながら、ゲテモノ食への興味を開花させていた。
ゲテモノであればあるほど前世の手下たちに似ていて親近感が湧き、食べれば魔力や毒、痺れ耐性がつく使用だ。
当時の魔族は共食いが頻繁にあり、共食いをすることを高貴なことだと考えていたので、魔王だった彼女もまたその考えがあった。流石に人間になってからは共食いはまずいと言う自覚は生まれているが、どうしてもかつての仲間とそっくりなものを見ると親近感から食べたくなるのだ。
堂々と食べると両親に悲鳴を上げられてしまうので、あくまでこっそりと、だったが…。
その日も父親にくっついて狐狩りにきた彼女は、近くの森を散策するという名目で護衛の目を盗んで一人ゲテモノ狩りを行っていた。ヤモリが6匹、カエルが3匹、ムカデが10匹。カブトムシの幼虫4匹。中々の収穫である。
「焼いてよし、燻製にしてよし、さてどう食べようか?」
火の魔法でヤモリを炙って塩を振ってかじりついた時だった。金色ツンツンヘアーが飛び出してきた。
「見つけたぞおまえ!あの茶会以来だなぁ、今日こそ一緒にぼくと、あそ…べ…?」
「ボリボリボリ…ん?」
茶会の時の礼服と違い、しっかりした革製の服にマント、虫よけのサークレットを頭につけ、木の棒を持つスティーブはかつての勇者そっくりだった。
「ぃやぁぁぁぁああ、ッ虫、ムカデェェ―!?」
「ゆ、ゆうしゃぁぁあっぁー!?」
2人の悲鳴が森に木霊する。
すぐさま護衛たちが駆け寄ってくる音がして、リヨネッタは咄嗟にゲテモノたちをスカートの内ポケットに隠した。口に入れていたヤモリは急いで食べて飲み込もうとする。それを見てスティーブは更に悲鳴をあげた。
「ヤ、ヤモリ食べちゃぁあぁぁ!」
「ムグッ、う、うぇぇ、…ウグー!?」
「だ、ダメだ、吐いて!あ、手に、うああああぁぁ!?」
急いでヤモリの残りを食べてしまおうとする彼女の口に、スティーブは手を突っ込んで取り出そうとしてきた。
びっくりしたリヨネッタはヤモリの残りをスティーブの手に吐き出してしまう。
パニックになったスティーブは、うっかりヤモリの丸焼きで首無しのそれをリヨネッタの口にリリースする。
王子の手で口にキャッチ&リリースされたリヨネッタは、ヤモリを食べきることを忘れて硬直した。
双方パニックだが、ちょうど現れた護衛が見たのは王子が令嬢の口にヤモリ?らしきものを突っ込む瞬間だったために、更に大パニックになった。
護衛たちの野太い悲鳴が追加され、阿鼻叫喚の大惨事である。
これが後に、第一王子の婚約者の悲劇と呼ばれる事件となった。
リヨネッタ6歳と半年。
ヤモリ事件をきっかけにリヨネッタは再び婚約者候補に戻った。しかも他の令嬢はいなくなり、唯一のスティーブの婚約者候補だ。
誠に遺憾である。
何やら大人の話し合いがあって、リヨネッタの心の傷?とやらの今後を考えた両親と国王との話し合いの末に決まったことらしい。
明かにギャン泣きした後のスティーブに「無理やりヤモリを食べさせてごめんなさい。」と謎の謝罪を受けて、お詫びに婚約候補者と名ばかりで、内密にはもう婚約を結んだ話をきかされた。
リヨネッタからはヤモリ事件の真実は何も言わなかった。
(勇者の子孫が泣いてる。ざまあみろー!!ふはははは!!…やばい、あいつの子孫と結婚とか死ねる…。)
忌々しい勇者の子孫と結婚する未来を、元魔王はちょっと受け入れたくなかったので、現実逃避していたともいう。
記憶が戻って1年半、6歳児の意見なんて大人が聞いてくれないことは、身を持って知っていた。
(両親はともかく、権力を持つ祖父母がやばい。どんなに両親が甘くてもきっとこの婚約は覆らない…。今は諦めるしかない…)
それでも元魔王、ただでは転ばない。ゲテモノ食いの趣味をこの事件をきっかけに目覚めたことにして、公のものにした。
(いつか必ず婚約破棄してみせる。)
6歳半にして切なる誓いを抱き、リヨネッタは今日も王妃教育のために城へと足を運んだ。




