勇者の子孫なんかお断り!5歳からスタート
リヨネッタ5歳
第一王子スティーブの婚約者候補として王城に行き、かつて自分を殺した勇者そっくりの王子をみたことで記憶を取り戻した。
前世はリヨネッタが魔族の王で、勇者の聖なる剣?とやらで殺されたのだ。
スティーブの勇者そっくりな金のツンツンヘアーに透き通った青い瞳を見て、記憶と頭痛、大量の魔力が彼女を襲った。
引きつった顔をして後ずさった彼女は、王族主催の庭園のお茶会から飛び出し、そのまま近くの噴水まで逃げた。
「ありえぬ…あれから100年以上経った世界?魔族も魔物も皆いなくなって、この妾が、魔王の妾が、人間の幼女だと…?しかも、あの勇者の子孫とお見合いするための茶会など!!」
ダンっと拳を噴水の縁に拳を落として、記憶で混乱する頭を振る。
肩で荒い息をした彼女にまだ声変りしていない子供の声がかかった。
「おい、お前!ぼくのお茶会からいなくなるとは無礼だぞ!」
「あ?」
さっきのお茶会から王子が追いかけてきていた。生意気そうな5歳児がリヨネッタに指をさしている。
「今から戻れば許してやらないこともない。ほら、このぼくが手をつないでやるから一緒に戻るんだ!」
「いやだ!」
リヨネッタ(魔王の記憶持ち)は全力で首をふった。そのまま噴水の反対側まで逃げる。
拒絶されると思っていなかったスティーブは、みるみるうちに瞳に涙をためた。そこで泣き出すかと思いきや、キッとリヨネッタを睨みながら近づいてきた。
「このぼくが手をつないでやると言っているのに、何がいやなんだ!」
「こっちにくるな!」
「な、なんで…うぇ、うぇええぇん!!」
涙を我慢していた瞳が決壊してスティーブは号泣した。
第一王子の泣き声に色んな大人たちが駆け寄ってくる。まずいことになったことに気がつきながら、この時のリヨネッタには第一王子を拒絶するしか避ける方法など思いつかなかった。
リヨネッタ5歳と半年
第一王子を泣かせたという理由で婚約者候補から外され、リヨネッタは半年間城への出入りを禁止されていた。
彼女は喜んで甘え放題な人生を満喫していたが、出入り禁止命令が解除されると同時に、またもや王城主催のお茶会への招待状が届くようになった。
両親には全力で駄々っ子を演じてお茶会を拒否したが、取り敢えず名誉挽回だけはしてくるように祖父母が両親を説得して、親子連れのお茶会に参加することになった。
半年前よりは今の環境に馴染み、良い具合に今世のリヨネッタと魔王の意識が融合されていた彼女は、二の足は踏むまいと決意していた。
(今度は上手く勇者の子孫をさけつつ、お母さまたちに迷惑をかけないふるまいをする!)
それでも当日になれば、彼女は自分を殺した男そっくりの顔を見るのが嫌で、若干抵抗してしまった。
母に抱っこされ、父にあやされながら馬車に乗る姿にかつての魔王のプライドなどない。元魔王だって勇者のそっくりさんに会えと言われたら、駄々っ子に成り下がるのだ。
遅めに到着した会場の庭では、既にスティーブの周りに小さな令嬢たちが集っており、今回は他の王子たちも会場にいた。
(あの忌々しい男の子孫どもと、なぜ妾が仲良くしなければいけないのだ!!)
ジト目でスティーブの位置を見つめて、できるだけ距離を取ろうとすると、かなり遠くからなのに目が合った。
全身の毛が逆立つリヨネッタに、スティーブはなぜか得意気に笑いかけてきた。
サッと視線をそらして母親のドレスの影に隠れ、スティーブから距離を開けようと辺りを見渡す彼女の頭を、優しく母親が撫でた。
「挨拶はもう少し後の方が良さそうね。大丈夫だと思うけど、あんまり私から離れちゃだめよ。」
「はーい!」
元気に返事をしながら、身を隠せそうな近くのバラの生垣に移動した。ちょっとでも勇者の子孫たち(王子たち)から距離を取りたい。
「ふう…。人間の幼な子のふるまいも、半年あれば慣れるものだな。」
赤とピンクのバラに近づきながら、記憶が戻った直後からの苦労を思い出す。
王子を泣かせ、両親が王家の使者に謝り、祖父母に怒られ、自分の無力な現状を思い知らされた。
彼女の今の実力は、100年後の世界では魔法以外は、腕力も知識もほとんど役に立たない状態だったのだ。
魔王の記憶を持つ幼女にはちょっとだけ過酷で、鍛え直しという試練が必要になっている。
甘々な両親に今まで通りに甘えて、令嬢として育つ分には何不自由はない。でも、魔王として世界征服を再びしようとすることが、かなり難しいだろう。
「もうかつての手下も四天王もいないこの世界で、妾は何をすればいいのじゃ…」
手繰り寄せたバラのトゲは、簡単にリヨネッタの指を刺して血が出てきた。人間の体は弱く、幼女となれば更に脆い。
ため息をついた彼女に誰かが近づいてきた。
「おい、お前!さっきぼくと目が合って喜んでいただろう!?前のことは許してやるから、こっちにきて相手をしろ!」
「はぁ?…うぇえ、勇者の子孫か…」
忌々し気に振り向けば、相変わらずの金色ツンツンヘアーがこちらに向かってきていた。小声で悪態をついて、とっさにバラの茂みに飛び込んで、わざと怪我をした。
「う、うえーん、うえーん!!おかーさまー!!」
わざとらしく泣いて母をよび、前回の仕返しもかねて声を大きくあげた。
すぐ近くにいた母親が駆け寄ってきて、リヨネッタを抱き上げる。傷だらけになった彼女を手当てをするために、母親は近くで待機していた医師の元へと走ってくれた。
腕の隙間からスティーブをみれば、ポカンとした顔でリヨネッタを見送っている。
(やーい!誰がお前の相手なぞするものか!)
リヨネッタが手当てを受けている間に両親が挨拶を済ませてくれたらしく、お茶会はほとんど王子たちと関わることなく終わった。
前回と同じく王子たちの婚約者を決めるものだったようだが、リヨネッタが6歳になるまで城内のお茶会の声がかかることはなかった。
なぜか5歳の一件以降、婚約者候補を集めるのではなく、色んな令嬢を王子たちに合わせる形になったようだが、原因をリヨネッタが把握することはしばらくなかった。