③登門の儀 その1
水浴び 食事を終え、部屋にいる千寿の様子からスタートします。
登門の儀が始まります、ぜひ最後までお読みください。
「道着にも着替えたし、準備運動も終わった。最後に太刀の確認でもするかな。」
自分の部屋に戻った俺は、登門の儀のための準備をしていた。
「太刀の手入れも終わってるし、確認て程でもないけど、、、」
俺は、灰色の鞘に入った刀身を抜いた。無銘の稽古用太刀だけど、初門と認められたその日に渡されたもので、今では俺の大切な相棒となっている。この相棒が今日の俺の命運を握っているんだと思うと、握った手に熱がこもる。
登門の儀は、15歳の誕生日に行われる。そして初門から登門に認められると、その証として師匠からその者にあった太刀を手渡され、頂門に至るための修行の旅に出ることが許される。
ちなみに祓魔龍刀術の修める段階は、入門・会得段階の初門、己の血肉として型を習得し師匠に認められた登門、己の型を見つけそれを昇華・発展させた者を頂門、そして龍に通じる道と己が理を見出した者を最高位 龍門。この4つの段階に分けられる。龍門については、なんか説明されたけど小難しくて聞いてもよくわかんなかったんだよな。いずれわかるとは言われたけど。
「さて、ちょっと早いけどそろそろ行くか。部屋にいても落ち着かないし、なるようになれってね。」
そう自分に言い聞かせた俺は、屋敷の東側にある道場に向かって歩き出した。
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「初門 千寿 入ります!!!」
大きな挨拶と共に道場の扉を開いた。開いた先には、いつも稽古に使っている見慣れた道場が広がって、、、、
「な訳ないか、、」
いつもの道場とは違う、ピリピリとした緊張感が伝わってくる。その発生源は言わずもがなだ。
中央には師匠が立っていて、腰には木刀を下げている。いつもの朝着ていた道着とは違う、真っ黒な道着と袴。アニキの登門の儀の時と同じ格好だ。そして、俺から見て左側の壁際にアニキがいた。アニキはいつもの白い道着だ、3年前の俺も今のアニキと同じ場所にいたんだよな。覚えてはいるけど、やっぱり自分が受ける側になるのでは、感じが全然違うや。道場に入って一礼し、師匠の前に向かう。そして立ち止まると、師匠の口が開いた。
「これより、祓魔龍刀術 登門の儀を執り行う。ついてくるがいい。」
「はい!」
そう言うと師匠は背を向け、道場の北東角に祭っている神棚に向かった。俺は後をついていく、アニキはその後ろだ。そして、神棚の前につくと師匠が何かつぶやいた。すると、一瞬で神棚の下にあった壁が無くなり、通路が現れた。そうそう、3年前もこうだった。てっきり道場の中でやるもんだと思ってたら急に魔法みたいなことするんだから、驚いた。
「行くぞ」
また師匠が歩き始めた。通路はけっこう長かった。青白い炎が灯った篝火が同じ間隔に置かれ続いていた。中は涼しいような感じがして、歩いている間俺の緊張が少しずつほぐれ、自然と頭の中がすきとおっていく感じがした。
何分くらい歩いただろうか、ようやく開いた場所に出てきた。そこは洞窟の中にできた大きな広場のような感じで、滝が7つ流れていた。中央には円状になった足場と中を照らす7つの篝火、周りは流れてきた水で浅い川のようになっていた。
「龍炎、お主はここで。千寿、行くぞ。」
アニキには出口の近くにいるよう指示し、師匠は俺を連れて中央の広場に向かう。アニキは何も言わない、表情も変えない。ただ真っすぐな目で俺を見ている。俺は深呼吸をし、前に歩を進めた。
広場の中央付近につくと、道場からここに来るまで背しか見せなかった師匠がやっと正面をこちらに向けた。そして、口を開く。
「千寿、ここは成龍の間。登門の儀によって、祓魔龍刀術の登門にふさわしいか試させてもらう。今まで培ってきたもの、ワシや龍炎と刀を交え鍛錬し感じてきたことを、全て出し切るのじゃ。良いな?」
「はい、師匠。登門の儀、改めてよろしくお願いします。」
「うむ、では太刀を抜くがいい。」
俺は真剣、師匠は木刀を抜き構える。
太刀を両手で握りしめ、正眼に構える。師匠を目で捉える。
頭の中が透明になっていく、そして師匠が叫ぶ。
「合格の条件はただ一つ、、、このワシに、一撃浴びせて見せよ!!!」
「ハぁアアアアアアア!!!」
俺は太刀を振りかぶり、一瞬で龍氣を太刀に集め、解き放った。
風の刃が正面の敵を広範囲に切り刻む技
祓魔龍刀術 風龍の型 初太刀 風牙龍哭
地面が、風の衝撃波とかまいたちのような鋭い風刃で抉られながら、物凄い轟音とともに師匠に向かっていった。
ありがとうございました。登門の儀の開始が宣言された直後、新しい型のお披露目でした。
この技は、私的にけっこうお気に入りの技でして、これからも頻繁に出てくるかもしれません。
次からは、龍炎の視点での登門の儀の試合を書く予定です。
また次もよろしくお願いします。