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勇者なんかお断り!!14歳

リヨネッタ14歳


 婚約発表から数日後に監禁されたリヨネッタは、半年で光の棟に馴染んでいた。


と言うのも、


―主、今日もきたぞ

―元気?人間くう?


 光の棟ギリギリの窓辺までなら黒スライムたちがこっそり来れることがわかり、常に退屈していなかった。

 また学友たちも傍まで会いに来てくれるし、心配したダヴィデや両親は中に入れずとも毎日会いに来てくれて、大体の生活は自動魔法で賄われていた。


 しかも、閉じ込めた犯人であるスティーブは、父親である国王から嫉妬に狂った罰としてリヨネッタとの接触を禁止されている。

 リヨネッタは監禁と言ってもそこまで苦労していなかった。


 なんなら一度監禁すると1か月から数年は原則で出すことのできない光の棟に、スティーブは彼女以外は半年間だれも棟に入れない誓約を使っていたので、光の棟はリヨネッタにとってパラダイスになっていた。



 その上、新しい味方が彼女のそばに現れていた。


 カタカタ


「おお、ボーンよ。今日も可愛いなぁ。」



 小さな骨で出来た手乗りドラゴンがやってきて、可愛らしく鳴いて擦り寄ってくる。

 肩にのせてやり、宿題をこなしながらリヨネッタは合間にボーンドラゴンを可愛がっていた。


 このボーンドラゴンについてだが、なんと光の棟には四天王の1人だったドラゴンが様変わりして眠っていたのだ。

 流れとしては四天王として倒された後に、ゾンビドラゴンとしてリヨネッタが討たれた後に復活。

 魔王の仇討ちにきたドラゴンを勇者であるスティーブたちが倒して、もう復活しないように骨になるまで焼いて、バラバラにしたのちに光の棟を建てる際の骨組みに使ったらしい。

 100数年間は眠っていたが、本来の主であるリヨネッタが棟に監禁されたことにより意識が復活。

 監禁されたリヨネッタが暴れて棟を揺らし、棟の少し脆くなった部分の隙間から動く体の部分を使って脱出。

 小さな手のりボーンドラゴンとして主の元へ現れたと言う流れだ。

 逆に体の大半を埋め込まれているせいで、棟からは出られないらしい。

  

 勇者な彼は、まさか骨にまでしたドラゴンがボーンドラゴンとして復活しているなどみじんも思っていなかったようだ。

 勿論、リヨネッタは彼にドラゴン3度目の復活を伝えたりしない。


 窓辺には黒スライムたちがきてくれて、棟の中ではボーンドラゴンというかつてのペットも兼ねたドラゴンが常にそばにいる。親しい人も離れていかない。

 これで彼女が1人寂しいわけがない。

 なんならずっと生活したいくらい快適に過ごしていた。



 

 ここまで穏やかに過ごしている彼女だが、監禁された当時は荒れに荒れていた。

 棟の中で魔法を放ち、自身と燃え盛る炎の中で怒り狂っていたのだ。


「なんと忌々しい勇者よ!今世でもこのような仕打ち、許せぬ!!」

「…キュー…キュー!!」

「む?なんじゃ?」


 炎に荒れる棟を眺めていたその日の内に、か細く鳴く小さなボーンドラゴンと再会。

 足元に擦り寄る骨のドラゴンを抱き上げていると、黒スライムたちの声もした。


「そなたは妾のドラゴンか!!それにこの声は、黒スライムたち?!」

「キュー!」


ーボクラの主!

ー主、おいてかないで

ーボクラの大事な闇



 気配をたどって棟の聖なる光で黒焦げになりながらも黒スライムたちもやってきたので、彼女は荒れ狂うのをやめた。

 かつての部下たちとのんびりできる空間に身を任せるようになったのだ。




「ふむ、学園の課題と王妃教育があるもののちと暇じゃな…。」


 1ヶ月で精神も安定した彼女は、監禁ついでに公務を手伝うようになった。

 こうして魔王の時に経験があるが故に、現代の知識と王妃教育で受けた知識を合わせて、バリバリ活躍するようになっていく彼女は、公務でも実績を積み上げていった。


「余が嫉妬に身を任せて監禁したのに、腐らず自分ができることを探すとは…やはり魔王も王の器か…」


 リヨネッタに会うことを禁止されたスティーブだったが、その能力にリヨネッタへの好感度を更にあげていた。


 また不遇な状況でも出来ることを探す有能な令嬢として、周囲の評価も更にあがっていた。


(これだけ公務もこなせるなら、王妃になった時に国の支配もできそうじゃなぁ。)


 リヨネッタは一人違う意味でほくそ笑み、ついでにこっそり国の属国や同盟国、ちょっと心配な元敵国なども確認していた。

 いつか来るかもしれない世界征服計画を、せっせと勇者の国を基盤に考えて1人もくもくと練り上げていた。


 ここまでが13歳半から14歳になるまでに監禁されていた話である。




 半年経って14歳になった頃、ついに誓約が解除されて魔王は再び解き放たれた。

 棟から出れないボーンドラゴンを名残り惜しく置いて、黒スライムを連れた彼女は寂しい気持ちで棟を後にし、自分の屋敷に帰る。

 

 半年ぶりスティーブとの再会は、勇者からの謝罪だった。


「今回ばかりはやりすぎた、すまなかった。」

「もうよい、妾は怒っておらぬ。」


 何なら楽しかった彼女は、あっさりと監禁の件で彼を許した。

 そうして彼とはまた喧嘩しながらも一緒にいる日々が始まった。半年ぶりの再会とはいえ、あまり二人の間は変わっていなかった。

 

 王立学園の方は、半年間も休学する流れになっていたが、今回の王子の婚約者の嫉妬相手が女生徒だったこともあり、監禁の方が大事になっていた。

 また、監禁されながらも学校からの課題はこなしていたので、状況を鑑みての復学が決まっており、スティーブの監視付きながらも再び学園に通う日々が始まった。


 しかし、不穏なことに彼の口からアイーシャに対しての話題は一切出ない。

 そこで何かを汲み取れればよかったのだが、こりないリヨネッタは今度はひっそりとアイーシャに手紙を送った。


返事は短かいながらも早かった。


『連絡ありがとう。

何も言わずにいなくなってごめんなさい。

殿下はやばい人だわ。除夜の鐘でケツドラムさせても足りないくらい嫉妬と煩悩の塊よ。気をつけて。また連絡するわ。』

「うむ、返事をもらえたのは嬉しいが、ケツドラムとはなんじゃろ?会えた時に聞けるじゃろうか…」


 こっそりとアイーシャの手紙を大事にしていたリヨネッタは、再びスティーブに光の棟に数日間も監禁された。



「なんでじゃー?!」

「お前もこりないよなぁ、俺と言うものがありながら…」


 呆れた声を出しながら、嬉しそうな顔でスティーブは彼女を再び閉じ込めた。

 どうやらリヨネッタがあやしい動きをしたら、数日間なら光の棟へ監禁しても良いと、正式にスティーブは許可をとっていたらしい。


「ごめんなさいね、リヨネッタちゃん。これは貴方のためでもあるのよ。」

「王妃様、なぜスティーブに協力を…嘘でしょう?」

「フラグは全部折る。これがわたくしの生き延びたルールなのよ。」



 どうも王妃がヒロインであるアイーシャとリヨネッタの良すぎる仲に心配して、スティーブに力を貸したようだ。

 今度は黒スライムもボーンドラゴンも、聖なる光使いのスティーブがずっとそばいるせいで近づけなかった。

 名残惜しかった光の棟が、やっと彼女の中で忌々しいものになる。


 元来、光の棟は第一王子であるスティーブしか入れない棟なので、今度こそスティーブによる監禁が始まった。


 リヨネッタはお一人様ライフを再び期待していたが、朝から晩までスティーブオンリー生活になり、数日間とは言え根を上げた。


(最近どうにも勇者といると心臓がうるさい。しばらく監禁されぬよう行動を慎むか…)


 宿敵と一緒に過ごす恐怖か、武者震いか、と早る鼓動を抑えながら、今後は流石にスティーブに気を使うことも覚えざるをえなかったリヨネッタだった。





リヨネッタ14歳と半年


 再び学園に戻ってきたリヨネッタはスティーブと実技テストと期末テストで喧嘩をしていた。

 実技テストの最中にハプニングがおきるも、2人で事件を解決したりもした。


「上に立ちたる者、弱い物を守ってこそ!」

「生徒1人守れず、民は守れない!」


 二人の息の合った行動は、監禁騒動による周囲の不安を払拭した。色々あったが、この件でさすが次期王と王妃!!と2人の評価は更にあがっていっていく。


(過去の経験でわかっていたが、人間は誰かの為になると著しく成長することがある。特に護衛にあたり散らしていたあの勇者も良い方に変わってきていたか…)


 この時のスティーブの事件解決の動きは、リヨネッタの中の泣き虫王子のイメージを覆すことになった。




 試験も高評価に終わり、スティーブの嫉妬もひいた一年を経て、やっとリヨネッタはアイーシャと再会が許さた。


「久しいなぇ…達者であったか?」

「急に自主退学してごめんね。びっくりしたでしょう?」

「そなたが元気なら良いのじゃ。気にするな」


 ガチガチに組まれた護衛が近くにいるが、2人は久しぶりのお茶会を楽しんでいた。2人が会えない間は共同開発は止まり、商品の流通のみにお互い力を入れるしかできていなかった。

 試作品作りをする合間を通して、2人は乙女ゲームの続きについて話をしていた。


「やっぱりリヨネッタはあの人と婚約やめた方が良いと思うの…」

「手紙でも行っておったな?何があった、酷いことをされたのかぇ…?」

「詳しいことは言えないけど、ゲーム内より第一王子殿下がやばい人だったわ…あたし自身は無事よ?うん…」

「ふむ、今は話したくなさそうじゃな?また聞かせてたも…」


 何となく居心地の悪そうなアイーシャに話を逸らしてあげようと、悪役令嬢ムーブのやり方を聞きだしてゲーム内でやっていた講習を受けたリヨネッタ。

一応、悪役令嬢をやって婚約破棄を狙ってみるか、と言う話に変えた。


(妾は王妃として生きる覚悟を決めたが、まだ婚約を破棄して自由に復讐に生きる道もまた諦めてはいない。勇者との接触は減った方が良いはずなのじゃ…)


 一瞬だけ、つきりと痛みが彼女の胸を刺したが、彼女にはそれが何かわからなかった。



 アイーシャは協力的に悪役令嬢リヨネッタのゲーム内のいじめを教えてくれた。

 ただし、ヒロインの彼女が学園にいないため、身近な学友たちに頼んで、学友たちにいじめもどきをしている姿をスティーブたちに見せる流れになった。



 まずは席を無くすと言ういじめを学友に受けてもらった。


「残念だったなぁ、そなたの席はわら…私のものよ!諦めて私の膝の上に座りなさい!」

「そんな!伯爵家ごときの私がリヨネッタ様のお膝に乗れるなんてっ!」


 またある日は、学友の昼食を奪った。


「あなたのお弁当は私がもらうわ!代わりに私のお弁当を食べなさい!!」

「リ、リヨネッタ様とお弁当交換?!子爵家の私とも仲良くしてくださるなんて、感激です!」


 こんな感じの悪役令嬢ムーブをリヨネッタは頑張ってやっていた。

 すると、スティーブから人気の少ない廊下ですれ違う際に呼びとめを受けた。


(さっそくいじめは良くない、婚約は考え直す!とくるか?)

 

 リヨネッタは慣れないことを数日やっていたことも含めてソワソワした。


「最近のお前の行動のことだが…」

「何か悪いことをしたか?いじめではないぞ、権力を有効活用しただけのことよ」


 ふふん、と鼻で笑ってリヨネッタはあくどく笑ってスティーブを見た。


「…いじめ?何のことだ?そんなことより、お前は女生徒とばかり仲良くし過ぎていないか?」

「なんだ、誤解しないのかぇ。つまらぬなぁ…」

「お前、いくら女学生どうしでも膝にのせて抱っこし合ったり、弁当交換し合ったり、他にも距離が近すぎると思うぞ。やりすぎだ」


 てっきりいじめに対して行ってくると思っていた魔王(リヨネッタ)は、がっかりしながら、ほっとした。


「そっちの話にいったか…いやまて、何故そこまで詳しく知ってる…?いや、それよりそなたこそ妾と距離近くないか?」

「お前はそちらの趣味なのか?」

「どちらの趣味だぇ?イジメは流石に趣味ではないが…」


 気がつけば勇者がかなり近距離にいた。

 魔王は勇ましくは後ずさるも、壁に追い込まれて両腕で囲い込まれた。最近よく起きる不整脈がどきどきと彼女を襲う。


「そなたより、女友達の方が落ち着くのじゃ。当然じゃろ?妾を殺した勇者よ。」

「ほう?」


 早る心臓の音を隠すようにそっぽを向いたリヨネッタに、スティーブにはムッとした顔をした。

 彼の顔が近づき、金髪がリヨネッタの赤髪に混ざる。


(また髪を食らう気か?それともキスをする気か?!)


 リヨネッタはキツく目を閉じて、胸の鼓動を隠すように腕を組んだ。

 一部始終を見ていたダヴィデが、女子の様な悲鳴を上げて離れていく音がする。


 数秒の沈黙の後


 ガブリッ


 リヨネッタは頬を思い切り(かじ)られていた。


「は?え、ガブリッ?!ま、待てひゃめよ。妾を食うにゃ!」


 甘噛みとは言い難い確かな痛みを持って、魔王は勇者に頬を齧られていた。顔が近過ぎてスティーブの表情は見えない。


「やめよ、いひゃい、何で…食うな!」


 ガブガブと頬が噛まれている。


(何が起きたぇ?食われているのは、髪ですらない、だと…)


 小さく悲鳴を上げて退けようとすると、いつのまにかガッチリ抱きつかれている。しかも、光の聖なる魔法を付与したホールドだ。


 ちょっと離れたところから、顔を指で隠して隙間から覗くダヴィデが見えた。それはいつぞやのキス事件を思い出される。


(もしや周りには頬にキスをされているようにでもみえるのかぇ?!だから護衛も少し離れたのか!)


 焦ったリヨネッタは防御魔法を展開しようとして失敗した。相変わらず頬を齧られている。


(おのれ勇者め、妾をくうな!人間は共食いしないのではないのか!認識を改めた妾の苦労は?!)


 何とか魔法で弾こうとするも、光の魔法を展開されて抱きつかれているせいか、体にまるで力が入らない。バチバチと火花だけが散った。


「ここまでなんでするのひゃ、やめよ!おのりぇ、おにょれ、いつか齧り返してやるからなぁ!!」


 頬を齧られているせいでうまく喋れない中で、負け犬の遠吠えよろしく彼女はうめいた。リヨネッタの心臓が恐怖か恋かずっとドキドキと動く。


 そこでやっとスティーブは齧るのをやめた。


「ふん、そら!噛めば良い。」

「この流れで、その言い方は卑怯じゃろ!?」

「お前が悪いんだ!」

「確かに妾は魔王で悪かもしれぬが、だからって齧るな!」

「違う、そう言う意味じゃない。」


 呆れたような顔でスティーブは、自身の歯形で血が出ているリヨネッタの顔を撫でた。光が顔を覆ったので、治癒魔法で治してくれたのだろう。


「ぎゃおー!!?そなたらしくもない!なんなのじゃ!?」


 かつて光の魔法で焼かれた恐怖で奇声を上げて、魔王は勇者から距離を取ろうとする。しかし、未だに抱きつかれて身動きが取れない。


 ガタッっと音がして、知り合いのいちゃいちゃ(誤解?)に気恥ずかしさから見ていられなくなったダヴィデが、彼女の視界の端で遠くへ去っていくのが見えた。

 

 助けはこない。



「何故こんなに伝わらないんだ…魔族は好きな相手を食うんだろ?」

「は?好き??食う…妾を??好きだから齧った??」


 予想外の言葉に、やっとリヨネッタはスティーブの気持ちを理解した。


(確かに魔族は好きな相手ほど食べたくなる。…共食いできるほど好き、と言うことは…え??髪喰われてたのもそっちの感情かぇ??)


「いつもみたいに抵抗しないのか?なら、同意とみなすぞ?」


 リヨネッタは大混乱し、何も抵抗できずにスティーブに今度は反対の頬を齧られた。


(妾もさっき勇者を倒すのではなく、離れるのでもなく、齧ってやろうとした…つまり…??)


 人間14年目にしてリヨネッタは未知の感情を感じていた。






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