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サイコメトリー

作者: 西園良

 俺の目の前には親友が倒れている。ピクリとも動かない。俺は声が出なかった。

「お、おい」

 恐る恐る声をかける。やはり、反応がない。親友の体に駆け寄りたい。しかし、素人が無闇に体を動かしてはいけないとどこかで聞いた。そうだ、救急車に連絡だ。



 結局親友は帰らぬ人となった。警察の話によると、何者かによる殺害の疑いが濃厚とのことだ。だが、今の俺はそれに意識を向けることができなかった。親友が死んだのだ。俺は言葉で言い表せないくらいに悲しみで心がいっぱいだった。

「太郎」

 俺は親友の名をポツリと口に出す。そんなことをしても、親友は答えてくれない。

「太郎。太郎」

 それでも俺は言い続けた。

「あ、あれ」

 俺は親友の物から意識が流れてくるような気がした。


「つよし。これを見ろ」

 太郎が得意げに財布を見せてきた。

「新しく買ったのか」

「ああ」

「何か良さそうな財布だな。高かったのか?」

 俺が尋ねると、彼は喜色に満ちた顔で喋る。

「そうなんだよ。これはあの有名なブランドの財布なんだぜ」

 太郎が話したブランド名は俺も知っているものだった。正直うらやましかった。

「お前って財布にこだわるタイプなのか?」

「財布以外にも時計とかにもこだわりたいな」

「なるほどな」

「お前もブランドの財布とか時計とか買わないのか?」

「買えたら欲しいけど、買えないからな」

 俺は本音で答えた。

「そっか。お前も頑張って金貯めろよ」

「そうするよ。ありがとな」

 俺の礼に太郎はニカッと笑った。


 太郎の財布に触れた途端に昔の記憶が流れ込んできた。もしやこれはサイコメトリーとかいう物だろうか。ま、まさかそんな非現実的なことがあるわけないだろう。

 ちなみに、この財布は親友の部屋にあったもので、俺は太郎の家族に許可を取って太郎の家にいる。

 うーん。一応他のところも触ってみるか。


 結果として、もう認めなくてはいけない。親友の部屋にあった物の多くから、太郎の記憶等が俺の頭の中に流れてきたからだ。俺はサイコメトリーが使えるようになったのだ。俺は超能力者になったってことだ。俺は特別になった。まあ、できるだけ他人に話さないようにはするが。



 太郎が殺されてしばらく経った日。俺は親友の遺体があった近くでサイコメトリーを使ってみようと思った。そこで親友の記憶を通して犯人が分かるかもしれないからな。

 よし、いくぞ。


「お前さ。そろそろウザくなってきたんだよ」

「どうして」

「そういうところだよ」

「ちゃんと説明してよ」

「もう説明する義務はないな」

「あるよ」

「ないっつーの。はあ、ハズレの女を引いたか」

「なによ、その言い方」

「そうだな。これに関しては謝ろう。でも、もう結果は変わらん」

「ねえ、訂正するなら今よ」

「しねーつーの」

「ホントに後悔しない」

「くどい。そういうところだよ」

「じゃあ、仕方ないね」

「おまえ、それ。ぐふっ」

「死ね」

「うぐあ」

「死ね」


「太郎」

 俺は太郎の残された記憶を見て、呟く。彼は謎の女に刺されて殺されたようだ。彼女とどういう関係だったかは分からないが、予想はできる。

 さて、この女が犯人だと確定した。だが、俺の知らない女だったから、どうすれば良いか分からない。警察に頼ろうにも、サイコメトリーなんて信用してもらえるとは思えない。やはり、俺自身で色々な人に聞き込みをしなくてはならない。



 あれから様々なところで聞き込み等をして、例の女の居場所を知ることができた。そして、喫茶店でその女と会う約束を取りつけた。今日喫茶店で落ち合うことになっている。


 待ち合わせ時間の少し前に件の喫茶店に来ると、先に女が来ていた。前もって聞いていた情報と一致する女だったしサイコメトリーで見た映像でもこんな感じの顔つきだったから、この女が太郎を殺した人間に間違いはない。

「初めまして」

「初めまして。貴方が太郎さんの親友の方」

 女は微笑みながら、尋ねる。

「そうです。座らせてもらいますね」

「どうぞ」

 俺は彼女の向かいに着席する。彼女から発せられる雰囲気からは人を殺すような人間に感じない。しかし、人は見た目によらない。お互いに軽く自己紹介をした後に、俺は言った。

「失礼ですが、貴方は太郎の何なんですか?」

「友人です」

「彼氏彼女じゃないんですか」

 俺の質問に彼女は微笑んだまま否定した。しかし、雰囲気から怒りを感じた。

「違いますよ」

 何に怒りを感じたのかは判断がつかないが、恋人同士ではないのは分かる。

「なるほど。でも、ただの友人にしては仲が良すぎるような気がしますね」

 俺はポツリとした声で尋ねる。すると、女は眉をしかめて、少し咎めてきた。

「初対面の人間相手にそんなにプライベートを聞いてくるのは失礼ですよ」

「これは失礼しました」

 一応相手の言ったことは正論なので、謝っておいた。

 まあ、あの光景の喧嘩からして、肉体関係有りの友人だろう。金銭トラブルの可能性もあるが、あの時の雰囲気は金銭つながりではなさそうだから、可能性は低い。

 太郎には彼女がいなかったはずだ。この女には太郎以外の男がいたのだろうか。いや、太郎はそんな不誠実なことはしないはずだから、この女に彼氏はいなかったと思う。性的な意味での友人関係が誠実かと言われると俺個人の考えでは違う気がするが。まあ、親友の太郎が死んでしまったことに比べたら、どうとも思わないことか。

「それじゃあ、本題に入ります」

 俺は声を潜めて続ける。

「太郎を殺したのはおまえだろ」

 俺は声に怒りを滲ませながら尋ねる。女は一瞬ぎょっとしたが、すぐに冷静に小さな声で返事をする。

「殺害された可能性が高いとは聞きましたが、まさか私を犯人扱いするなんて、あなたは何なのですか」

「いいから自首しろ」

「はあ。私が犯人だとという証拠はあるんですか」

「証拠はない。でも実はな」

 俺は次のことを伝えた。サイコメトリーで女が太郎を殺していた映像を見たこと。親友の死体を見て、この超能力が使えるようになったこと。この2つだ。

「そして、おまえ達のその時の台詞はこうだ」

 俺はこの女と太郎の台詞を覚えている分の全部を伝えた。さすがに、一字一句をあの一瞬で覚えておくのは少なくとも俺には無理だからな。

「フィクションの話ですか。しかも、捏造して犯人扱いはあきれてものも言えないです」

 女は明らかに馬鹿にしていた。しかし、俺は彼女の声からわずかに動揺を感じ取ることができた。

「失礼します。できれば、あなたみたいな人とは二度と会いたくないですね」

 彼女は自分の伝票を手に持って、席をたった。男である俺がおごった方が良かったのかもしれない。いや、人を殺した女におごるなんてとんでもない話だな。別会計で正解だった。

 それはそれとして、せっかく犯人と会ったのに収穫がなかったのは残念だった。正確には女の動揺を見ることはできたが、こんなものは俺にとって収穫がないのと同じだ。

 これからどうするかを考えながら、俺は伝票をつかんだ。



 数日後。俺はどうすれば良いか分からなかった。だから、再度様々なところで聞き込みをすることにした。1人2人と聞き込みを終えたが、有力な新情報はなかった。しかし、諦めてはいけない。俺は自分に内心で気合いを入れようとした。

「ぐあ」

 背中から何かが貫通したような衝撃があった。いや、ようなではなく、本当に貫通していた。激痛が走る。何かが抜ける。背中の別のところに入る。3回くらい刺された。

 痛みとともに、俺はうつ伏せに倒れた。足音が俺の顔の前に止まる。激痛に耐えながら、俺は見上げる。以前喫茶店で会話をした女であり、何より太郎を殺害した犯罪者だった。手には血まみれの刃物を持っている。

「証拠、ない、殺す」

 証拠がないのになぜ殺すと言いたかったが、喉から血が出て明瞭に話せない。女は無表情だった。

「馬鹿らしい話だけど、あの時の台詞は大体合ってたわ。だから、念のため殺しておくの」

 無表情のままに淡々と話すに俺は恐怖を抱いた。いや、すでに死ぬ恐怖を感じていたが、別の恐怖も感じてしまったのだ。

 あ、俺はもう駄目みたいだ。

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