表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

第8話 「毛はえ皿」




 最近、家族の仲が悪い。


 食卓を囲むとき、必ずピリピリとした雰囲気が漂って、誰かの一言ですぐに喧嘩が始まりそうな程である。




 いつからだろうか、家族とほとんど口を聞かなくなったのは。




 まあ、僕は高校二年生で、この年の男子生徒といえば、誰も積極的に母親や父親と仲良くしようなどとは思わないのだが。


 それでも家庭に流れるこの空気感は少し異常な程にも思えた。




 理由があるわけではない。ただ、イビツなのである。








 春の季節のことだ。僕の家庭環境とは裏腹に、クラス替えが終わったばかりの教室は少し浮かれていて、生徒たちの喧騒が、新学期を盛り上げている。




 新しい季節の匂いだ。


 僕は机に座って、ぼうっと窓を眺めていると、


「ねえ。昴くん」


 と話しかけられた。安堂さんだった。彼女は一年の頃から仲が良い女子だった。僕は、


「なんだい?」


 と返事をした。




「怖い話をしようよ」


「え?いま?」


 彼女が突然、そのような話題をふってきたので、僕はどんな話なんだろう、と思い聞くことにした。




「まあ、いいよ」


 と、僕は言った。




「毛生え皿、って知ってる?」


「毛生え皿?」




「そう。毛の生えたお皿なの。最近じゃ有名な話よ」


「それが、どうかしたのかい?」




 と、僕は疑問に思って聞いた。


「お皿に、毛が生えてくるの」


 と、安堂さんは、深刻そうな表情で言う。


「それだけ?」


「うん。それだけ」


 そこで話は終了した。








 家に帰って、着替えて、会話の無い食事をした。


 母親が、お箸をバチン!


 と机に叩きつけて、低い声で、


「ごちそうさま」


 と言って、寝室に戻ってしまったので、僕はお茶碗を洗うことにした。






 流しに立って、皿を丁寧に洗っている時、


 毛の生えたお皿を一枚見つけた。








「うわっ!」


 と、僕は声を上げた。




 最初は髪の毛がくっついているのかな、と思った。しかし引っ張っても抜けないその縮れ毛は、すぐに例の「毛生え皿」であると理解した。




 数本の毛が、まるでスネ毛のように絡み合っている。


 僕はそれをタオルにくるんで、鞄の中にしまった。








 翌日、その毛生え皿を学校へ持っていって、朝イチで安堂さんに見せた。彼女は、僕が持ってきた毛生え皿を見て「やっぱりか」という表情をした。




「実はね。最近、多いみたいなの」


 と、彼女は言った。




 僕は、とても不思議な気分になった。この縮れ毛は、いったい、どんな要因があってお皿から生えてきたのだろうか。






「私も、持ってきたんだ。その、毛生え皿」


 彼女は自分の鞄から、タオルにくるまれた皿を取り出し、僕に見せてくれた。




 それを見た僕は、


「うわ。何これ」


 と、驚いてしまった。




 彼女が持ってきた毛生え皿は、カツラと見まちがう程、ぼおぼおになっていた。




「…………私の両親、そろそろ離婚しそうなんだ」


 と、彼女は言った。そうして、また元のように毛生え皿をタオルにくるんで、鞄に入れた。






 僕は、どう答えていいか分からなかった。それに、あんなに、ぼおぼおに毛が生えてしまったら、恐らく離婚の危機は避けられないだろうな、という気持ちになった。








 その時だった。


「おい!昴!これ何だよ?」


 ヤンチャなクラスメイトである貴史が、僕の毛生え皿に気がついたらしかった。




 僕は、毛生え皿を鞄にしまっていなかったことを後悔した。


「ちょっと見せろ」




 そういって、貴史は毛はえ皿の毛をむんずと掴むと、ブチッっとそれを引っ張って抜いてしまった。




 その時、


「うぎゃー」


 という声が皿からして、それきりだった。








 次の日から、


 家族の仲は、元通りになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ