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インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第2節 8月編
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8月編 第4話 本日開催⁉︎夏祭り(2)

前回のあらすじ

夏祭りが夕方に開催されることを知った洋一は過去の夏祭りのことを思い出していた。

ソウルフードを目指して屋台へと進む洋一は…

 狙うはこの地方のソウルフード。一度食べたら病みつきになるのだ。


 屋台の前には大きな行列ができている。さすが祭りの屋台ということで300円とぼったくり価格にはなっているがそれはお構いなしだ。手に小銭を握りしめ、列に並び順番を待つ。


 そしてついに俺の順番が回ってきた。


「《たません》一つください!」


 俺は気合のこもった声で注文をする。


「あいよ。300円ね」


 俺は勢いで300円を屋台の店主に渡す。そして店主が鉄板に卵を割って乗せる。卵が焼ける音が屋台に響く。ある程度焼けたら返しで卵をひっくり返してさらに焼き上げる。その間にたこせんを半分に割り、そこに、ソース、マヨネーズをかけ、天かすを乗せる。最後に焼き上げた卵を乗せて挟む。


「たませんお待ち!」


 店主がアルミと紙で包み俺に渡す。


 一口頬張る。その瞬間に卵とソース、マヨネーズの風味が口いっぱいに広がる。これこそがたませんの醍醐味だ。


「うめぇ……うめぇ……」


 俺はその時ばかりはあまりの美味しさに語彙力を失った。

 たませんを頬張りながら仁太達がいるレジャーシートへと向かう。


「お、洋一、またたません買ったのかよ。飽きねぇな」


「そりゃもちろん。この味がいいんだよ」


 俺は潤也にたませんを一口食べさせる。

 パリッという音と共に潤也の口が少し嬉しそうな顔になった。


「うめぇ……うめぇよ」


 潤也も俺と同様語彙力を失った。やはりソウルフードなだけある。仁太も羨ましそうにしていたが残念ながら、潤也が一口食べたところで完食してしまった。


「俺も食べたかったよぉ……」


「悪いな、今度買ってやるから許してくれ」


「……しかたないなぁ」


 仁太は悔しそうにしているが、花火の空打ちの音が響き渡り、俺は仁太の肩をポンと叩く。


「ほらほら、もうすぐ始まるぞ」


 潤也が俺たちに声をかけ、俺たちは海の方をまっすぐ見た。


「さあ、今年もこの季節がやってきました。今年もみんなのSNSで花火と同時に流す曲のリクエストを受け付けてるぞ! ハッシュタグをつけてどんどん投稿してくれ!」


 この祭りではおなじみになっている花火大会でしか流れないラジオが会場に響く。


「投稿しようよぉ。もしかしたらリクエストした曲が流れるかもしれないよぉ?」


 そう言って仁太はスマホを出したがすぐに絶望したような表情になった。


「仁太、どうしたんだ?」


 大体のことはわかっていた俺は仁太のリアクションが見たいという好奇心から仁太に聞いてみる。


「電波が悪すぎるよぉ」


 それもそうだ。この会場にお浦勢の見物客がいるから電波が悪くなるのは必然。それを知らなかった仁太にも驚いたが俺は仁太が俺の予想した通りにリアクションをしたのが面白くて思わず吹き出してしまった。


「洋一ぃ、なんで笑ってるんだよぉ」


 仁太のことはガン無視して俺はスマホの画面に目を向ける。


「ええぇ、無視するのぉ?洋一ぃひどいよぉ……」


「まぁ洋一も洋一なりにフォローしてるんだから仕方ないさ」


 これがフォローになっているのかはよくわからなかったが、そのままスマホをじっと見る。


 そうこうしているうちにラジオが始まり、それと同時に花火が打ち上がった。間近で見るのですごく大きく感じる。


「さあ、今から打ち上げる花火にはメッセージが付いているぞ。まずは花火大好きさん。潤ちゃん、洋くん、これからも一緒だよぉ」


 花火がポンと打ち上がる。なんとその花火はハート型だった。そして、今のメッセージに何か引っかかるものがあった。


「ん? 潤ちゃん、洋ちゃん?」


 口に出したところでやっと理解した。仁太の方を見ると、ニヤニヤしている。


「驚いたぁ?俺からの贈り物だよぉ」


 その瞬間少しだけ感極まったが、それと同時に恥ずかしさが込み上げた。


「もう少し名前の呼び方を考えろ」


 そう言いながら俺は仁太の頭を叩く。


「はぁい」


 仁太は痛がりながら返事をした。そして、3人で笑い合った。


 これが中学時代の夏祭りの思い出だ。思い出すだけで笑顔になる。


「楽しかったなぁ……」


 俺は小さく呟いた。そして仁太に約束が守れなかったのが心残りだということに今気がついた。そして、何故か目から大粒の涙が溢れ出た。


「ごめん……ごめんな……仁太……」


 俺は声をつまらせながら、ここにはいないはずの仁太に謝り続けた。


 横で玲衣が心配そうに見つめている。


「洋一くん……」


 玲衣の目も赤くなっている。どうやら俺の涙にもらい泣きしているらしい。


「玲衣、今日の夏祭り、一緒に行こうな」


 玲衣は笑顔になって頷いた。


「うん!」


 そうしているうちに今日1日がすぐに過ぎ去った。


「洋一くん、どうですか?」


 玲衣は黒く長い髪を束ね、桜の花びらの柄の浴衣を着ている。どう答えたらいいものか……俺は悩んだ。彼女いない歴=年齢の俺には一番答えにくいものだが、ここは正直に答えた。


「うん、すごく似合ってるよ。可愛い」


 少し照れ臭い。


 その瞬間、玲衣は嬉しそうにもじもじした。


「ありがとう」


「それじゃあ行こうか」


 俺は玲衣の手を引いて病室を出た。


「あれ、玲衣さん、洋一さん、どうしましたか?」


 ばったり遼子に会った。遼子は驚いたような顔で俺たちを見ている。


「夏祭りに行くんです。今日なんですよね?」


 俺がそう答えた瞬間、遼子は下を向いてしまった。


「ごめんなさい。玲衣さんと洋一さんはこの祭りには参加できないんです。すみません……」


「え……それって……」


 俺たちは病室の前で時間が止まったかのように固まってしまった。

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