第4話 「天井に咲く」
天井を見た。人間の肉体が咲いていた。幽霊を見てしまったのだと思った。
僕はその異形の姿を見てギョッとした。いったい何が起きているのだろうと困惑した。
天井のそれは、顔こそ見えなかったが女性のようだった。
今、見えているのは腕なのか太ももなのか分からない。あるいは腹なのかもしれないし、一体ではなく複数人がごちゃ混ぜになった姿なのかもしれない。
けれども、生々しい質感のある四肢は、僕の部屋の天井からダランとたれ下がってジッとしていた。
これからどうしようかと考えた。でも、混乱した頭の中では、何をどう考えてもこの状況をどうにかなどできなかった。
ただ、異常な情景に、足を震わせながら、口をあんぐり開きながら、天井に咲いたそのオバケを見つめることしかできなかった。
しかも、そいつからは、何だかバラの花のような強い匂いがした。
いい匂いだったから、不快ではない。しかし、そのあまりにも美しい芳香は、より不気味さを掻き立てるものだった。
これからどうしよう。親にどう説明しよう。いや、もしかしたら親は、これが見えないかもしれない。もし仮に、天井に咲いているこの人間の四肢が、僕にしか見えない幽霊だとしたら、気にせず、普段通りに過ごすしかないのだろうか。
僕は困惑してしてしまった。
前兆なんて一切なかった。
僕はただの高校生で、今日は部活が無かったから、早く帰れるな、と思って、家に帰って、それで部屋を開けたら、これだった。
僕はこれから、この肉体と暮らしていく。