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インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第2節 8月編
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8月編 第3話 本日開催⁉︎夏祭り(1)

前回のあらすじ

思わぬ事故で玲衣にビンタをくらい、涼子から怒られた洋一。

それからというもの、玲衣とは口がきけない仲になってしまった……

 あの事故からというもの、俺は玲衣と顔を合わせることすらできなくなってしまった。


 顔を合わせようとしても、玲衣にそっぽを向かれたり、玲衣が俺に話しかけても目を合わせて話すことができなくなってしまった。


(こ、このままじゃこれからの闘病生活が苦になってしまう……なんとかして玲衣とのよりを戻さないと……)


 俺は考えた。しかし、そう簡単には見つからない。


 玲衣と話さなくなってから3日が過ぎた頃のことだった。


「失礼しまぁす! 玲衣さぁん、洋一さぁん、朝食をお持ちしましたよぉ」


 遼子がいつも通りの時間に朝食を持って病室に入ってきた。そして、いつもと違って何か様子が違う。


「あ、おはようございます。楽しそうですね」


「え? あ、出ちゃってますぅ?」


 遼子はハイテンションだった。


(なんか怖い……)


 俺は心の中でそう思った。いつもと違う遼子の様子から、今日はいつもとは違う治療があるのではと感じたからだ。しかしそれは俺の想像であり、すぐにそれは壊された。


「今日は年に一回の病院の夏祭りなんですよ。すっごく楽しいんです。屋台が出たり、患者の皆さんと花火をしたりと、まさに夏の風物詩ですよ!」


 遼子は聞いてもいないのに今日開催される夏祭りの話を始めた。


 話すこと20分。そろそろ遼子の話に飽きてくる。


「遼子さん……そろそろ朝食をください。冷めちゃいます」


「あれ? そういえば朝食を出していませんでしたね。今出します」


 遼子は大慌てで朝食を出す。続いて玲衣のベッドにも朝食を出して足早に病室を出て行った。


「あんな遼子さん初めてみたなぁ。それよりも今日は夏祭りか……そんなことやるなんて聞いてなかったし病院内にも予告されていないみたいだな」


 俺は独り言のように、それでいて玲衣に聞こえるくらいの大きさで呟いた。そして、遼子の長話によってすっかり冷め切った味噌汁をすすろうとした時だった。


 いきなり玲衣が大きな音で勢い良くカーテンを開けた。


「やっぱり洋一くんも気になるよね!?」


 俺は突然のことでびっくりして味噌汁を吹き出した。

 慌ててティッシュで味噌汁で濡れた部分を拭く。


「玲衣もか?」


 俺の問いかけに玲衣は微笑んだ。


「もちろん。こんな退屈な生活で気晴らしができるんだもん」


 玲衣の様子は子供っぽく見えた。それでいて、とても可愛い。そんな一面があるんだと改めて感心し、少しだけ頬のあたりが熱くなった。


「どうしたの?洋一くん」


 玲衣は上目遣いで俺を覗いた。


(だめだ……これは反則だ……可愛すぎる……)


 反則級の顔で見つめる玲衣を凝視することができず、そっぽを向いてしまった。

 しかしこれではまたすれ違いになってしまう。俺は意を決した。


「俺も気になるぞ。今日開催らしいから夕方になったら行ってみよう」


 すると玲衣大きく微笑んだ。


「うん、楽しみだね!」


 ウキウキした顔で玲衣はベッドに戻った。


(夏祭り……か)


 俺は朝食に口に入れながら中学時代の夏祭りのことを思い出していた。


 当時も彼女なんていなかった俺は同じクラスだった潤也と仁太と共に海から打ち上げられる花火大会に行った。


 俺たちは全員浴衣を着て祭りへと向かった。


「いよいよ今日だねぇ洋一ぃ、潤也ぁ」


 相変わらず仁太は甘えん坊だ。俺たちにくっついては引き剥がされる。良く懲りないものだ。


「お前はいつまでくっつくんだよ! 人前でやるんじゃねぇ」


 潤也が仁太の頭を強く叩く。


「痛いよぉ、潤也ぁ」


 それでも潤也にくっつこうとする仁太は次に俺にくっついてきた。


「洋一ぃ、助けてぇ」


 俺は仁太を引き離す。


「やだね」


 俺はただ一言で仁太を拒絶する。


 目の前には大勢の人がにぎやかに歩いている。浴衣を着て横並びで歩くカップル、親子……いつも以上にここは活気に溢れていた。


 花火大会の日は道路も封鎖され、歩行者天国になっている。道路沿いには屋台が立ち並び、焼きそばやフランクフルトなどの祭りでは定番の料理の香りが漂っている。それだけでお腹が空いてくるくらいだ。


「よし、そろそろ場所取りと行きますか」


 俺は潤也と仁太の腕を引っ張って前に進む。


「今年こそは……だな」


「今年はあそこで観れるといいねぇ」


「そのためにも急ぐぞ!」


 俺の声かけと同時にさらに足早に、いや、もうすでに走っていたのかもしれない。そんな速度で向かった先は花火を間近でかつもの凄い迫力でみることができる場所だ。柵から先はもう海だ。柵の前にはすでに何組かがレジャーシートを広げてカメラなどのセッティングをしている。


「よし、今年は場所が取れたな」


 俺はレジャーシートを広げて靴を脱ぎ、そこに腰掛けた。

 仁太はいつのまにか買っていた唐揚げを手に持っている。


「俺も屋台に行って何かを買ってこようかな」


 そう思い、立ち上がって屋台の方へと向かった。レジャーシートには仁太と潤也に座ってもらって行った。


 この地方には祭りでは有名なソウルフードが屋台で販売されているが、いつも行列ができていて食べることができなかったものがあった。それを今から買いに行く。


 それが俺が祭りで楽しみにしているものの内の一つだ。


「よし」


 俺は気合を入れてそれが売っている屋台へと歩みを進めた。

今回の回想シーンで出てきた花火大会はちゃんとモデルがあるんです。

地方名や花火を打ち上げる場所から想像してみると、洋一が買おうとしているソウルフードがわかる……かもしれないですよ。

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