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インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第2節 8月編
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8月編 第6話 信じる

夏祭りに参加できないことに激怒した洋一。

翌日から洋一は遼子ら病院関係者の口を聞かなくなってしまった……

「洋一さん、おはようございます。今日も変わりないですか?」


「…………」


 俺は遼子の口を聞くことができなくなった。昨日までの玲衣のときのように……


 もう病院関係者とは話したくない。そう思うようになってしまったのだ。


「今日も変わりない……と」


 遼子が勝手に変わりなしと判断した。


「ちょっと待った!」


 俺は慌てて遼子に詰め寄った。遼子は困ったような顔をしている。


「……あ」


 俺は口も聞いていないのになぜか呼び止めてしまったことに気がつき声を漏らす。


「よ、洋一さん、ど、どうしたんですか」


 つい先ほどまで口も聞かなかった俺を見て驚いたのか、おどおどとしている。


「いやいや、何も答えてないのに勝手に判断しちゃダメじゃないんですか!?」


 俺は遼子が毎日つけているであろうノートを指差した。


「そんなことはありません。洋一さんは元気であると顔色からも判断しました。それでいいですよね?」


 遼子も俺に口を聞いてもらえていないことから、ヤケクソな気持ちになっているようで、遼子の表情は今まで以上に怖かった。


 しかし、今回ばかりは俺から謝ろうとはしない。元はと言えば遼子が口を滑らしたのが原因だ。遼子のせいでこれからの未来が見えなくなったのだ。やりすぎるのがちょうどいいと俺は判断した。


 それととにかく今は言葉を交わしたくなかった。


「はいはい元気ですよ。それじゃあ、また後で……」


 それだけ言って俺はカーテンを閉めた。


「洋一くん……」


 隣のベッドから玲衣の心配そうな声が聞こえた。


(大丈夫だ、玲衣だけは助けてやる。だから今だけは辛抱してくれ……)


 俺は玲衣に謝りたい気持ちでいっぱいになった。助けるどころか、玲衣に心配させてしまっている。


「大丈夫だ、心配するな……」


 俺は独り言のように呟く。隣からはふぅとため息のようなものが聞こえた。


「それじゃあ、失礼します……」


 そう言って遼子は重そうな足取りで病室を後にした。

 それと同時に玲衣はベッドから起き上がり、俺のベッドのカーテンを開ける。


「洋一くん、ちょっといいかな……」


「どうしたんだ?」


 そう言って俺は玲衣をベッドに腰掛けるように促した。


「今のはちょっと、やりすぎ……なんじゃないかな……遼子さんも困ってたし……」


 俺はその瞬間はを強く食いしばった。すぐに冷静になって、口を動かす。


「俺だって遼子さんとは仲直りしたいと考えてる。だけど……謝る勇気が出ないんだ……」


 俺は嘘をついてしまっていることに罪悪感を覚えた。本当は謝りたいのだ。しかし、そうしないと俺にも都合というものがある。今本当のことを話してしまったら、玲衣からは信頼を失ってしまうだろう。それが怖かった。


「嘘……だよね?」


「……え?」


 俺は玲衣に嘘をついていることが見破られたことに驚いた。


「私、わかるの。洋一くんはさっき話したとき目が泳いでいた。だから嘘をついているってわかったの……」


 誰だってわかることだ。それだけ、玲衣には観察力がある。そして俺は冷静さを欠いてしまっていたのだ。


「ごめん。さっきのは嘘なのかもしれない。けど……けど……」


 俺が言葉を詰まらせていると、玲衣が立ち上がった。


「私のせい……なんだよね?」


 玲衣は辛そうに俺を見つめる。


「俺は……玲衣に本当の事を話してしまったらもう……玲衣を助けることができなくなってしまうんじゃないかって思ったんだ。だから……こんな……こんな哀れな俺を許してくれ……」


 俺は下を向く。すると玲衣は俺の頭にポンと手を乗せた。今日の朝、俺が玲衣にしたときのように。


「大丈夫だよ。私は洋一くんを信じるよ。だって……だって……」


 俺は玲衣の方を見る。すると、朝と同じように太陽の光が病室に射し込み、玲衣を輝かせた。玲衣は泣きながら笑顔を見せた。


「洋一くんはもう何回も助けてくれた。私はそれが嬉しいの。だからね、私はいつまでも洋一くんの味方なんだよ」


 その瞬間、俺は玲衣を強く抱きしめそうになったがそれを理性が止めてくれた。ただ、ポツポツと俺の服の上には大粒の涙を落としていた。


「ありがとう、玲衣……俺、決心したよ……」


 それから俺は玲衣に正直に理由を話しす。玲衣は大きく頷きながら話を聞いてくれた。


「そうだったんだ……」


「だから……今ばかりは堪えて欲しい」


 玲衣は無言で頷いた。

 そして、薬の投与の時間がやってきた。


「失礼します。薬を投与しますよ」


 そう言って遼子はザッとカーテンを開けた。

 俺は無言で腕を出した。

 遼子も無言で作業を始めた。


(遼子さん……ごめんなさい……でも……今だけは……)


 俺は心の中で謝り続けた。


「それじゃあ、また時間になったら来ますね」


 ただそれだけを言って遼子はカーテンを閉めた。

 続いて玲衣にも同様の処置を施しに行く。


「お願いします」


「はい、それじゃあ腕を出してください」


 カーテンの奥でそんなやりとりが聞こえる。


「玲衣さん、私……どうしたらいいんでしょう……」


「それは自分で決めることです。いつもの遼子さんらしく振舞えばいいんです。洋一くんだってもう許してくれているかもしれないんですから」


「そう……ですよね……」


 そうしているうちに玲衣の方も作業が終わったらしく、カーテンを閉める音が聞こえた。


 途中で足音が止まった。


「洋一さん、玲衣さん……今回はすみませんでした」


 遼子は深々と頭を下げた。俺はカーテン越しだったが確かにそうしていたように思える。


「それと、今夜二人で屋上に来てください。お二人に見せたいものがあります。それと、今夜は毎年行われる海祭りですよ……」


 その後、遼子は病室を後にした。


 今日の夜、屋上で何があるのだろうか……そして、遼子はなぜ近場で開催される花火大会のことを俺たちに話したのだろうか……

 俺は疑問に思ったがそのまま薬の副作用で眠りについた。

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